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思兼学園異聞  作者: 歌麿
第二部 桜と龍と恋する神殺し~神殺し候補は恋に全力です~
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月門起動

 地下神殿。

 白銀の円環が静かに輝いている。

 月門。

 何万年もの時を越えて残された神々の遺産。

 シロの手にある招待状が淡く光る。

 それに呼応するように。

 月門の中心に光が灯った。

『認証を開始します』

 低く。

 機械とも神託ともつかない声。

 神殿全体が震えた。

「始まったな」

 玄斎が呟く。

「軽いな!?」

 龍真が即座に突っ込んだ。

『第一認証』

『月都管理個体』

 光がシロを包む。

 白い髪が揺れる。

 銀色の瞳が輝いた。

『確認』

『管理個体シロ』

 認証完了。

 円環の一部が起動する。

 古代文字が浮かび上がった。

『管理個体……』

 シロが首を傾げる。

『私は管理していたのでしょうか』

「知らんのか」

『知りません』

「そうだろうな」

 龍真が溜息を吐く。

 いつも通りだった。

『第二認証』

『原初神第一柱』

 空気が変わった。

 那由禍が顔を上げる。

『確認』

『那由禍』

 瞬間。

 視界が崩れた。

 白い都市。

 悲鳴。

 崩壊。

 逃げ惑う神々。

 閉じられていく巨大な門。

『第一柱!』

『ご決断を!』

『もう時間がありません!』

 誰かが泣いている。

 誰かが叫んでいる。

 そして。

 那由禍自身が立っていた。

 今より幼い。

 だが。

 神としての威厳を持つ姿。

『閉じます』

 その声だけが聞こえた。

 次の瞬間。

 記憶が途切れる。

「っ……!」

 膝をつく。

 龍真が慌てて支えた。

「大丈夫か!」

「……」

 那由禍はしばらく答えなかった。

 やがて。

 小さく呟く。

「逃げていた」

 静寂。

「私達は」

「逃げていた」

 誰も言葉を返せなかった。

『第三認証』

 再び月門が響く。

『観測者』

 今度は龍真だった。

「俺か」

 光が龍真を照らす。

『確認』

『龍真』

 認証完了。

「観測者か」

 龍真が眉をひそめる。

 すると。

 月門が答えた。

『全てを見届ける者』

 ぞくりとした。

 理由はわかる。

 だが。

 嫌な予感がした。

『第四認証』

 全員が見上げる。

 最後の認証。

 残るのは。

 美月だけ。

『神殺し候補』

 沈黙。

 数秒。

 『確認』

 光が走る。

 真っ直ぐ。

 美月へ。

「え?」

 本人が一番驚いていた。

「え?」

 龍真も。

 シロも。

 全員固まる。

 だが。

 一人だけ。

 違った。

 那由禍。

 青ざめていた。

「あり得ない」

 震える声。

「何故です」

 視線は美月ではない。

 玄斎へ向いている。

「神殺しの認証、、、あなたは知っていたのですか」

 玄斎は答えない。

「まさか……」

 那由禍の瞳が揺れる。

「本当に……」

 そこから先を言わない。

 言えない。

 何かを知っている。

 しかし。

 誰も聞く余裕がなかった。

「ちょっと待って!」

 美月が叫ぶ。

「神殺しって何!?」

「俺に聞くな!」

 龍真。

「私、神様殺したことないよ!?」

「そうか?」

 場違いな会話だった。

 だが。

 そのおかげで少しだけ空気が戻る。

 シロが真顔で言った。

『今後の予定ですか?』

「違うから!」

 美月が全力で否定した。

 その瞬間。

 月門が完全起動する。

 白い光。

 轟音。

 神殿全体が震える。

 そして。

 門の向こうに景色が現れた。

 白銀の都市。

 塔。

 神殿。

 橋。

 夢で見た世界。

 本物だった。

「……」

 誰も言葉を失う。

 その時。

 都市の中央広場。

 小さな影が跳ねた。

 白い耳。

 白い尻尾。

 見覚えしかない。

「来たーーーーー!!」

 うさぎだった。

「やっと来た!」

「何万年待ったと思ってるの!」

 元気だった。

 とても元気だった。

 だが。

 うさぎの視線が止まる。

 シロ。

 那由禍。

 龍真。

 ここまでは普通。

 そして。

 美月。

「えっ」

 固まる。

「えっ!?」

 二度見した。

「何でいるの!?」

「失礼じゃない!?」

 美月が叫ぶ。

「いやだって!」

 うさぎがさらに混乱する。

「えぇぇぇ!?」

 全員混乱だった。

 その背後。

 都市の遥か奥。

 巨大な黒い影が立っていた。

 山より大きい。

 都市より巨大。

 そして。

 ゆっくりと動いている。

 うさぎの笑顔が消える。

「急いで」

 静かな声。

「もう時間がない」

 その言葉だけが重かった。

 そして。

 最後に。

 うさぎはシロへ微笑む。

「おかえり」

 シロは答えられなかった。

 胸の奥が。

 痛いほど熱かった。

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