070-アピッラへ
一週間後。
シーアルーンから、馬車隊が旅立った。
今回は勇者が三人護衛という事で、だいぶ物々しい雰囲気だ。
...表面上は。
「流石に前回より多いんだな」
「必要なのは食料だけじゃないみたい、薬とか包帯とか、服とかもたくさん積んでるんだって」
俺の隣に座る七海が言う。
黒田と小林は今回別の車両にいるので、ここは俺たちだけだ。
俺たちの仕事は護衛もそうだが、馬車同士を結えてある部分の監視もある。
今回は運ぶものが多いだけに、馬を三頭用意して荷車を二、三台連結するという強引な手段を取っている。
馬が疲れやすくなる為、一回の休憩は長くなるが、輸送量は確かに大きくなるらしい。
ただし、この手が使えるのは生活必需品の荷を載せている時だけで、建材や割れ物を運ぶ際には一台でまとめるとか。
「次の目的地...サバンだっけ? 大丈夫なのかな」
「魔王軍に占領されていて、皆殺しというわけではないが捕虜が数十人規模で残っているそうだ」
「あっ、サバンじゃなくて...アピッラだっけ?」
「馬車の方はな」
サバンは既に魔王軍の支配地域だ、そんなところに突っ込んで行っても隊商はただ略奪されるだけだ。
いや勿論、略奪されないだけの戦力の集合体ではある、しかし目で見たままの事実を維持するのが復讐の近道だと、もう一人の俺が教えてくれた。
馬車隊は手前の今の前線である都市、アピッラへと向かう。
勇者はまだこの都市には訪れていないので、独断専行した事になっているこの三人が最初に魔王軍と戦う勇者だ。
「俺たちはアピッラに到着次第、そのままサバンへ向かう。既にサバンとアピッラの中間あたりにハイブの地下基地が建設中だ」
「おー」
ハイブ本拠地から大深度を掘り進め、王都の北部を突っ切って、魔王軍との前線である北端部までぶち抜いた。
移動に時間はかかるが、見られる事なく行軍させられる。
「暇だね」
「今日はやらないぞ」
その時、唐突に七海が話を振ってくる。
一週間前、俺が罪悪感と自分の欲求の板挟みになって一線を超えた日以来、一気に積極的になった。
これはハイブ本能とは別の様な気がする、そう信じたい。
次はメリジューヌだ、流石にどうやるかは知らんが...
1人に手を出した以上、言い訳は効かない。
全員相手にする覚悟でないと、ハイブの王は務まらないようだ。
IFの世界の俺は相当なプレイボーイだったに違いない...くそっ。
「えぇー? あたしはシたいけど」
「馬車の中でか? ただでさえ座ってるだけでも辛いんだからな」
「でも、ドミネーターの姿ならいいでしょ?」
「あれは...うん」
俺の想像してなかった機能が色々あった。
脳内でベノムドムネーター形態のそっち系の機能が増えたような感覚がする。
「それより、次からは別の姿も使う。混乱するなよ?」
「うん、どんなに変わってもハルキはハルキでしょ」
「その台詞...」
白々しい、と言おうと思ったが、もうヤった身だ。
ただならぬ仲って事でいいだろう、多分。
言ったように、ベノムドミネーターばかりを使うフェーズはもう終わりだ。
隠密に特化したハイブではなく、それぞれの特色を持つ「俺」を使って行くべきだろう。
「俺が別になると、ハイブへの指示が出せなくなる。いざという時は頼むぞ」
「おっけー」
指揮官個体は単独戦闘能力もある七海に任せる事にする。
いざとなれば最大パワーの〈氷河圏〉で全員休眠状態にして逃げる事もできるからな。
「もうすぐ夕暮れだ、次の村に着くと思う」
「支配するの?」
「いいや?」
ここは周囲にハイブ勢力が無い。
やめておこう。
俺は向かい側の馬車を見ながら、今後について考えていた。
ストック確保のため、一週間の休載に入ります。
ご了承ください。




