041-バケーション
都市は一気に慌ただしくなった。
メリジューヌ達が姿を現して、人間を襲ったからだろうな。
そのうち一人にわざと見せた大型蟲の群れが功を奏し、大規模な魔物の襲撃というストーリーが出来上がった。
もともと迷宮攻略でピリピリしていたせいで、疑問もなくこれは受け入れられた。
そして俺の方も、攻略へ向けての準備は既にあと一歩というところまで進んでいた。
メリジューヌ達が都市の地下の岩盤を掘り進め、貫通。
都市の地下水路に沿ってアボミネーション・ハイブの前線ハイブを形成した。
この都市の地下は既に占領下にあり、いつでも戦闘の準備は出来ている。
「ソウカ。分カッタ」
俺はベッドの上で報告を受け取る。
報告を聞くだけならいいんだが、指示する時はこの姿でないと送信ができないのが不便だな。
周囲にハイブ生物がいれば楽なんだが、街の中で大っぴらに〈侵蝕堕落〉を使うわけにもいかない。
ここはそこそこいい宿なので、防音はバッチリだ。
大いに利用させていただくとしよう。
「戦線ヲ人間軍ノ展開ニ応ジテ下ゲ、交戦ヲ回避シツツフェイントヲ入レロ」
要は、睨み合いを演出する。
そして、油断したなら小競り合いに持ち込んで引き下がる。
こうすることで、防衛隊を都市から引き剥がすことができる。
ついでに、白石も。
あいつが防衛に出てこないわけはないし、ここの奴らに利用されないはずがない。
「強イ人間ガ現レタナラ、命令ヲ無視シテ退ケ。情報ヲ持チ帰レ」
ついでに指示を出しておく。
魔物にとっての牙城なら、白石の他にもヤバいのがいる可能性はある。
その場合はすぐに退かせる予定だ。
「オ前達ノ目的ハ、都市攻撃ノ陽動ニ過ギナイ。目的ヲ違エルナ」
さらに指示を飛ばす。
ハイブ生物はほぼ命令違反をしないと断言できそうだが、釘は刺しておかないとな。
俺の主目的はあくまで都市の完全占拠にあり、ぶっちゃけ白石達はどうでもいい。
興味がないといえば嘘になる。
だけど、主目的ではない。
「デハ、引キ続キ頼ム」
俺はそう命じて、堕落を解いた。
解いた瞬間、お腹が減ってくる。
どういう原理かは知らないが、堕落使用中は腹が減らないんだよな。
「いつまで食えるかわからないしな、食っておくか」
俺は外へ出る準備を整える。
この間の夜に食った串焼き、結構美味かった。
久々の飯だったからというのもあるが...
あれにパンと豆のスープでも買っておけば、夕飯には十分なはずだ。
「...」
宿は高台にあるので、ここから街を見下ろすことができる。
城壁まではっきりと見え、その向こうに蟲の大群がいるのも見える。
今からこの都市を陥す。
そう考えても、俺の心には何も生まれなかった。
高揚も、悲観も、同情でさえ湧かなかった。
実感がないわけではない。
ただ...こんな言い方はないかもしれないが、淡々としている。
何も感じない。
この気持ちは衝動や感情から切り離されて俺を律している、そんな気がした。
さて、地下のハイブの準備は出来たし、直ぐに第二次作戦へと移ろう。
それまでの余暇を、俺は楽しむこととした。
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