023-奈落の底で
何かが潰れるような音が聞こえた。
何かが砕けるような音が聞こえた。
だから俺は目を開けて、
「......あ」
自分が無事だったらしいという事を知った。
最後の記憶は、岩棚にぶつかった時に途切れている。
何で生きてるんだ.....?
全身の痛みがその瞬間、一斉に襲ってくる。
「ッ、かは.....」
突き上げるような痛みの連鎖に、俺は咳き込む。
それで、ようやく目が開いた。
周囲は薄暗い。
「.......〈堕落〉」
無理やり肉体を再生して、痛みを消す。
それだけで、瀕死の肉体が健康体に戻る。
「ったく、あいつら.....」
酷い目に遭った。
ここはどこだ、すぐに戻って.....戻れるなら。
そんな風にして横を向いた俺は、そこにあった何かに気付く。
ボスだ。
あのドラゴンが倒れていた。
だが、様子がおかしい。
それどころか....何だ、ここは?
周囲を把握しようとして気付いた。
足元はぶよぶよした何かが敷き詰められていて、黒かったドラゴンが真っ白に................
真っ白に......
「ちが、う」
白くなったんじゃない。
白い何かが、蠢いている。
何かがドラゴンに群がっているんだ。
そう気づいたときには、俺も捕まっていた。
何か巨大な腕のようなものに掴まれて、地面に叩きつけられた。
「〈堕落〉!」
再生する。
何が起きるかが分かったからだ。
甲高い音が聞こえて、直後夥しい数のものがこちらに向かってくるのが見えた。
やめてくれ。
そう叫ぼうとしても無駄なのはわかっている。
目を閉じて、その時を待つ。
こいつらは何をするつもりなのか、そんなのは考えなくても分かっていた。
「いづ.....っ!」
白い虫が、俺の全身に取り付いて喰い始めた。
髪の毛が引き抜かれる。
肌が食いちぎられる。
耳の穴から入り込んだ奴らが、中を食いちぎる。
「〈堕落〉......!」
口の中に入ってこようとする奴らを抑えながら、俺は体を元に戻す。
そうする事に意味を感じなかった。
だけど死にたくない。
他に方法が思いつかなかった。
「〈堕落〉...」
重さを感じるほどに、殺到された。
思考が二極化していく。
痛い。
生きたい。
死にたくない。
だから〈堕落〉を使い続けないといけない。
「〈堕落〉...!」
痛みに耐えかねて〈堕落〉を使っても、すぐに痛みがやって来る。
でも、使わなければ俺は死ぬ。
「〈堕落〉! がっ!」
口の中に入り込まれた。
噛み砕く。
ひどい酸味と刺激臭、吐きそうになる。
「――――〈堕落〉!」
腹を食い破られた後、ようやく〈堕落〉を使う事が出来た。
腕を掴んで暴れるが、俺の力では脱する事は出来ない。
「〈堕落〉!」
「〈堕落〉!」
「〈堕落〉.....」
「〈堕落〉...........」
「〈堕落〉......................」
痛い。
死にたくない。
何で俺がこんな目に。
コミュニケーションエラー?
俺はどこで失敗したんだ?
あの時命令に背いて居たらよかったのか?
そしたらまたいつか死ぬ。
いや、どうせ死ぬくらいなら、そっちの方がよかった。
虫の餌になって死ぬよりは――――
「〈堕落〉! 〈堕落〉! 〈堕落〉! 〈堕落〉 、〈堕落〉!」
叫ぶ。
叫ぶ叫ぶ叫ぶ。
助けは来ない。
でもこいつらが満腹になれば、少しはマシになると思って。
俺は死にたくない、俺は――――
『馬鹿ダナ』
その時。
どこかで、声が響いた。
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