009-正しさとの衝突
翌日。
俺は無駄と分かっていつつ、人に相談することにした。
ここには逃げ場がない。
俺は何かものを言える立場ではないし、守ってくれる大人も居なければ、逃げ出してもあの化け物に殺されるだけだ。
でも、こんな状況でもクラスとしての秩序は保たれている。
だから俺は、クラスの秩序を守る学級委員のような役割を持つ一人に相談することにした。
「話したいことがある?」
「...そうなんだ、ちょっと裏に来て欲しい」
「分かった、力になろう」
森下は俺の相談に応じてくれた。
真面目と勤勉が服を着て歩き、会話もできて笑顔が素敵だからこそ、彼はクラスの秩序を守る事が出来るのだ。
「それで、どうしたんだ? 昨日は寒かっただろ」
「......内田......さんと柏木さんにやられたんだ」
俺は精一杯奴等の名前を絞り出す。
無意識に刻み込まれた恐怖心でついさんを付けてしまう。
森下が相槌を打ってくれたので、俺は堰を切ったように話す事ができた。
彼はほとんど質問をせず、俺の話を聞いた。
そして、
「......悪く思わないで欲しいんだけどな、それは君の責任が大きくないか?」
「...え?」
そう言った。
一瞬何を言われたか分からなかった。
俺の責任?
悪いのはどう見たってアイツらだろ!
「...どうして?」
「嫌なら嫌って言えばいいじゃないか? それか、あのテレンって人に相談すればいいはずだ」
それが出来れば苦労はしない!
俺はそう思ったが、相談しているのは俺だ、否定はダメだ。
「....言えるわけない」
「俺も、出来れば力になってやりたいんだが.....まずは二人にやめて欲しいと伝える事が大事だと思う、第三者が割り込むと、根本的な解決にはならない」
「..........」
そこまで聞いて、自分は期待を抱きすぎていたんだと気付く。
いくら秩序的なリーダー役でも、警察のように振舞えるわけじゃない。
「....わかった」
「ごめんな」
耐えるしかない。
そういう事らしい。
あの二人に面と向かってやめろと言ったところで、何の効果があるというんだ?
善の面しか見ていない人間にはその凶悪性は伝わらず、こうして否定されるだけという事だ。
森下からは、「あいつら、そんなに酷いやつだったのか? まあ、やめろって言わない佐藤も悪いと思うけどな」としか見られていないんだろう。
俺も別に、森下と付き合いが良いわけでもない。
善意から相談に乗ってくれたことには感謝するが、毒にも薬にもならなかった。
「特訓行こうぜ!」
「おけ!」
外から聞こえてくる声を聞きながら、俺は暫く宿舎裏に立っていた。
俺はこの先どうすればいいんだろう。
あいつらの嫌がらせに耐えながら付いて行っても、手柄も実際の実績もみんなあいつらのものだ。
いつか邪魔だと思われる日が来て、このゴミみたいな能力を抱えて一人で生きないといけなくなる。
いや、
「(考えすぎだよな)」
あの時言われた言葉を思い出せ。
俺は鍛え直す必要がある。
そうだ、まだ出来ることは残ってる。
存在感を示していけば、少しはましになるかもしれない。
淡い期待を抱いて、俺は歩き出した。
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