040-戦いへの動き
大規模な襲撃を察知したという話を受けて、七海は勇者の代表者として会議の出席を命じられた。
曲がりなりにも学生で、そういう政治の場に携われる事に少しの意気込みを感じていた彼女だったが、その期待は早々にして打ち砕かれる事となる。
「まず、最初に謝罪させて欲しい。今回の魔物襲撃に関して、我々は充分な報酬を用意出来ない」
都市長が最初にそう述べ、その後今までの静寂が嘘のように不和がその場に満ちた。
当然のことだ、命を賭けて戦う兵士に報酬を支払う側。
戦いの為に色々なものを買い集める側。
一般人に安全を約束する側。
金はとにかく必要なのだ。
「理由を説明して頂きたい!」
「王都への上納金の時期だからだ、もう既に支払ってしまった後で、これから金を集め直さなければならん!」
「そんな猶予があるとでも言うのか!?」
「ならば金を借りてでも!」
「今までの事を忘れたか!? 税に加えて上納金のせいで、もう金を貸してくれる金貸しなどいない!」
シーアルーンは言い方は悪いが、所詮王都を守る肉壁でしか無い都市である。
ろくな産業もなく、魔物の素材を売り払って生計を立てている。
そこに需要があるからこそ、人が集まり都市を形成したものの、都市の運営側は悲惨なものだった。
「だいたい、王国は何をしているんだ? こういう時の王宮騎士団だろう!」
「昨日、早馬を飛ばしたが...にべもなく断られた。魔王討伐でそれどころでは無いと!」
「ふざけるな、少しでも寄越せと言っておけよ!」
「それが、勇者様が一人いるのだからそれでなんとかせよとの事だった...」
視線が七海に向く。
先程まで敵意をはらんでいた視線を受けて、七海は震える。
期待、失望、敵意、好意、好奇心。
色々なものが混じり合った視線であった。
「女一人に何が出来る! 百人の兵士の代わりになるものか!」
「だが、たった38人で迷宮を攻略したのだ! 我々が数十年と数千人を浪費したあの迷宮を! その一人ならば!」
よくないものを感じ取った七海は黙るしかなかった。
どのみち、この場で自分に発言権はないと悟っていた。
こういう情景に、七海には覚えがあった。
「もういい、なら全ての戦力を集結させ、シライシ殿のお力を借りるまでの事」
「街の防衛はどうする?」
「地下闘技場跡を改装し、臨時の避難所とする。あそこなら内外からの力に対して頑丈だ」
議論は報酬の支払いよりも、刹那的な防衛へとシフトしていく。
都市長としても、何年か掛けての支払いは覚悟の上での話題の逸脱であったことは確かだろう。
他の代表者たちも、今追求しても無駄だと分かっているからこそ追求しなかった。
「シライシ殿、どうかお願いします」
そして、会議の終わり際に、七海は代表者たちに頭を下げられる。
七海は知ってか知らずか。
この世界の人間が、小娘に頭を下げることがどんなに屈辱的な事か。
ただし七海はそれを好意的に受け取る。
そして、自分が勇者であると改めて認識した。
スキルの話ではなく、認識の話だ。
「(あたしが、守るんだ)」
あの時手を伸ばすことも出来なかった一人の人物を、七海は強烈に意識した。
逆に言えば、それ以外にこの都市を守る愛着も義理も無かったのだ。
あらゆるものが揃っていない中、一つの都市が民衆を守るための戦いに身を投じようとしていた。
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