021-フォールンダウン
一時間後。
勇者チームは総攻撃をドラゴンに仕掛け、ついに翼を封じることに成功した。
その上で非戦闘員を更に後方の岩場に逃がしたが、春樹は前線にいることを命じられた。
「だけど...僕、俺は戦えなくて」
「奴の目を逸らすだけでいい! 前で戦え!」
堂々と肉壁になれと宣言され、春樹はしぶしぶとそれに応じた。
ドラゴンの足元をうろちょろして、たまに攻撃してはドラゴンの気を散らす。
そんな役割を押し付けられていた。
「くっそ、派手にぶっ放せない」
「あいつが邪魔なんだよ」
「でも、イォルドさんには逆らえないし....」
仕方なく体を張っている佐藤を止めもしなかったというのに、魔法組は不満たらたらであった。
特に不満なのは、〈炎王〉を持つ中島と〈雷帝〉の近藤であった。
火気を使うなと言われたせいで、する事がないのだ。
「大体、あいつが刺激したせいで.....」
先ほどの先行組にいた中島が呟く。
まるで責任を押し付けるように。
本来は咎められるべきは彼なのだが、心理的な効果もあってか不満は広がっていく。
「くっ!」
前線に立って戦う春樹は、その事に気付かず囮役を続けていた。
自分が役立たずと分かっていながら、命令に従い最前線を買って出る。
称賛されるべき行動ではあるが、それには環境が余りに特殊過ぎた。
勇者チームの圧倒的な力に目が眩み、そうでない春樹を敵視するイォルド。
精鋭であるがゆえに無能どころか邪魔な春樹を敵対視する騎士たち。
悪い事は全て春樹に押し付けて異世界での生活を成立させる勇者チーム。
「――――〈堕落〉!」
再び、スキルを使って肉体を再生するハルキ。
確かにこの再生は、普通の兵士と比べれば大きなアドバンテージになり得るが、情報の開示をしていない、またしても意味がなかったために、対岸の勇者チーム達からは無視されていた。
「はぁ、疲れたな」
斬撃を叩き込んでいた内田が、溜息を吐く。
その隣で、〈鋼身化〉を使って盾となっていた石田が、金属化を解除する。
「....何かあるのか?」
「正直さ、あいつってこれから先必要か?」
「....いや、要らないな」
「じゃあ、良い手がある」
石田は吊り橋を固定している金具を指差す。
「あのドラゴンは今飛べないんだろ? だったら、佐藤を囮にしてここの底に叩き落とせる」
「....だけど、それは」
殺人じゃないのか。
内田はそう言おうとする。
非道な嫌がらせを続けてきた者の言う台詞ではなかった。
だが、得てしてそう言ったことに自覚がないからこそ、内田の判断は早かった。
こんな所で時間をかけていられない、そして荷物を抱えたままこの先の旅は続けられない、と。
「言い訳に付き合ってもらうからな」
「おう」
〈勇者〉の能力は、剣を持った時に複数のスキルに派生する事である。
内田はその内の一つを選び取り、振り被った剣を横に振りぬいた。
それは、とてもリーチの短い方の技である。
――――ドラゴンに向けて放つのであれば。
「吊り橋が!」
それに気づいたのは誰だったか。
そして、気付いた人間が叫んだ時には、片側の金具を壊された吊り橋は、向こう側へ向けて倒れていく。
ドラゴンの荷重を支え切った頑丈な縄も、片側の支えがなければただ切れるしかなかった。
春樹とドラゴンは、一緒に落ちていく。
その先がどうなるかは、少なくとも勇者チームにとっては――――どうでもいい事だった。
「て――――」
まるで引きずり込まれるように闇へと吸い込まれる瞬間、彼は何を思ったのだろうか?
自分の努力などすべて無駄だったこと?
どうせ死ぬのに死を恐れていたこと?
それとも――――
この状況でも、まだ誰かに善意や救済を期待していたことだったのだろうか?
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