020-肩の荷なき決死
現れたドラゴンは、大橋を軽々と歩いて近づいてきた。
まずい。
誰もがそう思った時、奴が口を開いた。
その後のことはよく覚えていない。
ただ、悲鳴と共に目を覚まして、周囲の様子が大きく変わっていた事に気づく。
陣地は大きく削れて、何人かが倒れている。
大橋の向こうにいるドラゴンは、翼を広げようとしていた。
こっちに飛んで来る気か。
「...堕落!」
判断は一瞬だった。
俺はスキルを使って、ないよりマシな強化を図る。
その上で、まずはイォルドが休んでいた天幕へと向かう。
吹き飛んではいるが、中の人たちは無事だった。
「...何事か、貴様の仕業か!?」
「違います、ドラゴンが現れて...」
「何だと!?」
驚いた様子のイォルドは、七層入り口の方を見る。
そして、立ち上がった。
「...貴様はドラゴンを抑えろ! その実力でも囮くらいにはなる!」
「...はい」
俺は頷く。
まさか逃げるわけでもあるまいし、イォルドは同じように気絶した奴らを起こしに行くんだろう。
だったら俺は、時間を稼ぐ。
ここで少しでも活躍すれば、皆からの印象も良くなるはずだ。
「うおおおおおおお!」
俺は地面を蹴って走る。
途中、落ちていた誰かの剣を拾った。
軽々と持っていたあいつらとは違って、重さで一瞬体が沈む。
きっとない方がマシなのだが、殴ったら殴った手が砕けそうなやつだ。
皆みたいに高くジャンプすらできない俺には、それが精一杯なんだ。
「ッ!」
大橋を超えた俺は、前足が飛んでくるのを目にした。
避けられるわけがない。
痛みが走る。
......
「...堕落!」
だけど、死ななければいい。
俺は大怪我を負ったとしても、堕落を使えば傷が治る。
何かに使えそうだが、俺自身が貧弱なのであまり意味は無い。
痛みが一瞬で引く感覚が不気味で仕方ない。
「(確かに、俺は弱い)」
だが、この場で動けるのが俺だけというのが、俺を高揚させていた。
剣を拾って、前足に叩きつける。
全く効いていない。
「あっ」
ドラゴンは俺から興味を失ったらしく、翼をはためかせた。
風で前が見えない。
次に目を開けられるようになった時には、ドラゴンは吊り橋の上に浮いていた。
凄まじい音を立てて、吊り橋の上に着地する。
どういう頑丈さなのか、吊り橋は全く崩れることもなくそこにあった。
「くそっ」
俺が立とうとした時、稲妻が飛んでドラゴンに当たった。
〈雷帝〉か。
「雷は使うな、橋が燃える!」
「く、任せた!」
向こう側から声が聞こえる。
丁度いい、俺はこっちで観戦させてもらおう。
そう思っていた時。
「サトウ! 剣を持ち帰れ!」
反対側から声が飛ぶ。
イォルドが叫んでいた。
クソが、こっちを見下し切って。
......まあ、当たり前っちゃ当たり前だが。
俺は剣を拾って、ドラゴンの真横を渡る形で陣地の方へと戻るのだった。
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