ループ現象
同じ朝だった。
そうとしか言いようがなかった。
九頭竜龍真は、校門をくぐる生徒たちの流れを見ていた。
満開の桜。
ざわめく生徒。
規則正しく繰り返される日常の風景。
だが、何かが噛み合っていない。
(……またか)
既視感ではない。
“再現”に近い感覚だった。
校内に入る。
廊下。
教室。
時間は進んでいるはずだ。
それでも――。
同じ会話が聞こえた。
「おはよー、龍真!」
神楽坂美月の声。
昨日と、まったく同じタイミング。
まったく同じ明るさ。
「おはよう!」
返事も、同じ。
「……おはよう」
美月は満足そうに笑う。
そこまでは“正常”だった。
しかし。
龍真は、違和感を数えた。
(1回目)
(2回目)
(3回目)
“今日”が、繰り返されている。
「ねぇ、龍真」
美月が顔を近づける。
「今日さ、放課後空いてる?」
その言葉を聞いた瞬間、龍真は固まる。
(これも……昨日聞いた)
いや、昨日ではない。
正確には――“同じ時間帯の再演”だ。
「……ああ」
龍真は短く返す。
美月は嬉しそうに頷いた。
「やった」
その反応も同じだった。
昼休み。
食堂。
廊下。
すべてが同じ構造で進行している。
だが、違和感は確実に増えていた。
龍真は窓を見る。
桜の花びらが落ちる。
だが――。
落ちる位置が違う。
(ズレている)
昨日と今日が、完全に一致していない。
しかし、微妙に“重なっている”。
時間が壊れている。
その確信が、ゆっくりと形になる。
「龍真」
背後から声。
美月だった。
「今日ってさ」
「昨日と同じだと思う?」
龍真は振り返る。
美月の表情は、いつも通りだ。
だが、目だけが違った。
“気づいている目”だった。
「……何を言っている」
「うーん」
美月は少し考える。
「デジャヴってあるじゃん?」
「それがずっと続いてる感じ」
龍真は沈黙する。
やはり、気づいている。
だが確信は持っていない。
「気のせいだ」
龍真はそう言った。
美月は少しだけ笑った。
「そうかもね」
だが、その笑いは軽くなかった。
放課後。
誰もいない廊下。
夕方の光。
時計の針は、確かに進んでいる。
それでも――。
龍真は確信した。
“この一日が終わっていない”。
そして。
終わったはずの時間が。
再び、朝へ戻る感覚がした。
――瞬間。
教室の扉が開く音。
「おはよーっ、龍真!」
同じ声。
同じ明るさ。
同じ世界。
だが、もう一つだけ違っていた。
美月の視線が、確実にこちらを見ていた。
「ねぇ」
「これ、三回目だよね」
教室の空気が止まる。
龍真は息を止めた。
(完全に……重なっている)
時間が壊れているのではない。
“同じ一日が繰り返されている”
そしてその中心にいるのは――。
神楽坂美月だった。




