064-真のボス
五層へと辿り着いた凛たちは、そこで階層のボス...即ち、奥底を守る魔物と対峙していた。
最初の迷宮が竜だっただけに緊張は大きかったが、全員の前に立ちはだかっていたのは大きな狼のような魔物だった。
確かに数は多いが、〈元素魔導〉と〈炎王〉のスキルによって殲滅される。
「くそ、数だけ多くて面倒だなっ」
「集中しろ、囲まれっぞ」
「わかってらぁ!」
西村が叫びながら、狼を地面に引き倒す。
〈獣王化〉により獅子の姿をとった西村は、人間を超えた膂力を発揮する事が出来るのだ。
それを木下の〈複製魔法〉と小林の〈無限収納〉によるコンボで増産した装備で支える。
非戦闘員の二人でも、こうして戦闘で大きなアドバンテージを支えることができるのだ。
「(私は、役に立ててる?)」
しかし、凛は不安を覚えていた。
結局収納の力など、戦闘においては役に立たない。
この世界において、彼女を担保するものは何もない。
正しくあることが価値を持たない世界で、切り捨てられることを現実主義の彼女は何より恐れていた。
「火焔!」
上野彩葉が、〈元素魔導〉スキルによって魔法を発動する。
上に向けて噴き上がった炎が、〈炎王〉を避けていた狼の群れを纏めて薙ぎ払った。
「中島君!」
「おう!」
中島が突き出した手から、巨大な火の玉が生まれ出る。
それが群れを突っ切り、道を切り開く。
ボスの狼が、逃げようとするのを中島が追った。
しかし。
「なっ!?」
何処からか高速で飛んできた何かが、狼を地面に縫い付ける。
全員の目の前で、狼は動きを止めた。
最初に気付いたのは、やはり小林凛だった。
「皆、後ろから来る!」
「ちっ!」
最初に前へ出たのは、西村だった。
それが正解の選択肢だったのか、そうでなかったのかは誰にもわからない。
第四層への降り階段を駆け上がってきたのは、動く死骸の群れだった。
黒田のスキルによって生み出されたものである。
それらは波のように全員へと襲い掛かり、
「中島くん!」
「わかってらぁ!」
中島のスキルによる炎で消し飛ばされた。
だが、それは本命ではない。
「見誤ッタナ」
その声を聴いたのは凜だけだった。
そして、その声を発した存在がどこに居るかもわからなかった。
彼は天井にいた、凝固毒を足場にして。
「コレホドノ数ヲ一度ニ確保デキルトハ」
ハルキは呟くと、機を待った。
それはすぐに訪れる。
弾幕を破った〈胞子姫〉の麻痺の胞子が、全員の気管へと侵入したのだ。
「なっ、これ....」
「動け....」
自体を把握した時には、既に遅い。
全員が動けなくなったのを確認したハルキが、地面に降り立ったからだ。
「上出来ダ、彩乃」
「ハイ」
死骸の山の中から、一人の影が現れる。
その声を聴いた瞬間、動けない勇者一同に衝撃が走る。
裏切るの筈の無い人物が、自分たちを害していると察したからだ。
「あ...の....」
「なん.....」
「あなたたちには関係の無い事ですよ」
酷く冷たい声で、彩乃がそう言い切った。
その横で、ハルキが腕から触手を伸ばす。
こうして動けなくしてまで捕縛した、真の意図を実行するために。
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