038-久々のご馳走
夜。
宿の窓から抜け出した俺は、ベノムドミネーターではなく今や懐かしい姿...そう、名付けるならばヴィラン・ハルキとでもしておくか。
ともかくその姿で、屋根の上を移動していた。
俺の想像がニュートラルだったから、この姿は弱かった。
この姿とその周囲を構成するイフを脳に刻み込んだ今は、もう少し最適化されている。
だが、他と比べるとぶっちゃけ弱い。
ベノムドミネーターよりは目立たないので、この姿を使っているに過ぎない。
何しろこの街、さすが街と言うべきだろう。
夜になっても一部の場所は灯りが途絶えることは無く、そして人気もなかなか消えない。
夜になったからといって〈堕落〉して活動開始、というのができないのだ。
「よっと」
俺は水路脇の通路から、地下水道へと入る。
管理の人には悪いが、鍵は壊させて貰った。
水道を歩きながら姿を変え、ベノムドミネーターとなる。
ここに来た理由は、構造の把握だ。
あまり浅いと、露見する確率は格段に上がる。
幸いにして地下道は広く深くまで続いている。
「硬い岩盤をよく掘ったもんだな」
俺はその広さに驚嘆する。
シーアルーンは硬い岩盤の地層の上に建てられていて、そのおかげで地下水脈による崩落や、川の侵食に対して対策を講じなくともよくなっている。
ただ、その地下に穴を開けるということは、それなりに硬い地層を採掘しなければいけないということで。
結構強引に作られたようだ。
そして、管理もろくにされていないようにも見えた。
ここなら、いつの間にか魔物の巣になっていようがしばらく露見しないな。
見つかったとして、他に策はいくらでもある。
「ふはぁ」
地上に出て、俺は息を吸う。
別にあの強烈な汚臭が大丈夫だった訳はない。
魔物どもは平気だろうが、正直人間には耐えられない激臭だ。
多分ここが放置されている理由の八割くらいは、やりたがる人材が居ないんだろうなって感じだ。
かえって都合はいい。
「...腹減ったな」
跳躍しつつ〈堕落〉を解除した俺は、スリに盗ませる用のダミーである財布をポケットから取り出した。
中には銀貨が数枚入っている。
これで夜食でも買うか。
夜市はやはり北側のようだし、少し歩くことにはなるが。
構わない、時間はたっぷりある。
これは俺の時間では無く、ハイブたちが準備を終わらせるまでの時間だが。
「串焼き、二つ」
「まいど」
俺は夜市で串焼きを買う。
食いながら移動し、顔ぶれを見ておく。
昼間に見たエルフみたいなやつは居ないな。
「一杯くれ」
「はいよ、器は返してくれな」
串焼きを食い終わり、次はスープを買って飲んだ。
流石に都市ともなると、今まで村で食べたものよりずっと美味しかった。
美味し過ぎて、涙が浮かぶほどに。
数日後。
メリジューヌから、準備が出来たという報告を受け取った。
ならば、躊躇する猶予など要らない。
『実行セヨ』
俺は命令を下した。
それは素早くハイブへと伝達され、彼等は動き出す。
計画の第一段階である。
だが油断という概念は彼等にはないし、功を焦ることもない。
初手というものは気楽だ。
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