005-上の思惑
アルバトロス王国、首都オキノにて。
王城の謁見の間に一人の騎士が跪いていた。
「では、テレンは成功したということか」
「はっ、異世界より強き勇者39名を見事召喚し、現在は訓練中との事です」
「そうか...では、伝説は正しかったという事だな」
騎士の前に座する一人の老人が、嬉しげに言う。
彼の名はペルルー・シャバト・ディオネ・カイナイン・アルバトロス。
この国の王であった。
実名で呼ばれる事を嫌い、配下にはシャバトと呼ばせる王であった。
「はっ、“我が王国に真の脅威が到来しつつある時、三つの霊脈が重なりし王墓の聖地にて召喚を行え、さすれば異界より強き戦士が現れよう”でしたか?」
「そうだ」
「しかし、報告によれば彼等は学生のようで、訓練をしなければ使い物にはならないそうです」
騎士は淡々と進言する。
王は顎髭を指で弄び、暫し黙る。
「ふうむ...では、如何する? 次の一週間で前線のサバンが滅ぶぞ」
「サバンには犠牲になってもらう他ないかと」
「気は進まぬが...仕方あるまい、どれほどで使い物になる?」
「精鋭の兵士を送り込みましたので、二週間があれば」
「そうか」
ここに立つ騎士も、ただの騎士ではない。
魔を通さず浄化する「聖盾」のスキルを持って生まれた、騎士の中の騎士、イォルド・カスクネンであった。
彼の配下は「聖騎士団」として知られる。
実際には寄せ集めの中のエリートでしかないのだが...そうせざるを得ない事情は、王国にはまともな戦力がもう残っていないという点にあった。
「魔王は強すぎる...これで少しはマシになるとよいが」
「あの者たちであれば、少しくらいは戦況に楔を打ち込めるのではないかと」
イォルドはそう言う。
王は溜め息を吐き、彼をここに呼んだ真の目的を口にする。
「では勅命を伝える。心して聞くが良い」
「はっ」
「これ以上筆頭魔法使いをあそこへ留めてはおけぬ。それ故、イォルド、貴殿が代わりに行き、彼等を訓練せよ」
「はっ」
「...その際、彼等に順位を付けよ。序列を作り、優先度を作るのだ。異世界でのルールがどうだか知らぬが、ここではそうではないと教えるのだ」
「はっ、勅命を承りました」
イォルドは頷き、立ち上がって胸を手に当てたまま礼をする。
そして、三歩後ろ歩きで下り、背を向けて謁見の間を後にした。
王は閉じた扉を少し見て、再び溜め息を吐く。
「ザン」
「はい」
王座の背後、暗闇の中から少し背格好の小さい者が現れる。
「イォルドを監視せよ、彼等に手心を加えるような真似をした時は報告に戻れ。沙汰を下す」
「はい」
王は頷き、ザンと呼ばれた者はまた暗闇に消える。
人々の思惑とは、必ずしも一致するものではない。
王は王で、騎士は騎士で、暗部は暗部で、そして民は民で。
勇者に対しての思いは違うのだ。
それを勇者たちが知るのはもう少しあと。
ただ、悪いものではない。
少なくともこの王は、決して暗愚ではないのだから。
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