071-『最前線』の街
三日後。
俺たちはアピッラに到達した。
到着ではない、というのもアピッラの南門に順番待ちが出来ているせいだ。
軍隊が通れる道だからそれなりに広いんだそうだが、だとしても出入りが激し過ぎるようだ。
理由は単純。
入るのは復興と需要に商機を見出した商人と、義勇兵、傭兵、そして何か仕事はないかと復興事業を狙って来た日雇い労働者たち。
出ていくのは故郷を追われ、前線から逃げようとする人たちや、戦えなくなった兵士や冒険者、家がなくなって知り合いや親戚を頼る難民だ。
出ていく人間の方が圧倒的に多く、門は一つしかないのでこうして混雑しているようだな。
当然治安も終わっているので、馬車列周辺は物々しい雰囲気だ。
「いつ入れるかわからないな」
「でも、馬車だけは優先して入れるって。だから夜には入れるんじゃない?」
「今のうちに寝ておくか」
俺は馬車の床に寝転がる。
荷車なので寝心地はまあひどいものだが、この辺はこの世界で過ごしたら慣れる。
現代が恵まれすぎてたんだ。
「進まねえな...」
「ねえ、暇なら...」
「外から見えるぞ」
俺は七海に手をヒラヒラ振って、馬車の天井を見つめる。
尾骶骨が木の板に当たって痛い。
少し横に体を傾けて、馬車の外から少しだけ見える空に視線を移す。
見る人が誰でも、場所がどこでも空は青いんだよな...って。
「進む様子すらないんだが」
「えーとね...最前列でトラブってるみたい」
「そりゃ起こるか...」
この世界は基本的にモラルも民度も最下部に張り付いている。
生きる糧を得るために皆必死だから、他人を気にしたり思いやるといった思想は欠如している。
そういうのは商人とか貴族とか、金を持ってるやつの思想だからだ。
金持ち喧嘩せず、というわけだ。
「邪魔だねー...操っちゃう?」
「ここで騒ぎを起こすのは避けたいな」
アピッラにはもうしばらく「前線」でいて貰う。
そのためにここで騒ぎを起こすのは避け、サバンを最優先で狙う。
「中島からの情報では、勇者スキルはかなり強力だ。寝首をかくのも難しいだろうから、会敵は最後まで避ける必要があるんだ」
「何でそんなに慎重なの? 負けてもいいじゃん、一回くらい」
「ダメだ!」
俺は起き上がった。
それだけはダメだ。
あいつが一度でも勝ったら、また証明してしまう。
勝者が常に勝者だって。
それは許されない。
「...悪い、だが、それだけは駄目だ。あいつが苦しむ姿を見たい、だからじわじわと潰すんだ」
「堕落させちゃったら、ダメなんだね」
「そうだ」
ああ。
その通りだ。
別に俺が王都に電撃帰還して全員堕落させれば、それで終わりかもしれない。
だけどそれで満足するわけがない。
仲間を奪われ、ご自慢の才能も通用せず、誰も助けてくれず、嘲笑われ嬲られる。
俺と同じ目に遭わせてやる...!
「そろそろ昼だな」
「あ、そうだね。関係ないから忘れちゃってた」
俺は荷物から堅焼きビスケットを取り出す。
日持ちはしないが、硬さはパンよりはマシだ。
これで昼にしよう。
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