056-夜の出来事
夜。
宿屋の部屋に、数人が尋ねてきた。
俺は見つからないようにフードを被ったまま、クローゼットの中に隠れていた。
「彩乃、千尋、遥香。久しぶり」
「おひさー」
「二人部屋? 男囲ってんの?」
「ご、ごめん、千尋今気が立ってて....」
三人分の聞き慣れない声が響いてくる。
今すぐ堕落させたいが、多少話をさせてやるべきだろうな。
すぐに俺たちと同じ化け物の仲間入りだ、せめて人間らしく話を。
「一人部屋だと狭くって、冒険者の人と泊まってる。今日はお出かけ」
「密会だよー絶対」
「男が愛とかないから」
お前らも無いだろ、快楽物質一つで男を服みたいにとっかえひっかえする癖に。
突っ込みたくなったが、性獣といって差支えの無い俺たちを揶揄する相手の言葉と違って、俺の言葉は偏見に満ちている。
たいして意味を持たないだろう。
「シーアルーンにいたんじゃなかったの?」
「向こうはひと段落したから、自由に動けるようになっただけ」
「大変だね.....」
「みんなはどうしてここへ?」
「どうしてって.....まあ? 中島がね」
「迷宮で冒険したいって聞かなくて、じゃあ私達でチーム組んで遊びに行こうってわけ」
随分、緊張感がないな。
一人死んだのに、悲愴も恐怖も乾くのが速いらしい。
まあ、そうなんだろうな。
こいつらにとっては人生はそんなものだ。
楽しさと少しの悲しみしかないからこそ、次から次へと誰かを不幸にしながら時間を消費していく。
その不幸は少数だから、悪ではないし気にも留めない。
「めっちゃ軽くない? 一人死んだのに」
「あー....? あ、そうね」
「だけどさあ....悲しいは悲しいよ? でも空気みたいなもんじゃん」
「思い出も特にないし....忘れてて、ごめん」
酷いもんだな。
俺が先生に怒られて謝ってる映像にクラス全員がいいねを付けていたのに。
あれがイジリの一環だと思ってるのか?
立派ないじめだぞ。
まあ、怒りは別にいい。
実際、空気みたいなもんだったんだろう。
だから俺の怒りに正当性は無い。
「そういえば、千尋って強いスキルだったよね? 離れてよかったんだ」
「神谷が不気味だって言ったんだよ、それで柏木がハブりやがったの」
「あのごますり野郎はさ」
神谷は家が太いからな。
中学から一緒の奴等からすれば、前のイジられ役はあいつだったらしいが.....俺がその後任を担うや否や、驚くべき転身を見せた。
「まあ、私も不気味だと思ってんだけどさ。ゾンビの群れとか、こっちが魔王軍みたいじゃん?」
「パニックホラー映画みたいな絵面だもんね」
へえ、軍団を作る系統か。
手に入れれば便利そうだな。
「私なんて「毒姫」だからさ、よく笑われるんだよね」
「しっつれいー!」
笑われるだけで済んでよかったじゃないか。
さて、そろそろ外に出るべきだな。
俺は白石にネットワークを通じて呼びかける。
『そろそろやるぞ、退路を封じろ』
『ハイ』
「そういえばさ、あたしの同室の人の事、気になってない?」
「あ、マジ?」
「教えてくれんの?」
「きっと驚クヨ?」
白石の声が不気味に歪むと同時に、悲鳴が聞こえてくる。
俺はその隙にクローゼットの扉を開き、
「〈堕落〉」
ベノムドミネーターへと変化する。
そして間髪入れずに、
「〈侵蝕堕落〉」
「ひ、ぎゃあああああ!」
「痛い、痛いイタイ....」
「なんで、なんデ....」
侵蝕した。
白石は命令通り、蜘蛛のような形態に変化してドアに張り付いていた。
「おい! 中で何やってる!」
騒ぎを聞きつけた宿の主人が、すぐにやって来る。
だが。
「すみません、ちょっと吃驚しちゃって」
「驚カセテゴメンナサイ」
「ああ、ちょっとした事故だ。夜に済まない」
「チッ....まあ、あまりうるさくするなよ」
そう、何も無かった。
ここでは何も起きなかったのだ。
こうして、三人は化け物の仲間入りをする事になった。
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