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思兼学園異聞  作者: 歌麿
第二部 桜と龍と恋する神殺し~神殺し候補は恋に全力です~
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18/42

桜花共鳴

 翌朝。

 神楽坂美月は教室へ向かう廊下を歩いていた。

 すると。

「あれ?」

 すれ違った一年生の女子が立ち止まる。

「どうしたの?」

「今……」

 女子生徒は廊下の隅を指差した。

 小さな植木鉢。

 昨日までは蕾だった花。

 それが。

 今、満開になっていた。

「え?」

 美月も足を止める。

 偶然だろうか。

 そう思った。

 だが。

 その日一日で同じことが三回起きた。

「神楽坂さん!」

 昼休み。

 園芸部の生徒が駆け寄ってくる。

「どうしたの?」

「見てください!」

 案内された先。

 中庭だった。

 花壇一面の花が咲いている。

 昨日より明らかに元気だった。

「最近こうなんです!」

「へ?」

「神楽坂さんが近くにいると花が元気になるんです!」

「そんなわけ……」

 言いかけたところで。

 花壇のチューリップが一斉にこちらを向いた。

 気がした。

 放課後。

 屋上。

 シロが真面目な顔で報告していた。

『神楽坂美月』

『木花咲耶姫因子活性化確認』

「だから日本語で」

『歩くパワースポットです』

「嫌だああああ!」

 美月は頭を抱えた。

 龍真はフェンスにもたれている。

 特に驚いた様子もない。

「暴走ではない」

「そうなの?」

「ああ」

「じゃあ何?」

「適応だ」

 さらっと言う。

 だが。

 本人は全然さらっと受け止められなかった。

「私、昨日まで普通の女子高生だったよね?」

「今も普通だ」

 龍真が答える。

「神の力が少し増えただけだ」

「普通の基準がおかしい!」

 三人は放課後、そのまま九頭竜家へ向かっていた。

 資料を調べるためである。

 そして。

 玄関を開けた瞬間。

「おお」

 祖父がいた。

 九頭竜玄斎。

 相変わらず鋭い目をしている。

 だが。

 美月を見ると嬉しそうだった。

「また来たか」

「お邪魔します!」

「龍真」

「何だ」

「デートか」

「違う」

「そう見えます?」

 美月が聞く。

 玄斎は即答した。

「見える」

「やった♪」

 美月が喜んだ。

 龍真は額を押さえた。

 資料室。

 古い巻物や文献が並んでいる。

 シロが検索を開始した。

『木花咲耶姫系譜』

『特徴』

 文字が浮かび上がる。

 植物活性。

 生命力増幅。

 浄化能力。

 再生能力。

「なんかすごい」

 美月が呟く。

 さらに続きが表示された。

 神格干渉能力。

 神性破壊適性。

 神殺し適性。

「最後怖い!」

『事実です』

「もっとオブラートに包んで!」

 その時だった。

 龍真の表情が変わった。

「来るぞ」

 空気が冷える。

 シロも耳を立てた。

『敵性反応確認』

 帰り道。

 山道。

 木々が揺れていた。

 だが風ではない。

 生命力そのものが吸われている。

 葉が枯れる。

 花が萎れる。

 草が黒く変色する。

「何これ……」

 美月が立ち止まる。

 そして現れた。

 黒い影。

 人型。

 だが妖魔とも違う。

 その周囲だけ生命が死んでいる。

『生命力収奪型』

 シロが分析する。

『木花咲耶姫系統への対抗兵装』

「対抗兵装?」

 美月が聞き返す。

 その瞬間。

 影が動いた。

 速い。

 一直線に龍真へ向かう。

「龍真!」

 考えるより先だった。

 美月は飛び出していた。

 そして。

 桜が舞った。

 山中に。

 季節外れの桜吹雪。

 光の花びらが空を覆う。

 影が止まる。

 まるで見えない壁に阻まれたように。

「え……?」

 美月が呆然とする。

 花びらが周囲を包んでいた。

 龍真が静かに言った。

「結界か」

 シロも頷く。

『確認』

『神楽坂美月による自動防御術式』

「私が?」

『はい』

「私が!?」

 本人が一番驚いていた。

 龍真は影へ向かう。

 一歩。

 二歩。

 次の瞬間。

 黒い影は霧散した。

 静寂。

 花びらが舞う。

 夕日が山を赤く染めていた。

「本当に私なの……?」

 美月は自分の手を見る。

 普通の手だった。

 昨日までと変わらない。

 だが。

 確かに変わっている。

 龍真が言った。

「少しずつ慣れろ」

「簡単に言うなあ……」

 美月はため息をついた。

 その夜。

 自室。

 窓を開ける。

 月明かりが差し込む。

 ふと。

 掌を見た。

 一枚の花びらが現れる。

 淡く光る桜。

 夢じゃない。

 現実だ。

「私……」

 神殺し候補。

 その言葉が頭をよぎる。

 少し怖かった。

 でも。

 なぜだろう。

 龍真がいるなら大丈夫な気がした。

 そんなことを思ってしまった。

 窓の外で。

 桜の花びらが静かに舞っていた。


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