080-僭神を背負う者
夜。
俺はハイブ軍団の総戦力をアジラスの周辺に展開させた。
この状況で勇者が仕掛けてくる事は想定していないだろうな。
最後の「俺」が言う所によれば、戦争とは一人の英雄が道を切り開くものではなく、数と数のぶつかり合いが常なのだという。
だから、両軍の将はこの段階で仕掛けようなどとは全く思っていないと。
アジラスの要塞化が完全に終わる前に、俺たちで陥落させる。
幸いにも、アジラスは城壁補修中で侵入経路が無数にある。
「前哨基地を放棄してくれてたのは助かったな」
武器は破壊され、食料には汚水がかけてあった。
だが、ハイブには全く関係がない。
武器は鋳潰し、食料は汚染など関係なく貪り糧にする。
サバンから伸びて来たハイブの輸送ルートはイビロンに繋がり、イビロンは今やこちらの前線となっている。
いや、ハイブの前線だな。
深淵教団の前線はサバンだからな。
「ハルキ、襲撃の準備が完了したって」
「分かった」
俺は既にドゥームロードの姿だ。
だから、ハイブのネットワークに接続できない。
端末として七海を連れてきているが、若干不便に感じるな。
「仕掛けろ」
「うん――――〈氷河圏〉」
周囲の温度が急に下がる。
俺は防寒の結界を自分に張って防ぐ。
弱めの氷河圏の行使により、アジラスは今氷点下まで下がったはずだ。
ハイブ生物には影響がないが、魔族は人間とあまり変わらないようだから、充分効くはずだ。
「よし、そろそろ行くか.....七海は一旦下がれ。影響範囲ギリギリで待機しろ」
「おっけー」
俺はしゃがんで、そのまま上へ跳ぶ。
「飛行」の魔法が掛かり、地面へ落ちるはずの俺の体は空へと浮かび上がった。
詠唱が要らない低級の魔法は俺にも扱えるが、「俺」はそれを複雑に組み上げて戦うらしい。
それを簡略化するのが儀式魔法、「俺」が俺のためにせっせと作ってくれたらしい術式群だ。
「神」を制御するのも、そういう術式の集合体だとか。
『プログラミングみたいなものだ、魔法というのは体系化されて行くもので、俺の時代にはコードを書くようにして術式を組むのだよ』
夢で「俺」はそう言った。
信じてみるほかないだろうな。
「神に救いを求めよ、汝の敵を愛せよ、邪悪なるものを打ち払うために信仰せよ――――案ずる事は無く、聖堂はここに。洗礼の時は来た。〈洗礼〉聖域」
都市上空に、魔法陣が展開される。
....っち、やっぱり魔族の方が格上だな、抵抗されている。
「審判の時は来た、唯一なるもの(アロース)よ、御力を哀れなる信仰者たちに貸し給え。深淵に抗いし戦士たちよ、立ち上がり、天を仰げ――――深淵はそこにあり、天は深淵を見つめる。〈深淵聖域〉」
更に重ね掛けだ。
空の魔法陣が二重になり、どういう作用か重なり合って効果を増幅し合っている。
まだ抵抗が強いな、都市の防御魔法が強力すぎる。
俺がドゥームロードの力を引き出し切れていないか。
「〈神焔〉」
俺は手に浮かべた魔法陣からビームを放つ。
いや、明確にはビームじゃないらしいんだが、見た目はビームだしな.....
真っすぐに突き抜けた光が、都市の外壁を薙ぎ払って吹っ飛ばす。
「深淵の闇よ、我が声を聞け。遥かなる鼓動をもって、物質の世界へその牙を剥け――――〈第二封印解除〉」
俺は次の手を打つつもりで、記憶の中にある術式を、この世界に存在しなかったものを解き放った。
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