055-スローマ観光
翌日。
俺は宿屋で目覚めた。
この世界の宿屋といえば、木の板にシーツをかけただけのベッドが多い。
もっと酷けりゃ藁の豪華なベッドだ。
白石はちゃんとしたベッドの宿屋だったらしいが。
「うえ~......昨日拭けばよかったぁ」
「だから言ったんだぞ」
井戸水は冷たいから、白石は清拭を嫌がっていた。
もうその程度で冷気が浸透する身体構造ではないだろうに。
寒がりながら体を拭く彼女を横目に、俺は今日やる事を考える。
まずは、この街にいる勇者を何とかして一か所に集める必要がある。
だが、漏れがあるといけない。
だからこそ数人だけ抜き出したいが.....
「白石、どうやって連絡を取る気だったのか教えてくれ」
「手紙書けばいいと思って。昨日の帰りに便箋セットも買って来たんだ」
「よくそんな金があったな」
「道中で魔物を売って稼いだんだ」
素材を回収していたのか。
そういえば性格を模倣しているだけで、倫理観や嫌悪感は人間のものではないんだったな。
今さら殺しや血など恐れないだろう。
「じゃ、任せる。俺はもうひと眠りしたい」
「いいよー」
俺は木の板ベッドに再び寝転がる。
脊髄が硬い板に直撃し、慌てて少し体を傾けた。
生活、食事、睡眠。
全てが快適とは言えないのに、体の方は何とか順応できている。
不思議なもんだ。
「迷宮と冒険者の都市っていう割に、居住区が多いよな」
「仕方ないんじゃない? だって、別にこの世界って迷宮に依存してるわけじゃないし」
午後、手紙を出し終えた俺と白石は街へと出た。
よほど派手に動かない限りは、あいつらには見つからないと信じたい。
やる事がないんで仕方ないんだ。
観光資源もあるんだろうなと思った俺だったが、あるのは居住区ばかりだった。
やはり、産業や文化といった都市に必要なものが欠けている。
ここは都市というよりは迷宮を前にした前線基地なんだ。
「でも、シンボルみたいなのはあるっぽいよ?」
「あるのか」
「宿のおじさんが言ってた」
時間潰しにはならないだろうが、一応行ってみるか。
そう思ってみたはいいが......街の中心部にあるのかと思っていたそれは、街の外れにあった。
「なんか神社みたい」
「ああ、確かに?」
木々に覆い隠された中に、星型の石像があった。
不気味にも、長い間放置されているのに苔むしても欠けてもいない。
ヤバそうだし、触れない方がいいだろうな。
「ね、写メ撮ろ」
「スマホは電池切れじゃないのか?」
「ずっと電源切ってたし、一枚くらい」
取り出したスマホを起動する白石。
仕方なく、俺はフードを撮って彼女と一緒に写真に映った。
地球だったら、後でクラスRINE行きで、翌日にイジられるのが確定だったな。
「あ、切れちゃった......もう充電できないのに~」
「いや、俺のスキルなら....」
「え、出来るの!?」
「....また今度な」
俺の〈堕落〉はベノムドミネーターだけではない。
他の姿に充電が出来そうなのが居るが、ここで堕落を使う訳にもいかない。
落ち込む白石を無視して、俺はモニュメントの前から立ち去った。
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