039-茶番の始まり
シーアルーン、西門外にて。
五人の兵士が、徒歩で探索をしていた。
彼等の目的は哨戒、つまり周辺を警戒することである。
迷宮が攻略され、魔物の噴出は止まったものの、残った魔物が攻勢をかけてこないとは限らない。
それ故に、都市側は守備隊にこうして哨戒命令を出させ、彼等は敵を探して彷徨っているのである。
「暇だな」
「おい、言うなよ」
兵士の一人が呟く。
それに対して抗議した兵士も、もうウンザリだという顔をしていた。
当たり前だ、彼等は西門配属。
同じメンバーで何日も何日も同じ任務に同じ巡回ルート、嫌にならないほうがおかしいのだ。
そして、
「採集も禁止になったしな、いいことないぜ全く」
哨戒に託けて周辺の森で採集行為を働く兵士が少数いたが、これらも露見した瞬間に規律の維持と森林資源の保護の観点から禁じられた。
街の周囲の森林は街のものであり、都市長ケール・クヴィンの下に所有権がある。
彼が苦言を呈すれば、全員クビでもおかしくないのだ。
それが書類上か物理上になるかはわからないが。
「いいよな、東門の奴らは」
「ずっと暇だしな、川で釣りもしてるらしいぜ」
「くそが」
吐き捨てるように呟く兵士。
西門は魔物が来れば少なくない死者が出る上に、別に待遇も良くない。
採集くらいの副業は許せというのが、不真面目な兵士たちの総意であった。
「それにしても、最近はちょっと変だな」
「あー、確かにな。迷宮が攻略されたからって、こんな一気に減るもんか?」
「あいつらの人間への敵意は本物だから、仮に少数しかいなかろうが突っ込んでくるはずなんだ」
そう、奇妙である。
魔物を全く見掛けなくなったというのは、彼等にとって奇妙でしかなかった。
魔物というのは、生態系から切り離された存在である。
食事をしなくとも魔力だけである程度生き存えることが出来、その生命の目的は生殖ではない。
生殖は通過点であり、魔物たちの本能に刻まれた本来の宿命は、人間への尽きない敵意である。
〈魔物使い〉のスキルで縛るでもない限り、魔物を使役するという考えがいかに愚かか子供でも知るように触れ回られている時点で、その敵意は古来から見やすい形で人の目に映ってきた。
つまるところ、数や士気の問題では無い。
人がいる、ならば襲って殺す。
これが魔物の行動原理であり、そこに生物としての本能が食い込む形で存在しているに過ぎない。
「ま、この辺で切り上げて帰ろうぜ」
「ああ、そうだな」
兵士たちは見切りをつけて、帰ろうとした。
だが、彼等が方向を切り替えたその瞬間。
先頭を歩く男の足元が陥没し、現れた毛虫のような魔物が、頭から男を貪り食った。
纏った鎧は紙切れのように歪み、魔物の口の中へと消えていく。
「う、うわああああ!」
「魔物だ! おい!」
「分かった!」
兵士の一人が、素早く城門の方へ駆け出す。
腐っても彼等は兵士、目的は忘れない。
もし何かあったときは、四人が足止め、一人が城門へ。
情報を必ず持ち帰るという手筈なのだ。
すでに一人死んでいるが、三人でも時間稼ぎくらいにはなる。
そう思って駆け出した兵士の前で。
「.........」
「.........」
「.........」
剣を構えた兵士たちは、既に死んでいた。
ハイブ生物と化した魔物が襲い掛かるほうが早かったのだ。
そして、ハイブ虫とでも呼ぶべきそれは、逃げていく兵士の後を追わなかった。
それが目的だったからだ。
結果として、複数の哨戒チームがそれぞれ一人を残して全滅し、都市に逃げ帰った。
大型の蟲の大群を見たと主張した兵士もいた。
この結果を受けて、都市側は大規模な魔物の襲撃を察知する事となった。
だがそれが、狙ったものだったということを、まだ誰も知らない。
そして疑わない。
人間を前にした魔物に、知能など関係が無いのだから。
既に魔物では無いその蟲にも同じことが言えると思っているのだから。
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