019-イレギュラー
数時間後。
俺は岩に腰かけて、見張り役をやっていた。
この階層は今までの階層と違って、完全に魔物を討伐した訳ではない。
だからこそ、後方に気を配る必要があったんだろう。
いつもより強い口調でイォルドに命じられて、俺はここに立っている。
「........」
「なあ」
その時、背後から声が響いた。
俺が振り向くと、そこには昨日の兵士が立っていた。
手には糧食が握られている。
「ありがとうございます」
「あんた、どうして何も言わないんだ?」
「........どういうことですか?」
「何でもない。ほらよ」
俺は糧食を投げ渡される。
受け取って、また反対を向く。
用がないなら話しかけてくるなよな。
こっちは疲れてそれどころじゃないっていうのに。
「じゃあな」
俺は糧食を食べながら、今後について考える。
テレンに会えるなら文官の職を紹介してもらおう。
食っていけるなら、一から兵士になったっていい。
死の危険は変わらないまでも、餓死はしたくない。
「帰りたい...」
帰りたい。
こいつらから逃げてもいい世界へ。
何も持っていない俺が肯定される世界へ。
正直、この世界の命運とかはどうでもいい。
有象無象の中でなら、目立たずにいられる。
異世界から呼ばれし39人のスーパーヒーローチームの中では、ただひたすらに無能として目立ち続ける。
俺の代わりなんて誰でも務められるからこそ、疎まれる。
でも俺はこの世界で生きていくためには、この座にしがみ付き続けるしかないんだ。
それがどんなに辛く惨めでも、食っていくためには仕方ない事だ。
「うわあああああ!」
その時。
陣地の方から、叫び声が聞こえてきた。
俺はなんだろうと思いつつ、立ち上がってそっちへ向かう。
そこには、肩で息をする桜井がいた。
事情を聞こうとすると、桜井は叫んだ。
「ヤバい、ボスが目覚めた! こっちに来るぞ!」
「ボス?」
「俺たちで七層を先に探索しようとしたんだ、それで奥に何かいて、そいつが目覚めて、柏木が逃げろって言って」
「バカ!」
周囲に寄ってきた女子に話を聞いてもらっている桜井。
俺は顔から血の気が引くのを感じた。
まさか、肝試しのノリで先行したのか?
バカもそこまで行くと救えない。
そう思っていると、吊り橋の向こうから先行隊らしい奴らが戻ってくる。
地響きと共にその背後が吹っ飛び、何かの嘶きが六層全体に響き渡る。
巻き起こった土埃が、少しずつ晴れていく。
それに従って、ボスの影が見えてくる。
そのシルエットは、その姿は...
「竜だ...」
「ドラゴンだ!」
誰かが呟くのが聞こえる。
俺たちの前に、ドラゴンが現れた。
それは大きく咆哮し、その前足を吊り橋へと掛けた。
「イォルドさんを起こせ!」
「とにかく攻撃を...」
一気に騒がしくなる周囲。
俺はそれをただ、黙って立って見ているだけだった。
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