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思兼学園異聞  作者: 歌麿
第二部 桜と龍と恋する神殺し~神殺し候補は恋に全力です~
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神の戸

 昼休み。

 旧校舎の茶室。

 全員の視線が一点に集まっていた。

 机の上。

 そこに置かれた白い封筒。

 昨夜。

 夢の中で受け取ったはずの招待状。

 しかし。

 今は現実に存在している。

「何回見ても意味分かんねぇ……」

 龍真が額を押さえた。

「夢の中の手紙が現実に出てくるとか」

「ホラーだろ」

『分類としては超常現象です』

「知ってる」

 シロは封筒を見つめている。

 まるで。

 呼ばれているようだった。

「開けてみるか」

 龍真が言う。

 その瞬間。

「待ちなさい」

 那由禍だった。

 いつになく鋭い声。

 全員が振り返る。

「それを開くということは」

 静かな瞳。

 だが。

 どこか怯えている。

「後戻りできなくなる」

 珍しい表情だった。

 那由禍が。

 恐れている。

 美月が小さく呟く。

「そんなに?」

「……はい」

 短い返事。

 だが。

 重かった。

「しかし」

 玄斎が茶を飲む。

「開けんと始まらん」

「軽いな!?」

 龍真が突っ込む。

 老人は笑った。

「招待状じゃぞ」

「普通は開けるじゃろ」

「月から来てるんだぞ!」

「遠方からの客じゃな」

「そういう問題か!?」

 いつもの玄斎だった。

 結局。

 封を切ったのはシロだった。

 白い封筒。

 中から現れたのは。

 一枚の紙。

 月光のような銀色の文字。

 誰にも読めない。

 だが。

 シロだけは違った。

 文字が自然に理解できる。

『月門起動許可証』

 その場が静まり返る。

「何て?」

 龍真が聞く。

『月門起動許可証』

「だから何だそれ」

『分かりません』

「お前もか」

(笑)

 しかし。

 那由禍だけが固まっていた。

 顔色が悪い。

 視線が揺れている。

「月門……」

 その単語を口にした瞬間。

 頭の中で何かが弾けた。

 白い都市。

 崩れる塔。

 逃げ惑う影。

 閉じられていく巨大な門。

 誰かの叫び。

『閉じろ!』

『今すぐだ!』

『間に合わなくなる!』

 激痛。

 那由禍が額を押さえる。

「っ……!」

「那由禍!?」

 美月が駆け寄る。

 だが。

 那由禍は首を振った。

「大丈夫です」

 そう言いながら。

 全然大丈夫ではなかった。

「場所はどこだ」

 龍真が聞く。

 シロは紙を見る。

『神の戸』

「神戸か?」

『おそらく』

「おそらくって」

 その時。

 玄斎が笑った。

「その通りじゃ」

「何が」

「神戸」

「神の戸じゃ」

 沈黙。

「ダジャレ?」

 美月。

「違う」

 那由禍。

 全員が振り返る。

 顔は真剣だった。

「元々の意味です」

「え?」

「神々が往来する門」

「その管理地」

「それが神戸」

 誰も喋れなかった。

 冗談だと思った。

 しかし。

 那由禍は冗談を言わない。

「つまり」

 龍真が整理する。

「神戸のどこかに」

「月へ行く門がある?」

「ある」

 玄斎。

「正確には」

「学園の地下じゃがな」

 全員。

「は?」

 放課後。

 旧校舎地下。

 立入禁止区域。

 さらに奥。

 さらに奥。

 そして。

 誰も知らない扉の前。

 重い封印。

 古い文字。

 見たことのない紋章。

 玄斎が杖を突く。

 封印が消える。

 扉が開く。

 轟音。

 冷たい風。

 そして。

 全員が息を呑んだ。

 巨大な空間。

 地下とは思えない。

 神殿のような広間。

 中央。

 白銀の円環。

 何十メートルもある巨大な環。

 無数の古代文字。

 眠るように静止している。

 だが。

 シロが持つ招待状だけが。

 淡く光っていた。

『これが』

 シロが呟く。

『月門』

 那由禍が拳を握る。

 記憶の奥が軋む。

 思い出しそうになる。

 思い出したくない。

 その先にあるものを。

 知っている気がした。

「シロ」

 珍しく。

 那由禍が呼び止めた。

 シロが振り返る。

 しばらく沈黙。

 そして。

 那由禍は言った。

「その先にあるものは」

「私ですら恐れています」

 空気が凍る。

 原初神第一柱。

 世界最古級の存在。

 その那由禍が。

 恐れている。

 シロは静かに月門を見上げる。

 円環の奥。

 暗闇。

 その向こうに。

 何があるのか。

 まだ誰も知らない。

 ただ一つ。

 確かなことがあった。

 もう。

 後戻りはできない。

 月門の中心で。

 白い光が。

 ゆっくりと灯り始めていた。

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