072-夜陰に紛れ
結局五時間近く待たされて、俺たちはアピッラへと入った。
商人たちと別れ、俺たちは軽く時間を潰す。
理由は、そもそも俺たちはアピッラに留まる理由がないからだ。
それでもアピッラに来たのは、この辺が前線でアピッラを経由せずに外へ出る手段が基本的に存在しない事にある。
国境線に沿って哨戒がいるからな。
信号弾のようなものが使われているようだし、下手に騒ぎを起こせない。
そこで、夜陰に乗じる事にした。
この世界の夜は、地球よりずっと暗い。
街の外はまるで、地球で夜の海を見たときのようだ。
何かが動いても気付けない。
「そろそろ行くか」
場所は北壁近くのスラム街。
サバンからの難民が集まっていて、俺たちは東洋人だから目立つ。
ただ、働きに来たはいいが金のない者の寄り合い世帯でもあるようだったので、こうして潜入させてもらった。
主に話してたのは小林と七海で、俺は黙ってただけだけどな...
「〈堕落〉」
俺はベノムドミネーターへと姿を変える。
そして、右腕から触手を引き摺り出した。
その瞬間、黒田と小林、七海がハイブ形態へと姿を変える。
蜘蛛に似た姿だ、最初は嫌悪感もあったが今はない。
地面を蹴って跳躍した俺は、凝固毒を纏わせた触手で北壁を登って行く。
その横を、三人が這い登って行った。
「兵士ハ居ナイカ」
何故か北壁の上に兵士は居なかった。
俺たちは壁を超えて、音もなく下へ降り立つ。
「小林、どっちだ」
「あっち」
堕落を解いた俺は、同じく元に戻った三人と一緒に北東の方向へと移動する。
哨戒が彷徨いているから、蟲を使って周辺を警戒しながら歩き、そして所定の地点へと辿り着いた。
「そこから出てくる」
「お」
地面から現れたでかい蟲が、また穴へ戻っていく。
何の疑いもなく俺は中へと入り、別の横穴に待機している蟲を見る。
もう一度埋め直すためだ。
このまま臨時拠点まで向かう。
こうすれば人間と魔族両方の哨戒に見つからない。
魔法による探知を警戒してはいるが、探知に大量に映る蟲を見れば俺たちは餌か何かにしか見えないだろう。
「しかしまあ、俺もまともな感性じゃなくなったな.....」
虫なんて見るのも嫌だったのに、今は手に乗せても大丈夫だ。
俺の望む行動しかしないのが分かってるのもあるんだろうが、恐怖心や警戒心が湧いてこない。
でかい蟲も、小さい蟲も、ここでは山ほど見る。
服の中に入られようが可愛いものだ。
〈堕落〉には精神汚染でもあるのか.....?
いや、慣れただけだよな。
「シュルルル」
「キリッキリッ」
蟲の声が近くなってくる。
角を曲がり、俺たちは広い空間に出た。
そこは、巨大な地下空間を丸々改造した臨時の基地となっている。
元々は基地を掘る予定だったが、たまたま手ごろな空洞が見つかった感じだな。
あとは消化液で地道に拡張ということだ。
「各員、その辺で休め」
「ええ」
「うん」
「おっけー」
俺は三人をその辺に追いやって、適当な場所に腰かける。
時間はかかるが、もうすぐサバン近辺への穴が貫通するはずだ。
それまで少し休もう。
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