026-空の奥底
「フウ」
俺は触手を仕舞って溜息を吐いた。
この触手、先端から何かを出して壁に張り付くことができるようだ。
それを使って超苦労して登ってきた。
記憶の中の俺は、これで内田と直接戦闘してたようだ。
無理だろ。
「基礎の跳躍力も上がってるし、やっぱりただの身体強化じゃないな」
何より、俺は〈堕落〉の使い方を間違えていた。
このスキル、俺以外にも使う事が出来た。
虫どもに生きてる魔物を捕まえてこいと命じたら、瀕死の蝙蝠を連れて来た。
そいつに〈侵蝕堕落〉を使った瞬間、そいつは健康体になったが、同時に俺の支配下に置かれた。
あの蛇の奴も、以前の姿とは違うようだしな。
「で、だ」
また触手で降りて来た俺は、第七層へと到達した。
当分必要になりそうにないので、堕落は解除している。
後ろから白い虫共も付いてきている。
あいつらの総数は千を超えるようだし、ちょっと減っても構わない。
「何だここ?」
俺は足を止めた。
第七層、てっきり岩だらけの場所かと思っていたが、そこには白亜の宮殿があった。
天井が薄く光っているおかげで、月光に照らされるようにして入り口が見えていた。
「随分広いな........」
周囲を俯瞰した俺は、この場所の異様さに嫌でも気づかされた。
魔物の死体がない。
第六層は放置された魔物の死体が腐って、上がってきた虫どもに齧られていたが.....
ここには魔物の死体が一つもない。
やはり、ドラゴンの存在が大きいか。
「ひでーな」
宝物庫らしい場所も発見したが、空箱ばっかりで後はすっからかんだ。
あいつらに根こそぎ奪われたらしい。
だろうなって感想しか浮かばない。
そういえば小林が持ち運びの手段を持っていたな。
案外金に目がないのか?
「これが一番奥か」
そしてついに、俺はたどり着けなかった最奥部に辿り着いた。
あいつらどうやって帰ったんだ? と思っていたが、光を失った魔法陣みたいなのがあった。
深淵教団の俺の知識では、転送魔法陣のようだ。
再使用は難しいようなので、別の方法で戻らないとな。
「そして、ここももうすぐ終わりか」
俺は溜息を吐く。
何か、台座のようなものがそこにはあって、あからさまに何かが嵌って居たような痕跡がある。
それが外されているという事は、ここの運営か何かに必要なものだったのだろう。
つまりはまあ、迷宮の秘宝という訳だ。
「くだらない」
こんなモノの為に、俺は苦しんで、最後にはあんな目に遭ったのか。
一発殴る。
痛い。
「〈堕落〉――――ッラァ!」
堕落して殴る。
粉砕される台座。
それで胸の内が晴れるわけではない。
むしろ、胸やけが広がるように仄暗いものが心に満ちてくる。
いくら深呼吸しても、それが晴れることはやはりなかった。
「帰ルカ」
俺は踵を返す。
ここにあいつ等は居ないし、ここにはもう何もない。
巣に帰ろう。
巣....いや、ハイブと呼ぶべきか。
あんなのでも、今の俺の持ち家だからな。
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