037-酒場でのひととき
数分後。
俺は酒場で座っていた。
「何か頼む?」
「メニューがわからない」
「壁に貼ってあるけど?」
俺は壁を見た。
うん、あんまり高くはないな。
この世界の水はヤバいから、適当にジュースと料理でも頼んでおくか。
「話って何なんだ」
「随分態度が違うじゃん? いつもそのノリで話せばいいのに」
「色々...そう色々あっただけだよ」
色々あった。
おかげで、度胸がついた。
その気になれば全てぶっ壊して逃げることができると思えば、恐れることは何もなくなった。
毅然と出来ているかはわからないが、他人への恐怖は薄れた。
何より、ハイブ生物が積極的にコミュニケーションを取ろうとしてくれたおかげで、人との話し方が身についたような気もする。
「で、どうしてあんたが生きてるの?」
「どうしても何も...」
「助かるような高さじゃなかったのに」
もしかして、心配してくれてたのか?
いや、まあ...お前に何が出来たという話ではあるんだけどな。
助けてくれなかったし、助けたとして一緒に助かったドラゴンも倒せないようなやつに、義理を感じる必要はない。
「心配してくれてたのか...ありがとう」
「気にしてる子は多いから」
俺は形式上だけの感謝を述べる。
その方がお互い後腐れはない。
それにしても...
「シーアルーンには君だけしかいないのか?」
「うっ」
俺が疑問を呈すると、彼女は笑ったまま硬直した。
そしてそのまま、机をぶっ叩いた。
大きな音がしたが、周囲は反応する様子がない。
こういう客には慣れっこか。
「...あんたを助けたのがバレて、ここに押し付けられたってわけ」
「...なるほど」
女子たちの間で、俺のイメージは最初から悪かった。
柏木あたりが、会話のあちこちで有る事無い事吹聴して回ったからだ。
体のいい道化としてしか見られていなかった。
そのせいで、彼女にとっては迷惑を受けたらしい。
俺のせいにするなよ、助けようと思ったお前が悪いんだから。
「お待たせしました、豆のグラタンとサカダイダイのジュースです」
「どうも」
何か言おうとした時、店員が料理を運んできた。
俺の前にグラタンとオレンジ色のジュースが置かれる。
サカダイダイは柑橘類のオレンジに近い植物で、この辺が産地のようだ。
手に入れられたらいいな。
「でも、間違った選択だとは思ってないよ」
「それは重畳」
俺は小さく呟いて、匙を手に取る。
彼女と話しても無駄だと何となく分かったからだ。
適当に雑談しつつ夜を待とう。
そうだ、一応聞いておくか。
「そういえば、君のスキルは何だっけか」
「あたし? 〈氷結世界〉だって。仲間を巻き込むから、下手に使えないけど」
「そう...なのか」
初手でMAP技持ちとはな。
相手にとって不足なしだと、俺は思う。
っていうか、ここに押し付けられたのは俺を助けた事より、そのスキルの使い勝手が悪いからじゃないのか?
一人で暴れる分には問題ないタイプのやつだろう。
その後も数時間、大した事じゃない話を続けた。
何も新しい事を知ることはなかったが、彼女がここに残って残念だった事は男子どものケツを追いかけられない事だと知ることができた。
ありがとう、慈悲をかける理由がなくなった。
「そろそろ行くよ、あまり遅くに宿に入ると迷惑だろうし」
「あたしの所に来ない?」
死んでもお断りだ。
俺は貼り付けた笑みを浮かべて、立ち上がった。
そういうのは、街をハイブで埋め尽くしてから、ゆっくりとさせて貰う。
↓小説家になろう 勝手にランキング投票お願いします。




