069-魔王国への侵略
さて、勇者を十人堕落させることができた今、次の目標が必要だ。
今までは舞台装置が揃わなかったので大きく動けなかったが、大胆に行く必要が出て来たと俺は感じている。
ちまちま動き続けると、本当にあいつらが英雄になってしまうだろうな。
いや、英雄になっていただく事自体は俺も望むところだ。
人生の絶頂から引き摺り落とす方が、復讐にはなりうる。
だが漁夫の利は狙いたい。
つまりは、
「次の目的地は魔王国だ」
会議の場で、俺はそう宣言した。
場所はハイブ本拠地、地下五層。
その場には白石、黒田、小林の三人と、メリジューヌ、今回の迷宮で新たに仲間に迎えたシリウス(瀕死だったボス魔物)が揃っている。
命名の理由? 尻が薄いから...ではなく、昔見た映画で同じように黒い犬に変身するやつがいたからだ。
といっても犬ではないから大きさは桁違いだが...
「けどさー、魔王国に攻め入ってどうすんの? 私たちはいいけど、ハルキ様は正式な勇者扱いじゃないから、名誉は手に入らないでしょ」
黒田がそう言ってくる。
実際、その通りだろう。
だが俺は構わないと思っている、何故なら。
「俺たちの目的は魔王を倒す事ではないからな」
「内側から支配する、ということ?」
「そうだ」
小林は鋭いな。
俺は漁夫の利を狙う、勇者であるあいつらは必ず魔王国へと攻め入るが、その時すでに魔王軍が俺の傘下にあるのなら、潰し合いの中に介入もできるし、強化して勇者を打ち負かすこともできる。
挫折なんてなさそうな人生のあいつらにはよく効くだろう。
「シュルルル...」
「ああ、そうだ。次もこっそりと行うぞ、少なくとも異変が外に伝わらないようにしてから、大きな攻勢に出る必要がある」
計画としては、魔王国外周部の都市を堕落させていき、事実上の包囲状態を作りたい。
そのためには地理を知る必要があるが、調べる方法がないな...
「坂本、生物との情報共有の最大範囲はわかるか?」
「基本的に制限はない...かな? 大丈夫、私が...いれば...」
自信なさげに振る舞う坂本だが、仕事モードとのギャップが面白いな。
その気になれば腹を破って生物を吐き出せる娘が...いや、
こんな視点はよくない。
俺は図に乗りすぎている。
「分かった。では坂本は、小型の鳥型ハイブを複数放って地図を作ってくれ」
「う、うん!」
「黒田は穴掘り用の屍兵の用意を、小林は引き続きハイブの生産を続けてくれ」
「分かったわ」
「了解」
今回も、ハイブの本拠地からトンネルを伸ばす形で兵を送り込む。
幸いにして蟲が中心だから、穴掘りと巣作りに関しては得意だ。
穴を掘り、巣作りの要領で補強する。
もうすでに作業を開始しておいた方がいいだろう。
「出発は一週間後、明日シーアルーンに買い出しに行ってくる」
「あたしも付き合うー」
「ああ」
旅に必要なものの他に、隊商の手配が必要だ。
シーアルーンは余剰物資を積んで前線の街へと向かう。
その際に勇者が同行して治安を回復する...という名目だ。
これをやるために、シーアルーン側と無理のない調整をしないとな。
「では、解散」
「はーい」
俺も出かける支度をするか。
立ち上がった俺は、誰かに手を掴まれた。
振り返ると、白石が俺を見ていた。
蛇のような視線だ。
俺は溜息を吐く、こいつらを辱める為に堕落させたのに、俺がそれだけはと尻込みするのは逆に失礼だ。
「後悔するなよ」
「うん」
俺は白石を連れて、最奥へと向かった。
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