102-湖底に沈む
俺は空中で呟く。
「〈堕落〉」
姿が変わる。
歴戦の傭兵企業の社長から、深淵教団を率いる教祖様へと。
ドゥームロードへと変わった俺は飛行魔法を発動し、湖面を凍結させて降り立つ。
魔王も直ぐに追ってくるだろう。
だが、少なくともただ追ってくるのを眺めているほど俺も慢心できる立場ではない。
「神の法術は束ねられ、一陣の円となる。奇跡は我が手に屈服し、神の敵たる異教徒を討ち滅ぼす────〈神聖魔術層板〉」
俺の背後に、二重に重ねられた魔法陣が出現する。
「神」の魔術が四つまとめられた魔法陣が二重に重なり、待機状態になっている。
使ったら魔法陣を回転させて術のある箇所を魔法陣で塞げば再度チャージが行われるようだ。
「〈神焔〉!」
相手も飛行魔法を使っているな。
俺はビームを放ってそれを狙うが、結界に阻まれる。
奴の魔力がどれくらい残っているか分からないが、結界は封じないと厄介だな。
「〈神雷〉────〈神風〉! 〈神瀧〉」
雷で追い詰め、風の刃で斬り刻み、湖底から土の槍で奇襲する。
だが、魔王はそれを結界で強引に突破して来た。
俺は魔法陣を回転させ、次の陣を起動する。
「〈神光〉〈神氷〉」
光そのもので結界ごと叩き落とす。
その上で、湖面を凍らせ無数の槍で襲撃する。
魔王はそれで傷付いているように見えた。
結界の光は見えない。
「〈神闇〉! 〈神瀧〉!」
魔王の服にできたありとあらゆる陰から闇が顔を覗かせ、彼女を拘束する。
それを見た俺は、最後の魔法を発動した。
湖が持ち上がり、三つの槍となって魔王へと襲いかかる。
避けようにも、すでに拘束は完成していた。
鮮血が舞う。
魔法講師の気配はない。
それを見た俺は、行動を開始した。
「──────〈堕落〉」
魔王は深く暗い湖の底へ沈んでいた。
どこか遠くを見つめて濁っていた彼女の目に、ふたたび焔が宿る。
「(私は負けない)」
かつて人間に負けた魔族をまとめ上げ、喜んで平和に暮らしていた魔族を虐殺した人間への怨恨を晴らし、魔族の祖霊の名誉を取り戻すために。
魔王は再び剣を握ろうとするが、背後から抱き付かれてそれは失敗する。
「(こ、これは...!)」
「水底デ、ユックリト語リ合オウ」
耳障りな声が響く。
魔王と毒の王は、アルーン湖の底へ底へと降りていく。
「(そうか、負けたのか)」
魔族にはやはり未来は許されていない、と魔王は感じた。
ここまで徹底的にやったのに、王国の首都決戦には持ち込めず、しまいにはこのような化け物に理不尽な敗北を喫する。
ここまで来るならば、もはや運命を呪うほかないと。
「負ケタ魔族ノ事ヲ案ジテイルノカ?」
「(そうだ、化け物め)」
こんな化け物を呼んだ以上、人間側もそれなりの代償は避けられないだろう。
ざまあみろ、と魔王は幼く心の底で罵る。
同時に、化け物に見透かされた事で腹も立っていた。
「喜ベ。オ前達ノ悲願ハヨウヤク叶ウ」
「それ、は...!?」
喋ろうとした魔王の口内に、容赦なく水が入り込む。
だが、答えを聞く前にベノムドミネーターの触手が、その全身を侵し始める。
「〈侵蝕堕落〉」
その毒が身体を蝕む前に、嬉しげな言葉がひとつ響き、そして何かが変わった。
水面へ向けて二つの影が上がっていき、ヒビの入った剣は水底へと沈んで行った。
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