099-正しい世界
ベノムドミネーターへと戻った俺は、魔王城へと歩き出した。
最早この都市に残る住民はただの生き餌以上の価値を持たず、戦える魔族は、追う側から追われる側になった。
俺はゆったりと魔王城へ続く石畳を歩く。
既に城の内部には小型ハイブ兵が侵入しているはずだ。
「無様ダナ」
俺は入り口に倒れている魔族の兵士を見下ろした。
既に死んでいて、目のあった場所に穴が開いている。
既に中で小型ハイブ兵...つまり虫が、餌の塊である魔族を食い荒らしているのだ。
「フフハハ...」
軽く笑って、俺は城内へと入り込む。
普通なら、近衛兵が俺を取り囲むはずだが、とっくに苗床か餌だろう。
不気味なほどに静かだ。
俺が地下で遊んでいる間に、城もだいぶ制圧が進んだと見える。
「(迷いそうだ)」
俺は溜息を吐く。
魔王城の構造なんて頭に入れてないからな。
それにしても、長い戦いだった。
魔王を堕落させる計画を思いついてから、実に一か月程度掛かった。
「(一国を落とすにしては、短すぎるけどな)」
王国だって、十三年掛かっても落とせていないのだからな。
一か月で落とせればいい方だ。
魔王の強さによっては、ここから数か月かかるかもしれないしな。
「ン?」
俺は足を止める。
廊下の先に、誰か立っていることに気付いたからだ。
薄暗くてよく見えないが、女だな。
「────勇者よ、敢えて言いましょう。このベルメリア・アンディスがここから先には通さない、と」
「フフフ....ハハハ.....フハハハハハ!!」
俺は笑う。
ずっとやりたかった笑い方だ。
すごい、俺は凄い。
誰かの上に立てて、こんなに余裕を見せることができる。
胸の中が晴れていく。
「な、何を────」
「〈侵蝕堕落〉────貴様ナド、相手ニモナラン」
「あがっ、ぎゃああああああああ────!?」
この距離なら、彼女にとっての射程であるように、俺にとっての根の射程だ。
ハイブに書き換えた彼女に、俺は命じる。
「魔王ノ部屋マデ案内シロ」
「....ハイ」
そういえば、こいつはリュドミラの親族か?
苗字が同じだったしな、殺さなくてよかったかもしれない。
「静カナ物ダ」
「ハイ、城内の戦闘要員はほぼ全て全滅していまス」
二階、三階と俺は階段を上がっていく。
そして、侵入者を阻むように離された階段を目指し、回廊を歩く。
それを二度繰り返して、俺は七階へと辿り着いた。
目の前には大仰な扉が見える。
「オ前ハココニ残レ」
「ハイ」
俺はベルメリアを扉の前に残して、腐食毒で扉を溶かして開けた。
その先に何が待つとも知らないが、ただ気楽に中へと入り込んだ。
予想していた奇襲はやはりあった。
近衛兵が溶けた扉の左右にいたので、触手を伸ばしてさっくり殺した。
扉の先はそこそこ長い廊下になっているようだ。
差し詰め、ここで不届き者を奇襲で始末するためだろうが、ベノムドミネーターである今の俺には通用しない。
俺は堂々と歩き出した。
この先にいるのは王だ、地球の頃の俺なら、天地がひっくり返っても会えない相手だ。
同時に、槍が降るほどの奇跡を積み重ねなければ、その王冠を引き摺り下ろすこともできないだろう。
だが今は違う。
俺は魔王と会い、その玉座から永遠に引き摺り落とすことができる。
素晴らしい。
これが俺の望んでいた、正しい世界なんだ!
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