表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
思兼学園異聞  作者: 歌麿
第二部 桜と龍と恋する神殺し~神殺し候補は恋に全力です~
PR
39/42

招待状

 翌朝。

 シロは珍しく考え事をしていた。

 登校中。

 龍真の隣を歩きながら。

 美月の話を聞きながら。

 それでも。

 意識の一部は月へ向いている。

「聞いてる?」

 美月が覗き込んだ。

『聞いています』

「何の話だった?」

『昨日の夕食についてです』

「違うよ!」

 即答だった。

 龍真が吹き出す。

「重症だな」

『重症?』

「上の空って意味だ」

 シロは少し考えた。

『否定できません』

 珍しい返答だった。

 昼休み。

 中庭。

 三人はいつものベンチにいた。

 だが。

 いつもと違うのは。

 シロの方だった。

『龍真』

「ん?」

 シロが真っ直ぐ見る。

『私は月へ行きたいです』

 沈黙。

 美月が固まる。

 龍真も固まる。

 数秒後。

「却下」

 即答だった。

『なぜですか』

「危険だからだ」

『根拠は』

「全部だ」

『論理性がありません』

「月面都市とか夢で見た場所に行こうとしてる方が論理性ないだろ」

 シロは返せなかった。

 それは少しだけ正しい。

「でも」

 美月が手を挙げる。

「私は行きたい」

「お前なぁ」

 龍真が頭を抱える。

「絶対言うと思った」

「だって気になるもん!」

「観光じゃないんだぞ」

「分かってるよ」

 美月は少しだけ真面目な顔になる。

「でも」

 シロを見る。

「一人じゃ行かせられない」

 シロが瞬きをする。

 理由が分からない。

 だが。

 胸が少し温かい。

「それに」

 美月が笑った。

「うさぎさん見たいし」

「そっちが本音だろ」

「うん」

 龍真は深く溜息を吐いた。

 放課後。

 竹林。

 茶室。

 今日は全員いた。

 玄斎。

 那由禍。

 龍真。

 美月。

 シロ。

 珍しい顔ぶれ。

「月へ行くべきではありません」

 最初に口を開いたのは那由禍だった。

 全員が見る。

「珍しいな」

 龍真が言う。

「お前が反対するのか」

「行けば分かるからです」

 静かな声。

「何が?」

 美月が聞く。

 那由禍は答えない。

 しばらく黙り。

 そして。

「思い出してしまう」

 そう言った。

 空気が重くなる。

 誰も冗談だと思わなかった。

 那由禍は本気だ。

 本当に。

 思い出したくないのだ。

「しかし」

 玄斎が茶を飲む。

「行くことになるじゃろうな」

「だから何でだよ」

 龍真が突っ込む。

 老人は笑った。

「招待されたからじゃ」

「だから招待状って何なんだ」

「そのうち来る」

「雑だな!」

 玄斎は楽しそうだった。

 何かを知っている。

 しかし。

 教える気はない。

 いつも通りだった。

 夜。

 シロは再び夢を見る。

 白い世界。

 白い門。

 白い少女。

 そして。

 うさぎ。

「来た!」

 今日も元気だった。

『こんばんは』

「こんばんは!」

 うさぎは満面の笑顔で飛び跳ねる。

「よし!」

「今日は届け物!」

『届け物?』

「うん!」

 うさぎはどこからともなく白い封筒を取り出した。

 月光のように輝く封筒。

 封印の紋章。

 古い文字。

 シロには読めない。

 だが。

 なぜか。

 知っている気がした。

「招待状」

 うさぎが言う。

 その瞬間。

 白い少女の表情が少しだけ曇る。

「本当は」

 少女が呟く。

「こんな形で呼びたくなかった」

 寂しそうな声だった。

『何が起きているのですか』

 シロが問う。

 答えは返らない。

 代わりに。

 うさぎが門の向こうを見る。

 都市の奥。

 遠く。

 さらに遠く。

 何か巨大な黒い影。

 以前より近い。

 以前より大きい。

 そして。

 確実に動いていた。

 ゆっくりと。

 目覚めるように。

 うさぎの笑顔が消える。

「急いで」

 珍しく真剣な声。

「もう時間がない」

 世界が揺れる。

 夢が崩れる。

 最後に。

 白い封筒だけが残った。

 シロは目を覚ました。

 真夜中。

 静かな部屋。

 しかし。

 机の上に。

 あり得ないものが置かれていた。

 白い封筒。

 夢で受け取ったはずの。

 月光のような封筒。

 シロはしばらく動かなかった。

 やがて。

 静かに呟く。

『招待状』

 窓の外。

 月だけが。

 何も知らないように輝いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ