081-都市の要
ドゥームロードの大規模術式展開を経て、魔王軍は大混乱に陥った。
何しろ、単なる洗脳魔法ではないのだ。
〈洗礼聖域〉は、精神に潜む潜在的な悩み、慢性的な不安を信仰へ入れ替えて自己解決するものだ。
洗脳のような曖昧なものではない。
「うおおおお! 神のためにいいいい!」
「何なんだ、クソ!」
勿論、魔族の中には精神操作への耐性が高い者や、人間の魔術師対策で護符を身に着けているものがいた。
それで多少なりとも弾き、正気を保ったものがいたのだ。
素直に「洗礼」されていれば、幸せだったのだが。
友人、恋人、知己、上官、上司。
そう言った人間が、狂った事を言って殺しにかかってくる恐怖は計り知れないものだ。
「見つけた....そこか」
都市全体を「探知」の魔法で探っていたドゥームロードは、細めた目を見開く。
防衛術式の在りかを見つけたのだ。
都市の中央部から少しずれた位置の地下に、丁重に対魔法素材でドーム状に覆われている。
人間の侵攻を想定したものだ。
「ならば。――――〈神風〉!」
目的は術式の破壊ではなく直接の汚染である。
であれば、〈神雷〉や〈神焔〉ではドームごと破壊してしまう。
であればと放った一撃は、風の斬撃となってドームの上部を吹き飛ばした。
「ポイントバースト」
ドームの上の床を吹き飛ばし、ドゥームロードは露出した防衛術式を見下ろす。
次の儀式魔法を詠唱しようとしたその時。
地上から飛んできた巨大な矢が、重力魔法による結界に弾き飛ばされる。
「ん? なんだ?」
ドゥームロードは下を見下ろす。
その瞬間、地上から跳躍して来た魔族が、飛行でさらに加速して突っ込んでくる。
「貴様ぁああ!!」
「....神の御前で不敬だぞ、名を名乗れ!」
自信たっぷりにドゥームロードは言う。
その姿は、本来の世界の彼に寄っているようにも、酔っているようにも思えた。
「我が名はデイン・ノルチャー! 名も知らぬ魔術師よ、正々堂々勝負しろ!」
月光に照らされ、魔族の姿が目に見えるようになる。
獣の耳を生やした男だ、片手に弓弩のような武器を持っている。
それを構えた瞬間、凄まじい速度で射出された巨大な矢が、ドゥームロードの結界に衝突して逸らされる。
「生憎だが――――勘弁仕る。〈教化堕落〉」
「ッ....!?」
伸ばされた手から、更に「根」が伸びる。
それは即座にデインを汚染し、過去から記憶までを塗り替えていく。
「あ....」
「何をしている、早く都市の防衛設備を破壊しろ」
「了解です、教祖様!」
視線一つ動かさず、ドゥームロードは配下となったデインをけしかける。
その上で、防衛術式に手を伸ばす。
「〈神蝕堕落〉」
それは、魔法を堕落させる儀式魔法だ。
放たれた術式の効果で、都市の防衛術式は一瞬停止する。
その影響で、防御魔法が消え去り、洗礼の効果は都市全体に行き渡る。
「陥落だ」
ドゥームロードはそう言った。
防衛術式が堕落し、そして魔族たちは残らず洗礼の効果を受けた。
そう、前線に集結していた魔王軍の主力の殆どが――――
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