堕落者の記憶 白石七海
章ごとの堕落者一人にのみ割り振るエピソードです。
あたしの名前は、白石七海。
昔、世界には七つの海があると信じられていて、世界を繋ぐような存在になるようにって願いを込めてお母さんから貰った名前だ。
.....でも、あたしにはそんなの無理だった。
中学で、ほんとにそう思ってたけど、高校に入ってからは違った。
クラスに入ったあたしは、色んな子とお話しした。
でも、ついていけなかった。
モチロンすぐ誤魔化したけど。
「白石さんってちょっと硬いよねー」
「えー、そう?」
「もっとユルくていいっしょ」
そういう会話を経て、軽い態度で接したけど、その結果待ってたのは予想とは全然違った結果だった。
「は? なに?」
「いや、だから...」
「話しかけないでくんね」
あとで知ったけど、あれは「皆の仲良い空気の中で」だけ軽くていいよって事だった。
クラスの中心のほとんどは飯島中学校から上がってきてるから、その中だとものすごく仲がいい。
でもあたしは何でもない一人で、話の中にいない時はまた別で仲良くなんないといけなかった。
大変だったけど、おかげでカーストの中くらいの位置に収まることができた。
恋愛とかはムリだけど、運動部の人たちとカーストの上の子たちの恋愛を見守る事ができるくらいの立ち位置。
だからあたしには、傍観することしか出来なかった。
「ああ〜ハルキ? あいつキモイよなぁ」
男子が閑話休題の時によく話題に出す彼。
目が悪そうなのに後ろの席に座って、誰とも喋らないし休み時間は本を読んでる。
嫌がってるのに弄られてるのをよく見てた。
でもあたしには関係ない。
湊が春樹くんのせいにしてたけど、見せしめるかのように一人が消えたのをあたしは知っているから。
一学期に桜井君に告白した、鈴原胡桃。
あの子の事を。
散々女子組にいびられて、転校して行ったあの子を。
皆確かなことは知らないから、湊の嘘を信じてたけど。
だから声は上げられなかった。
「ここはどこですか? あなた達は誰ですか!」
......で、あたしたちは異世界に来た。
男子たちは大喜びだったけど、あたしは怖かった。
電気もガスも、車とかもない世界だなんて。
それに、あたし達が呼ばれた理由も。
魔王と、その軍隊と戦うなんてムリ。
魔王なんて、BLアプリゲームの中でしか聞いたことないけど、絶対に恐ろしい存在に違いないもの。
軍隊は言わずもがな、世界史の点数は高いからわかる。
そんな恐ろしい世界だったけど、皆がいると安心できた。
自分のスキルも、どうやらハズレじゃなかった。
だから、尚更哀れに映ったのかもしれない。
佐藤春樹の存在が。
いつも皆と外れた場所にいて、表情もあんまり動かさないで。
いじられてる時は笑って、でも全然楽しそうじゃない。
スキルはない方がいいんじゃないかってくらい弱いみたいで、いつも掃除係をやらされてた。
だからかな。
「荷物をちょっと持ってあげようと思ったんだけど?」
あたしは初めて集団から離れて、大幅に遅れてた彼を手伝った。
もちろん、あんまりいい顔はされなかった。
佐藤君も半信半疑って感じだった。
...でも、あたしはちょっと見直した。
だって、内田くんや柏木くんが言うほど彼はキモくなかったし、むしろ普通に見えた。
どこまでも普通、悪いのは彼じゃなくて、きっとあたし達なんだと思わされた。
佐藤君は自分で輪の中に入ることができないけど、いじられてる間は少なくとも輪の中にいる。
だから表立って反抗しないんだと、あたしは気付いてしまった。
迷宮から出たら、もっと優しくしてあげようと、思ったのに。
「どうして、どうして誰も動かなかったんだ! 一人死んだんだぞ!」
「熱くなんなよ、どーせ寄生虫だっただろう?」
「寄生虫? クラスメイトになんて言い種だ!」
佐藤春樹は死んだ、あっけなく。
あたし達の前で、吊り橋の下に落ちて行った。
きっと助からない高さで。
結局湊が皆を説得したから、おとなしくまとまっただけで、あたしを含めた数人の中には蟠りが残ったままだった。
ただ、確かに悲しかったけど、一回話したきりだったからそこまで引き摺らなかった。
シーアルーンで彼に再会するまでは。
「あんた...佐藤、なんで生きて...っ!?」
あまりに驚いて、言葉を失った。
生きてるわけない、最初は人違いだと思った。
でも何より、次に来たのは怒りだった。
あんたを助けたせいで、あたしはこんな目に遭ってんのよ。
理不尽だと思いつつ酒場に連れ込んで話を聞いて、それでようやく胸中の整理は出来た。
整理が出来た途端、急に彼の事が頭から離れなくなった。
たいして仲良くも無かったのに、もう失いたくないと思った。
だから、
「勇者様、どうか――――」
「分かった。出る」
魔物の群れが接近している、だから助けてくれと懇願された時に従った。
あたしのスキルは役に立たない。
味方を巻き込んでしまうから、だからあたしは一人で残った。
あいつを理由にはもうしない。
選んだのはあたしだもの。
「あたしがハルキを守って見せる」
数日後。
ボロボロになった体で、あたしは声を振り絞った。
氷の魔法で、あたりは死体だらけ。
それでもあたしは戦いたかった、敵を倒せば。
「だって、あんたは.....」
弱いから、あたしが守ったげる。
そう言おうとしたとき、耳障りな声が空から降ってきた。
『ソレハ、随分ト虫ノ良イ考エダ』
それを見た時、あたしは”それ”が首謀者だと確信した。
体全体に緑色の亀裂が走った、禿頭の大男といった風貌の敵。
あたしは戦って、そして――――負けた。
「侵蝕堕落」
そんな声が聞こえて、あたしは体の中に何かが入って来る痛みと、不快感で絶叫した。
でも、それは自然と薄れて行って、あたしの「過去」は誰かの「過去」になっていった。
あたしは、アボミネーション・ハイブ所属のハイブ・アーミーの生まれだった。
そうだった、思い出した。
この過去は、模倣体の過去。
「コウナッテ、良カッタ....」
あたしは、ハイブ・アーミーだから。
ベノムドミネーター様、いや....春樹様を、欲しがっても構わないんだ――――
それが摂理だから、言い訳しなくてもいいんだ――――
明日から2話ずつの投稿になります。
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