079-「最南端」の都市アジラス
アジラスは魔王国最南端の都市である。
「最南端」というのは、昨日サバン陥落の件が通達されたため、国境線が動き、周辺の軍が一斉に退却して来た上でのことだ。
都市の様子を、上空を舞う鷹のような魔物が観察している。
本来アジラスには、防諜用の対空装備があるものの、鷹には一切反応しない。
何故ならば、鷹は魔力を持たないからだ。
魔力線の繋がった人間側の魔法生物や、無理やり隷属させられている魔物による偵察ならば、魔力感知網に引っかかり、即座に迎撃が飛んでくる。
「俺たちはどこに?」
「七番の二に行け」
南門の方に目を向ければ、人の列が出来ていた。
二つの列に別れ、片方はサバンから逃げて来た非戦闘員の魔族、もう片方は撤退して来た軍隊に所属する魔族たちが並んでいる。
サバン周辺に展開中だった魔王軍は殆どの物資を投棄して撤退してきたため、ここで事前に通達された手段で宿と飯を確保しなければ干上がってしまう。
それは逃げてきた人々も同様だが。
既にアジラスの前線化は進んでいるが......
「クソッ、もう一杯になっちまうぞ」
「物資も全然足りないのにさ」
輜重の分配係たちは、現状に溜息を吐く。
サバンは制圧されて状況がつかめないが、問題はサバンとアジラスの間の中継基地にある。
滅ぼした人間の都市、イビロンを補修して前線基地としていたため、そこから撤退して来た魔族で溢れかえっているのだ。
本来ならイビロンを前線とするべきなのだが、魔王から直接の通達が響き渡ったのだ。
『足りぬ。相手は勇者である、廃墟同然の前哨基地で押し留めるには防備が余りに足りぬ。物資を使えないようにしてから撤退するのだ』
ここまで魔王が勇者を恐れる理由は、千年前の古魔王国の滅亡にある。
その際に異世界より召喚された勇者は、正体不明のスキルで一千万の魔族兵を薙ぎ払ったとされている。
当然、戦いにすらならずに古魔王国は滅亡し、魔族は散り散りになった。
多くは人間に捕まって奴隷になったが、数百年もかけて北の大地に勢力圏を築き上げたのだ。
今回、サバンはたった一夜で落とされた。
偵察の魔法が捉えた映像は崩壊した都市を映しており、魔王は勇者のスキルは千年前と同じだと判断したのだ。
......無論、これはドゥームロードの展開した都市防衛術式の効果によるものだ。
魔族の使っていた都市防衛術式を堕落させたものともいう。
偵察の魔法は即座に汚染され、贋の情報と共に術者を「洗礼」したのだ。
「物資なら、パラノラスの方から送られてくるってよ」
「故郷の村が心配だ.....戦争ばっかりで、冬は厳しいんだよ」
「俺たちはハラ一杯食べられるけどな.....おっかあが心配だ」
魔族も人間と悩みはそう変わらない。
魔法で比較的容易にしても、農耕は天候に大きく左右される。
くわえて何十年も戦争中であり、収める税も高い。
物資の集まる軍に属すれば、少なくとも食事は村にいた時よりは食べられる。
それでも飢える家族は心配であるのは、やはり魔族も同じなのだ。
「人間どもを殺し尽くせば、故郷に帰れるかな?」
「だけど勇者? ってのが来るんだろ?」
「所詮人間だろ? たいした強さじゃないかもしれないぜ?」
――――勇者の伝説は、特権階級しか知らない事実だ。
魔王が勇者を恐れる理由を、下々の兵は知らない。
「魔族が人に負けた」などという恥ずべき過去を、信じるはずもないのだが。
兎にも角にも、魔王軍の主力はアジラスに撤退しつつあり、前線化に向けて作業が進んでいた。
誰もが、勇者はサバンを王国軍の前線に指定し、軍を搬入しての反抗作戦に出ると思っていた。
だが、次の作戦は――――より早く訪れる事となる。
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