052-馬車の車窓から
翌日。
俺と白石は、旅の支度を整えて東門の前へと立った。
既に商人たちの馬車が列を作っており、ハイブ生物と化した馬が不気味に突っ立っていた。
「よろしく頼む」
「ええ、よろしくお願いします。お二人は後ろから二番目の馬車に乗っていただきますので、急いでくださいね」
「分かった、ありがとう」
八列ある馬車の中で、六列目までは覗くと荷物で一杯だったが、七列目は比較的荷物が少なく、八列目は荷馬車ではなく人員輸送用っぽかった。
俺たちの表の立場では、これが妥協のラインだろうな。
少なくとも徒歩よりはだんぜんマシだ。
「じゃ、お客さん。出発するんで掴まっててくださいね」
「ああ」
木の軋む音と共に荷台が揺れた。
揺れはそのまま延々と続く。
流石に慣れたけどな。
旅の道中は、暇なものだが...話し相手がいれば、それも大した事ではなくなる。
前回は交易商が相手だったが、今回は白石だ。
「白石はこういう旅をした事あるのか?」
「ないけど、馬車には乗ったかな。こんなに揺れないはず」
「高いやつか」
サスペンションの類は何故かあるようだからな。
高い馬車はほぼ揺れない。
勇者チームは歓待を受けて当然だ、それはこの世界の平均的な人間の強さを見てよく分かった。
魔物がしぶとく強力なのに対して、スキルがあっても人間には厳し過ぎる環境だ。
だからこそ人間は魔物を避け、城壁で高く囲んだ街に住まう。
「いい宿に泊まってたんだろ? どうだったんだ?」
「お風呂が付いてる事くらいかな...あ、でもお肉はよく出たかな?」
風呂か...
そういえば、俺は堕落すると汚れも何もかも吹き飛ぶから、気にしたことが無かった。
服は堕落している間はどっかに消えてるしな。
それでも気持ち悪いから、清拭は欠かしてないけども。
「...日本って、食文化が発展してたんだなって思ったよ」
「まあな」
文明的にはかなり昔とはいえ、想像していたより食文化はひどいものだった。
硬いなんてものじゃないパン、味付けが塩しかないスープ、基本塩漬けの野菜、肉は無くよくて魚、悪くて豆が中心だ。
都市長の所で肉は食わせてもらったが、家畜の肉でも硬くて獣臭い。
脂肪が少ないって言うのかね?
魚はそんな変わらなかった分、肉が際立ってアレだったな。
まだ胡椒とかの香辛料も無いようだ、地球でいうところの大航海時代前にあたるのか?
それにしては発展しすぎな気もするが、異世界だからな。
その辺はおいおい調べよう。
「暇だよね」
「? ああ」
その時、俺が発言していないのに、白石から話を切り出してくる。
珍しい事もあったものだと思いつつ耳を傾けると、
「ねえ、暇ならシない?」
「やめろ、気色悪い」
どうでもいい話だった。
元が知り合いだとますます気色が悪いな...
俺は別に、殺さないで堕落させる目的は助平ではない。
堕落させて、その有り様を嘲笑いたいからこうしているだけだ。
駒としても交渉役としても使うことが出来る、一石二鳥だ。
「残念」
「ハイブとしての本能がそうさせるだけだ、擬態元の精神を反映しろ」
「...本当にそうなのに」
「ん?」
んなバカな。
それは虫がいいを超えてビッチの領域だろ。
ハイブ本能の悪影響は意外と侮れないな、命令を聞かせやすくする分には便利だが、こういうデメリットもあるのか。
「旅の方、前の方から旗信号がありました。魔物が来るそうです」
「.....ちぇ」
「そうか。行くぞ」
俺は入り口に立つ。
基本的に居候の俺達でも、こういう時には役に立てるからな。
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