007-卑屈は最大の防衛
討伐を終えて、俺たちは再び戻って来た。
あの後、みんなは思い思いに集まって来た魔物を倒して、テレンはその度に驚きっぱなしだった。
だが、俺は全く活躍できなかった。
格好つけて前線に出たものの、爪で引っ掻かれてむしろ怪我してしまった。
治してもらおうと思ったが、治癒が出来るのは伊藤莉乃だけ。
彼女はカースト上位で、俺のような底辺には見向きもしないだろう。
むしろ取り巻きにバカにされるに決まっている。
それでやって来た奴らにイジられて、惨めな思いをして結局何も得られない。
「おい、その怪我なんだよ?」
「あ...」
だが、勿論。
こんな目立つ怪我をしておいて、周りが俺を空気のように扱うはずがない。
こいつらは悪魔だ。
普段は興味がないくせに、承認欲求を満たして満腹の時にデザートを食べるように、不幸になった俺を弄ぶ。
「何でもない」
「さっき怪我したんだろ」
「保健室...はなかったよな」
「大丈夫!?」
「絆創膏....はないや」
一見優しそうな声かけに見える。
ただ、結局は善意じゃない。
俺に話しかけた奴。
それに同調した奴。
大丈夫?と言った女子。
皆、何か面白いものを見つけたかのように目を輝かせているのが、分かる。
一度でもイジリの名目で尊厳を穢された人間にしかわからない感情だ。
唯一絆創膏を出そうとしてくれた女子も、結局は周囲に対する慈悲深さのアピールでしかない。
「なめたら治るぜ、舐めてやろうか?」
「汚な~」
「塩とか塗ったら? 塩泉とかあるじゃん」
「傷口に塩を塗るって言うじゃん、ダメだよ」
「痛いのは治ってる証拠!」
「ッハハハ!」
勝手に盛り上がる一同。
俺の価値はその瞬間に消費され、そして誰も気にしなくなる。
いや、正確には、俺という存在は話題の中心にされ、「貶してもいい」「貶めてもいい」そんな扱いを受ける。
それが嫌で、俺は聞かなかったことにして食事を続けた。
ただ噛んで、飲み込んで、喉に詰まったら水で流す。
味はしなかった。
夜、俺は一番端のベッドで眠る。
合宿の経験から、あいつらの輪の中にいると寝ている間にいたずらをされる。
顔に落書きとか、そんなチャチなものではない。
裸に剥いて写真を撮ったり、寝顔を勝手にSNSにアップロードしたり。
奴らに倫理観は無い。
楽しめればそれでいい。
仲間と同調したいがために、あるいは仲間に見放されないために。
抵抗しない、出来ない相手を消費しつくす。
それが人間の社会だって?
間違いない。
「...........」
遅くまで喋ってるって事も無く、あいつらはさっさと寝てしまう。
スマホもないのだから、当然だ。
当然のように健康的で、当然のように有象無象と比べて模範的。
教師が目溢ししたくなる程には実家も太い。
だから俺は何もできない。
マジョリティにマイノリティは対抗できない。
ただ蹲って、何もせず黙って。
それが、救ってさえくれなかったセーフティーネットが機能しないこの世界で俺がやるべき事なんだ。
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