049-酒場の茶番
こうして、シーアルーンは完全に陥落した。
死体の処理も恙なく終わり、死んだ人間の周囲の擬態ハイブも、口裏合わせが済んだ。
今はハイブ基地を地下に沈めている最中だ。
この都市は、魔物の襲撃で内部に侵入され、大きな被害を被った。
そういう事にして、人の流れも経済の流れも今までと変わらずに維持する。
「産地はこっちじゃなかったから、値段は相変わらずだな」
場所は酒場。
俺はため息を吐く。
サカダイダイの産地はここではなく、少し離れたここより小さな集落だそうだ。
オレンジに似た果物で、元の世界を思い出すので確保しておきたかったが.....
まあ、後で陥としに行こう。
「なあ、白石?」
「はい」
俺は目の前を見る。
白石七海。
ハイブのネットワークに繋がった事で、俺は彼女が何故あんなに狂ったように戦ったかが分かった。
俺を守るためだったそうだ。
こんな奴に勝手に庇護されているのは腹が立つが、それでもその想いには感動した。
たいして付き合いも無いはずの俺に、そこまで体を張るか。
「なるほどな」
俺は呟く。
ハイブのネットワークに繋がった彼女の記憶を、俺は自由に閲覧できる。
クラスメイトだった女の、全てを。
変態みたいだが、事実なので仕方ない。
「それなら最初から助けて欲しかったもんだがな」
「はい。仕方ありません、私は友達から見捨てられるのが嫌でした、そうなった人も見てきましたから」
俺たちのクラスは元々40人だった。
その時抜けた奴か。
「結局、友情とか絆とか、バカバカしいな」
コミュニティを維持するための同調圧力でしかない。
序列を維持するために、恐怖政治を敷いて。
そんな物は稚拙だ。
といっても、力を得てイキってる俺だから言えることだ。
そんな事、口が裂けても元の世界で言えるもんか。
逆に俺が不適合者扱いされる。
俺もそれが怖かった。
社会が作り上げた、巨大な構造。
人間というのは、序列や優越が大好きだからな。
紙の上でしかない権力が、何も持たない弱者を黙らせる。
だけど、それは俺がやっていることと同じ。
俺はこれを潰そうとは思わない。
「うまい」
焼き魚を齧って、俺は正直な感想を口にする。
俺はただ征服して支配するだけだ。
完璧な世界だとか、弱者が声を上げられる社会だとか、そんなもの、ただの学生の俺に作れるわけないだろうが。
「勘定を頼む」
「はい、お代は.....二割引ですね」
「ああ」
無料にすると経済的にヤバいかもと思って、俺はここでの食事は二割引という事にしてある。
どうせ俺以外は飯を食わなくてもいいので、酒場の売り上げはハイブ兵士同士で遣り繰りしてもらおう。
「稼ぐ手段を見つけないとな」
「うちの売り上げ、持っていきますか?」
「そういうのはダメだ」
俺は断る。
経済は維持しなければならない、ここで食べる事の出来る食材は、あちこちから買い付けられてここへやって来る。
全てを堕落させるまでは、計画的に行かないとな。
......別の俺の知識だけど。
「白石、お前は外で話すときは以前の性格を模倣しろ」
「分かった、よろしく」
やっぱりお前はそれでいい。
俺は頷き、外へと足を踏み出した。
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