029-失われた躊躇、得られた兵士
夜のうちに集落へ近づいた俺は、その目で集落を視認する。
いくら燃料が貴重とはいえ、夜全く灯りがなくなるというわけでは無い。
そのお陰で、村らしき集落がよく見えた。
流石に夜襲をかけるには、慎重さに欠ける。
つまり何が目的かというと、夜の間に人が来そうな採集地点を見極める。
その上で、少人数で来る人間を〈堕落〉で支配し、それを足掛かりに一気に攻略を進める。
そういう算段で行く。
...つもりだったのだが。
「(人がいるな)」
ベノムドミネーターの特性上、人の気配には敏感になっている俺は、一人で森の奥にいる人間を見つけていた。
こんな時間に何をしているんだ?
よくは覚えていないが、日が沈んでから三時間は経っている。
人が一人で出歩くには、この世界の文明レベル的には危なそうに思える。
知ったこっちゃないが。
「(なるほどね)」
俺は下に降りて、誰がいるかを察した。
女性が一人、屈んで何かを探している。
夜にしか咲かない花とか薬草とか、そういうのを探しているんだろう。
では、遠慮なく。
「〈侵蝕堕落〉」
「ッヒ! ぎぎゃあああああ!?」
一瞬で背後に降り立った俺は、伸ばした触手から一気に侵蝕する。
女性はこっちに顔を見せないまま悲鳴を上げた。
罪悪感が湧いてくるが、すぐに消え去る。
もう殺したも同然だ、罪の意識を感じる必要もない。
女性の身体から煙が上がる。
そして、その身体が一瞬揺らいだかと思えば、
『御命令ヲ』
「うん、よし」
虚ろな目をした女性が出来上がった。
姿は変わらないが、内部は既にもう人間のものでは無い。
擬態を解除すれば、ハイブ生物と同じようにグロテスクな姿をさらすことになる。
「生前ノ意識ヤ記憶ノ模倣ガ出来ルカ?」
『ハイ』
「ナラバヨシ」
俺はこいつに何をさせるのかを考える。
女とはいえ中身がハイブになっているのなら、数人を捕まえてくる事など容易だろう。
若い方がいい。
「オ前ハ村ニ戻リ、次ノ夜ヲ待テ。適当ニ言イクルメ、三人程度ヲ連レテ来イ」
『ハイ』
今のこいつは、おそらくこの世界の成人男性...スキル無しの柏木くらいなら、十人くらいは余裕で制圧できる。
だが、まだ1体しかいない駒を表に出すのは怖い。
「...ソウイエバ、オ前ノ名ハ?」
『...リサ、デス』
「ソウカ」
俺は頷き、リサを集落に戻した。
彼女の脳髄がネットワークに繋がり、記憶を得ることが出来るようになる。
至って普通の村娘だったんだな。
さて...ここに来るまでに栄養補給は済ませてあるし、休むとするか。
俺はその辺に腰掛けて、朝が来るのを待った。
時間は沢山ある、今はいくらでも時間を掛けよう。
あいつらは魔王を倒せるようだし、魔王を倒させてから油断したところを狙って行くのもいいだろう。
勇者チームは通過点に過ぎない。
一人一人が優秀な戦略兵器になりうるからな。
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