月門起動
地下神殿。
白銀の円環が静かに輝いている。
月門。
何万年もの時を越えて残された神々の遺産。
シロの手にある招待状が淡く光る。
それに呼応するように。
月門の中心に光が灯った。
『認証を開始します』
低く。
機械とも神託ともつかない声。
神殿全体が震えた。
「始まったな」
玄斎が呟く。
「軽いな!?」
龍真が即座に突っ込んだ。
◇
『第一認証』
『月都管理個体』
光がシロを包む。
白い髪が揺れる。
銀色の瞳が輝いた。
『確認』
『管理個体シロ』
認証完了。
円環の一部が起動する。
古代文字が浮かび上がった。
『管理個体……』
シロが首を傾げる。
『私は管理していたのでしょうか』
「知らんのか」
『知りません』
「そうだろうな」
龍真が溜息を吐く。
いつも通りだった。
◇
『第二認証』
『原初神第一柱』
空気が変わった。
那由禍が顔を上げる。
『確認』
『那由禍』
瞬間。
視界が崩れた。
◇
白い都市。
悲鳴。
崩壊。
逃げ惑う神々。
閉じられていく巨大な門。
『第一柱!』
『ご決断を!』
『もう時間がありません!』
誰かが泣いている。
誰かが叫んでいる。
そして。
那由禍自身が立っていた。
今より幼い。
だが。
神としての威厳を持つ姿。
『閉じます』
その声だけが聞こえた。
次の瞬間。
記憶が途切れる。
◇
「っ……!」
膝をつく。
龍真が慌てて支えた。
「大丈夫か!」
「……」
那由禍はしばらく答えなかった。
やがて。
小さく呟く。
「逃げていた」
静寂。
「私達は」
「逃げていた」
誰も言葉を返せなかった。
◇
『第三認証』
再び月門が響く。
『観測者』
今度は龍真だった。
「俺か」
光が龍真を照らす。
『確認』
『龍真』
認証完了。
「観測者か」
龍真が眉をひそめる。
すると。
月門が答えた。
『全てを見届ける者』
ぞくりとした。
理由はわかる。
だが。
嫌な予感がした。
◇
『第四認証』
全員が見上げる。
最後の認証。
残るのは。
美月だけ。
『神殺し候補』
沈黙。
数秒。
『確認』
光が走る。
真っ直ぐ。
美月へ。
「え?」
本人が一番驚いていた。
「え?」
龍真も。
シロも。
全員固まる。
◇
だが。
一人だけ。
違った。
那由禍。
青ざめていた。
「あり得ない」
震える声。
「何故です」
視線は美月ではない。
玄斎へ向いている。
「神殺しの認証、、、あなたは知っていたのですか」
玄斎は答えない。
「まさか……」
那由禍の瞳が揺れる。
「本当に……」
そこから先を言わない。
言えない。
何かを知っている。
しかし。
誰も聞く余裕がなかった。
◇
「ちょっと待って!」
美月が叫ぶ。
「神殺しって何!?」
「俺に聞くな!」
龍真。
「私、神様殺したことないよ!?」
「そうか?」
場違いな会話だった。
だが。
そのおかげで少しだけ空気が戻る。
シロが真顔で言った。
『今後の予定ですか?』
「違うから!」
美月が全力で否定した。
◇
その瞬間。
月門が完全起動する。
白い光。
轟音。
神殿全体が震える。
そして。
門の向こうに景色が現れた。
白銀の都市。
塔。
神殿。
橋。
夢で見た世界。
本物だった。
「……」
誰も言葉を失う。
その時。
都市の中央広場。
小さな影が跳ねた。
白い耳。
白い尻尾。
見覚えしかない。
「来たーーーーー!!」
うさぎだった。
「やっと来た!」
「何万年待ったと思ってるの!」
元気だった。
とても元気だった。
◇
だが。
うさぎの視線が止まる。
シロ。
那由禍。
龍真。
ここまでは普通。
そして。
美月。
「えっ」
固まる。
「えっ!?」
二度見した。
「何でいるの!?」
「失礼じゃない!?」
美月が叫ぶ。
「いやだって!」
うさぎがさらに混乱する。
「えぇぇぇ!?」
全員混乱だった。
◇
その背後。
都市の遥か奥。
巨大な黒い影が立っていた。
山より大きい。
都市より巨大。
そして。
ゆっくりと動いている。
うさぎの笑顔が消える。
「急いで」
静かな声。
「もう時間がない」
その言葉だけが重かった。
そして。
最後に。
うさぎはシロへ微笑む。
「おかえり」
シロは答えられなかった。
胸の奥が。
痛いほど熱かった。




