091-血塗れの朝
翌日。
俺は仕立ての良いベッドの上で目覚めた。
外はとっくに地獄絵図だが、手を出すなと言ってあるこの館だけは大丈夫だ。
ああ、使用人は無事ではないようだが。
「ん?」
寝室から出た俺は、漂ってくる香りに意識を向ける。
血と腐臭の臭いではなく、香ばしい香りだ。
誰かが食事を作っているのか?
ハイブ兵にそんな器用な奴がいたかな。
「おはようございます、ハルキ様」
「千葉か、それに...フィレーヌだったか?」
「ええ、ベノムドミネーター様」
「フィレーヌ、ここではハルキ様と呼ぶように」
二人が、屋敷の台所で食事を作っていた。
俺は適当な席に座って、料理が運ばれてくるのを待つ。
魔法を使う調理器具のようだな、この世界での料理よりずっと短い時間で完成した。
「この量は食えんな、お前たちも喰え」
「はい、ハルキ様」
「御承りました」
三人分のティーカップが用意され、水色に薄く発光する茶が注がれる。
あまり美味しそうに見えないが、まあ毒ではないんだろう。
魔族と暮らして分かったが、こいつらと人間との生活の差異は魔力があるか、ないかだ。
それ以外は何も変わらず、人間に効く毒は魔族にも効く。
「なんだ、この味? うーん」
「お気に召しませんか?」
「何かの花のフレーバーか? まあいい」
俺は食べながら、二人の話を聞く。
この場所の指揮官となった千葉と、都市管理者であるフィレーヌという二人の人と魔族から情報を得る。
実に「前線司令官」らしい。
「状況を報告しろ」
「はい、アノラスは現在、人口の98%を失い、魔物に占拠された状況になります」
「計画通り、二百人程度は生かして「操り人形」に仕立て上げました」
「わかった」
この都市は湖の輸送で生計を立てているが、一日に数回便が来る。
事態が露呈してしまうからだ。
そこで、二百人を残して、堕落ではなくハイブのやり方で操り人形とした。
ここ数日のうちは、港を封鎖し、便を素通りさせる。
問題はない。
数日のうちに、俺は魔王城を陥落させるつもりでいる。
長引けば、俺たちの存在が露見するが、そうなればこの都市を隠す必要がなくなる。
「ん? これ、美味いな。刺身?」
「あ...はい、刺身です」
朝食には合わなそうだが、俺は並んでいた刺身を食う。
アルーン湖は綺麗で、生魚だろうと喰っても腹を壊したりすることはないそうだ。
「ハイブ軍の搬入状況はどうだ?」
「サバンからの輸送ルートを確立しましたので、大丈夫です」
大型のハイブ兵を、イビロンから出発してサバン経由でここに運び込んでいる。
強襲が失敗した時に、グロス・ザクラスを襲撃させるためのものだ。
「.....ハルキ様、焦ってはおられませんか?」
「...いや、焦ってはいない」
またそれか。
最近、よく急ぎ過ぎていると言われるな。
だが、俺は焦ってはいない。
ただ、次が早く欲しいだけだ。
踏み躙る機会が。
奪い取る機会が。
過去の自分に見せつける機会が。
欲しい。
......それだけだ。
俺は残ったパンを口に放り込む。
「計画を前倒しにし続けているからな、焦っているように見えたなら、今すぐその考えは棄てろ」
「はい」
「ええ」
俺はそう宣言すると、席を立った。
隠しきれない笑みを口端に浮かべて。
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