侵食
その日から、“違和感”は形を持ちはじめた。
廊下の奥に、存在しないはずの扉があった。
誰も気づいていない。
龍真だけが見えている。
「これ……」
龍真が近づく。
その扉は、呼吸していた。
木材ではない。
壁でもない。
“境界そのもの”。
白狐の声が響く。
「侵食開始」
その瞬間だった。
扉が開く。
中から“影”が漏れ出す。
黒い。
人の形をしているが、輪郭が定まらない。
「観測対象を確認」
声。
機械的ではない。
だが“感情が欠落している”。
美月が後ろにいる。
「これ、なに?」
龍真は答えない。
(これが“外側”か)
影が一歩進む。
その瞬間――
美月の空気が変わる。
桜の香りが一瞬だけ漂う。
「……やめて」
小さな声。
だが、影は止まらない。
「対象干渉開始」
影が美月へ向かう。
その瞬間だった。
桜が“逆流”した。
花びらが空へ戻る。
時間ではなく、“現象”が巻き戻る。
影が一瞬だけ消える。
龍真は理解する。
(これは……美月の力か)
だが制御されていない。
白狐:
「神格干渉発動未完了」
「暴走兆候確認」
影は再構築される。
今度は“複数”。
龍真は一歩前に出る。
「下がれ」
美月:
「え?」
「いいから下がれ」
初めて龍真が“動く”。
その瞬間。
影が龍真を認識した。
「龍神因子……確認」
空気が変わる。
侵食が“戦闘態勢”に移行する。
白狐が小さく呟く。
「第一干渉フェーズ移行」
龍真は拳を握る。
(やっと来たか)
美月の後ろで、桜が静かに揺れた。




