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思兼学園異聞  作者: 歌麿
第一部 桜の檻編
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侵食

 その日から、“違和感”は形を持ちはじめた。

 廊下の奥に、存在しないはずの扉があった。

 誰も気づいていない。

 龍真だけが見えている。

「これ……」

 龍真が近づく。

 その扉は、呼吸していた。

 木材ではない。

 壁でもない。

 “境界そのもの”。

 白狐の声が響く。

「侵食開始」

 その瞬間だった。

 扉が開く。

 中から“影”が漏れ出す。

 黒い。

 人の形をしているが、輪郭が定まらない。

「観測対象を確認」

 声。

 機械的ではない。

 だが“感情が欠落している”。

 美月が後ろにいる。

「これ、なに?」

 龍真は答えない。

(これが“外側”か)

 影が一歩進む。

 その瞬間――

 美月の空気が変わる。

 桜の香りが一瞬だけ漂う。

「……やめて」

 小さな声。

 だが、影は止まらない。

「対象干渉開始」

 影が美月へ向かう。

 その瞬間だった。

 桜が“逆流”した。

 花びらが空へ戻る。

 時間ではなく、“現象”が巻き戻る。

 影が一瞬だけ消える。

 龍真は理解する。

(これは……美月の力か)

 だが制御されていない。

 白狐:

「神格干渉発動未完了」

「暴走兆候確認」

 影は再構築される。

 今度は“複数”。

 龍真は一歩前に出る。

「下がれ」

 美月:

「え?」

「いいから下がれ」

 初めて龍真が“動く”。

 その瞬間。

 影が龍真を認識した。

「龍神因子……確認」

 空気が変わる。

 侵食が“戦闘態勢”に移行する。

 白狐が小さく呟く。

「第一干渉フェーズ移行」

 龍真は拳を握る。

(やっと来たか)

 美月の後ろで、桜が静かに揺れた。

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