051-家でのひととき
数時間後。
俺は「自分の家」の椅子で寛いでいた。
ああ、自分の家と言うのは語弊があるか。
「一家郎党死んで住む人がいなくなった家」を元大家のハイブから借りているに過ぎない。
もとは四人家族だったらしいが、夫婦は逃げようとしていたところを殺されたし、二人の息子は両方守備隊にいて死んでいる。
俺のせいだが、殺し過ぎてもう実感もクソもなくなった。
蟲共が肉を綺麗に食ってくれたので、一応埋葬はメリュジーヌと二人でやっておいたが.....
墓の掘り方なんてわからないので、全員分の骨を穴に埋めて、上に石碑を立てた。
ハイブ共の連携のお陰で、誰が死んで誰がハイブになったかも分かっているから、石碑に刻む係を付けておいた。
これでまあ、化けて出てくる事は無いだろ。
「しかしまあ、準備に時間はかかるか」
一日は待たされる。
あいつらもそんなに短くは滞在しない筈だが、ここから突っ切っても四日はかかる距離だ。
村に立ち寄って支配しておくなら、一週間かかる。
なるべく早く発ちたいが、体裁ってものが今の俺には必要だ。
死んだはずの俺が生き返って、偉くなって再登場! なんて冗談でも疑われる。
あいつらには精々異世界冒険ファンタジーの人生を楽しんでもらい、目を背けさせないといけない。
「恨みはない、恨みはないんだが.....」
柏木や内田に比べれば、「嫌い」という印象しかない面々だ。
それでも俺は、復讐したい。
だってこれは、恨み辛みなんて関係の無いものだ。
復讐したいんだ、何の合理性も理由も由来もあったものじゃない。
ただ、そう願って行動に移している。
「ま、いいか」
今考えるべき事ではない。
俺は部屋の外から漂ってくる匂いに意識を取られる。
白石が昼飯を作っているから、その匂いだろうな。
ハイブと化したあいつは人間の食事をする必要が無いが、俺の財布を案じて料理を作ると言ってくれた。
その優しさには感涙極まるが、ハイブ生物としてそういう振る舞いをするだけだ。
「....」
クローゼットを開けて、別の服に着替える。
都市長が俺の為に三着贈ってくれたので、これからは俺の普段着は三着だ。
気軽に洗濯屋に頼める懐事情でもないので、汚れていい服を選ぶべきだろうな。
「白石、どうだ?」
「あ、ちょっと待ってて~」
厨房に顔を出すと、白石がかまどと悪戦苦闘していた。
ハイブのネットワークを使えばいいのに、白石だったこの個体はそうしない。
個体によって癖があるのかもしれないな。
「先にパン食べてて」
「あ...ああ」
俺はダイニングに戻る。
今は二人なので、端に誰かのものだった椅子二つが置いてある。
真ん中のテーブルの上に、バケットに入ったパンがある。
クソ硬いやつだな、確か。
収入はゼロだから、まあ正しい選択ではある。
柔らかいパンを買う余裕はウチにはないのだから。
「はい、今日のお昼~」
「何だこれ?」
「あたしも分かんない、多分...多分ポトフ?」
「....頂くことにする」
かまどの使い方が分からず、苦労した結果近いものが出来たらしい。
俺は彼女に感謝しつつ、木製の匙を取る。
味は悪くなかった。
どちらかといえば、後悔したことは全部食べてしまったせいで、パンを水で戻す羽目になったことくらいだ。
スープに浸していたら、もっと美味かっただろうな。
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