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思兼学園異聞  作者: 歌麿
第二部 桜と龍と恋する神殺し~神殺し候補は恋に全力です~
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夢喰らいの神

 夢を見た。

 満開の桜。

 風に舞う花びら。

 見覚えのある場所。

 思兼学園の神域だった。

「また……夢?」

 神楽坂美月は辺りを見回す。

 誰もいない。

 静かな世界。

 空だけが妙に赤かった。

 その時。

「おや」

 声がした。

 知らない声。

 柔らかく。

 穏やかで。

 けれど。

 聞いた瞬間に背筋が冷える。

「起きていましたか」

 桜の木の下。

 一人の男が立っていた。

 長い黒髪。

 白い装束。

 年齢は分からない。

 若くも見えるし。

 途方もなく古くも見える。

 不思議な男だった。

「誰……?」

 男は微笑む。

 それだけで空気が変わる。

「失礼しました」

 優雅に礼をする。

「名乗るべきですね」

 そして。

 静かに告げた。

「那由禍」

「原初神第一柱です」

 その瞬間。

 美月の身体が凍り付いた。

 原初神。

 知っている。

 忘れるはずがない。

 桜の檻で戦った敵。

 世界の裏側に潜む存在。

 そして今。

 目の前にいる。

「あなたが……」

「ええ」

 那由禍は微笑む。

「ようやく会えました」

 その言葉に。

 妙な違和感を覚えた。

 敵なのに。

 殺意がない。

 憎しみもない。

 ただ。

 興味がある。

 そんな目だった。

「木花咲耶姫の器」

 那由禍が言う。

「想定以上ですね」

「何が目的なの」

 美月は一歩下がる。

 男は少し考えた。

「観察です」

「は?」

「観察」

「理解」

「興味」

 まるで研究者だった。

「あなた方は面白い」

「人間は特に」

「短い時間しか生きないのに」

「なぜそこまで必死になれるのでしょう」

 理解できない。

 そう言っているようだった。

「当たり前でしょ」

 美月は睨む。

「大切だから」

 那由禍は首を傾げた。

 本当に不思議そうに。

「百年後には死にます」

「それでも」

「千年後には忘れられます」

「それでも」

「万年後には存在した記録すら残らない」

「それでも守るのですか」

 美月は迷わなかった。

「守るよ」

 即答だった。

「龍真も」

「シロも」

「学園も」

「みんな大切だから」

 那由禍は黙る。

 そして。

 少しだけ笑った。

「理解できません」

「だから人間は面白い」

 その瞬間。

 世界が揺れた。

 美月は飛び起きた。

「はぁっ!」

 汗が流れる。

 午前三時。

 自室。

 夢だった。

 だが。

 ただの夢ではない。

 確信があった。

 すると。

 窓が開く。

 白い影。

 シロだった。

『侵入確認』

「シロ!?」

『夢領域への外部アクセスを確認しました』

 美月の顔色が変わる。

「じゃあ本当に……」

『はい』

『敵です』

 同じ頃。

 九頭竜家。

 龍真も目を開いた。

 静かな部屋。

 だが。

 その目は完全に覚醒していた。

「夢か」

 違う。

 あれは接触だった。

 理解している。

 すると携帯が鳴った。

 シロからだった。

『緊急連絡』

『原初神第一柱との接触を確認』

 龍真は短く答える。

「ああ」

「俺も見た」

 翌朝。

 思兼学園。

 美月。

 龍真。

 シロ。

 三人が顔を合わせる。

「見た?」

「ああ」

『確認済みです』

 沈黙。

 全員同じ夢。

 偶然ではない。

 その時だった。

 シロが屋上を見上げる。

『反応確認』

「え?」

 三人が振り返る。

 校舎屋上。

 朝日に照らされるフェンスの向こう。

 一人の男が立っていた。

 黒髪。

 白装束。

 穏やかな笑み。

 那由禍。

 原初神第一柱。

 男は軽く手を振る。

「おはようございます」

 まるで。

 旧友に挨拶するように。

「さて」

 その笑顔だけが。

 どうしようもなく不気味だった。

「少し遊びましょうか」

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