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狂想爆炎ピアチェレディ!  作者: ハリエンジュ
第一話『ブリキと屍体のおとぎ話』
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その5 想像ガール&創造レディ

狂騒(きょうそう)爆炎(ばくえん)ピアチェレディ! 

第一話『ブリキと屍体(したい)のおとぎ話』

その5 想像ガール&創造レディ


teller(語り手):アリス=クロスロード





 スズベル、さん。

 ……スズベルさん……。


 私を、助けてくれた人。

 私を、守ってくれた人。

 私なんかを、可愛いと言ってくれた人。

 私の涙を、優しく拭ってくれた人。

 私を――抱き締めて、くれた人。


 キャロッタ村から去って行ったスズベルさんの愛機、ブリキハートの姿が見えなくなるまで、私はずっと立ち尽くしていた。

 ぼんやりとして、ぽーっとして。

 ずうっと、ブリキハートの背中を見つめて。

 その背中から、スズベルさんのあの明るい笑顔を、想像して。


 どうし、よう。

 ぼんやりしている気はするのに、思考が(せわ)しない。まとまらない。

 心臓がずっと、ずっとうるさくて、くらくらして、顔が熱くて。

 耳鳴りまでしそうで、気を抜いたら倒れてしまいそうで。


 なんで、どうして。

 スズベルさんに出会ってから、スズベルさんの顔を見る度に、彼の言葉を胸に刻む度に。

 私はこんな、未知に襲われてしまう。

 未知の熱と未知の拍動(はくどう)に、今までの空っぽの私がじわじわ、じわじわ飲み込まれていく。


 スズベルさん。

 素敵な人、だ。

 かっこいい人。

 優しい人。

 だって私、誰かの為に怒る人を、初めて見たの。


 この村の人たちはいつも怒ってばかりだけど、それは自分を守るため。

 それはそれで強さだとも思う。

 自分自身を大切に想えるのは、凄いこと。

 私には、できないから。


 ずっと、仕方ないと思ってた。

 ずっと私は、諦めてた。


 私は何も望んではいけない。

 私は何も願ってはいけない。

 想像することは、私には許されない。

 思考は罪。

 感情も罪。

 私は心を持って生きてはいけない、なんて、私はずっと思ってた。


 私の『想像』は、きっと『創造』になってしまう。

 遠くのどこか、何かと繋がり合ってるような感覚がいつもあって。

 災いの予感が身体に伝わって、それが現実になってしまって。


 私が元凶だと、全部が私のせいだと、村の大人たちは言った。

 私が何も感じなければ、私に何かと繋がる心なんてなければ、きっと世界は幸せになる。

 ずっとずっと、そう思って、私はただ生きていた。


 だけど、あの人は、スズベルさんは。

 叫んでくれた。声を上げてくれた。


 許して、くれた。

 私の、想像を。


 明日の、未来の幸せを祈ること。

 希望を夢見ること。

 私のぜんぶ、許してくれたの。

 あんなに、声を張り上げてまで。


 スズベルさんの言葉が、ずっと頭から離れない。


 私の世界とは、なんだろう。 


 この村?

 私が死んだように生きてきたこの小さな村だけが、今までの私の世界のすべて、だったけど。


 でも、きっと違う。

 少しずつ、少しずつ私は気付いてきている。

 スズベルさんの声をきっかけに、私の心がゆっくりと目覚めかけてる。

 『私』の始まりが、すぐそこまで来ている。


 だから、私は始まりの準備をする。

 今までの私に、心の中で問いかけてみる。


 嘘つかないで、誤魔化さないで。

 ちゃんと答えて、ちゃんと教えて。

 ちゃんと、私だけの言葉を想像して。

 私とお話して、臆病な『私』。

 ねえ、アリス=クロスロード。


 私、本当に全部を、想像を諦めていた?


 ――嘘。本当は少し、想像していた。


 私の両親の話は、この村に辿り着いた母を最期まで支えてくれた、年老いた産婆さんが聞かせてくれた。教えてくれた。

 彼女も、両親と同じでもうこの世から居なくなってしまったけど、優しい人だった。

 優しかった。

 優しさを、愛を、私は何も知らないわけじゃなかった。

 短い間だとしても、ちゃんと優しさを向けられた時間だって、ちゃんとあった。


 産婆さんから聞いた話を元に、今より子どもの頃はたくさん、たくさん想像してた。

 母のぬくもりや、父の笑顔。

 知らない思い出をたくさん、たくさん思い描いてた。


 私、とっくに想像してた。

 想像することを、知ってしまっていた。



 ねえ、私、本当に何も望まなかった?

 願わなかった? 憧れなかった?


 ――嘘。本当は、憧れていたものがあった。


 村の人たちは、余所者の私に一人で生きるように言った。

 私がおかしな体質だと知られてからは、心の刺激を防ぐ為に、あらゆる娯楽を封じられてしまった。


 でも、あの優しい産婆さんが。

 今はもう居ない優しいおばあさんが、本を、時々贈ってくれた。

 娯楽小説だった。

 少し叙情的(じょじょうてき)に寄った作風の、夢と希望に溢れた童話を、沢山。


 そんな空想的な物語が、今までの私の世界だった。

 架空の世界に、本当はずっと憧れていた。


 憧れがあったから、望みも願いも夢も、本当はあった。

 なりたい私も、あった。


 ――優しい人に、なりたかった。

 産婆さんが穏やかに眠ってからは、特にそうだ。

 私はずっと、優しさが欲しかった。

 だけどこの村の中で優しさを見つけるのが、私はとんでもなく下手くそで。

 だからせめて、私は私の心の中に優しさを見つけたかった。探したかった。



 ――ああ、馬鹿だ。私。

 何も諦められてなかった。罪ばかり犯してた。

 屍体(したい)の振りをして生きていた。

 罪なんて響きに酔っていることに気付かないで、諦める言い訳ばかり用意して、俯く自分を正当化して。

 足掻くこと、努力することから逃げて。


 そんなのどこも、優しくない。

 怯えてばかりで、誰かの為に何かに立ち向かうことも忘れてたくせに。

 ばかだ、私。最低だ。



 だけどそんな最低な私が、スズベルさんに出会えた。

 あの人と出会って、あの人を見て、言葉を交わして。

 私は、誰かを守るということを知った。



 この知らない拍動(はくどう)が、身を焦がす熱が、不安定な呼吸が、私の新たな始まりの合図だとしたら。

 例えばこれから私が――新しい私として、生きられるとしたら。

 私は――。



「ひぃ……!? なんで、まだ……!?」



 ――突然、悲鳴が聴こえた。

 村人の、怯えた声。

 振り返り、私は絶句する。


 どうして。

 今までならすぐに気付いたのに。

 感知、できていたのに。

 何も感じる余裕がないくらい、私は、想像しすぎてしまったの?

 そんなに、考え込んでしまったの?


 ――村を覆うように、黒い怪物がいた。

 黒いドレスのようなベールを全身に纏った――角のある、魔女。魔女リカルカ。


 何度も倒された筈の魔女の残滓(ざんし)がまだ残っていて、それが脅威として(あらわ)れてしまった。

 もうスズベルさんは出立(しゅったつ)してしまったのに。

 魔女リカルカは、こんなに立て続けに現れるものなの?


「う、うわあ!! 離せ!!」


 私はまだぼんやりしていたらしい。

 切羽詰まった絶叫が耳に届いて、頭の中がようやくクリアになってくる。


 魔女リカルカの角を覆うベールは、幾重(いくえ)にも延びてドレスのように魔女の全身を覆っている。

 そのうちの何本かが、まるで操り糸のように細まって、次々と村人の身体の自由を奪っていた。


 先程聞こえた声は、村長さんのものだ。

 私をずっと、率先して疎んでいたお爺さん。

 だけど。


「いやあ! おじいちゃんを離して!!」


「!! 来ちゃだめだ! 逃げるんだ!」


 リカルカに捕まっている村長さんに、小さな女の子が泣きながら駆け寄った。

 長いみつあみの、ピンクのスカートが似合う女の子。

 ……村長さんの、お孫さん。

 ――そして、私が未だにこっそり隠し持っている編みぐるみの持ち主だ。


 村長さんたちが余所者の私を疎む理由、少しだけならわかる気がする。


 このキャロッタ村に居るのは、多くのお年寄りと、ほんの数人の幼い子どもだけ。

 ここは少し閉鎖的で排他的な空気の小村だからか、ほとんどの若者は、成人と同時に村を出て独立してしまう。


 だけど村長さんの息子夫婦は、あのみつあみの可愛い女の子のご両親は、魔女リカルカに殺されている。

 きっかけはきっと、私が両親を喪った隣村の事件。

 周りの救援がなく壊滅した私の故郷に、村長さんの息子夫婦は思うところがあったのかもしれない。

 数年前、山間部でのリカルカ出現の報せを受け、救助のボランティアに立候補し――旅先で魔女に襲われ亡くなったと聞く。


 私はその時も、リカルカを感知していた。

 周りからすれば、気味が悪かっただろう。


 何より、私の故郷の事件さえ起きなければ、もしかしたらお二人は今も――。

 ――そう、だから。

 村長さんたちは私を憎み、子どもたちは私に怯えるのだ。


 私という共通の悪が居た日々、彼らは少しは、自分の大切な心を守れたのだろうか。


 でも、でも、私は。


「なんだ……!? 身体が勝手に……っ、だめだ!! 離れろ!!」


「おじいちゃん!?!?」


「やめろ……っ! やめろおっ!! 私に、その子を……!!」


 ――魔女に捕まっている村長さんの様子がおかしい。

 お孫さんに手を伸ばしているのに、その手が、明らかにお孫さんの小さな首を狙っている。


 村人に絡みつくリカルカのベール。

 操り糸のようなそれは、捕らえた人々を本当の意味で操り人形にしようとしてるんじゃ。


 あちこちから苦しみの声が聞こえる。

 操られている人々の声も、家族が捕らえられてしまった人々の声も。

 家族が、その人の大切な家族を傷付けようとしている。

 魔女が人々の自由を奪い、悲劇を生もうとしている。



 そして、そこまで来てようやく、私は駆け出していた。


 【妖精(フェアリー)因子(ファクター)】。

 スズベルさんが話してくれた、私の体質。

 私本人ですら、わからないことだらけだけど。


 私の心が豊かだというなら、広がって、繋がって、叶えてよ。

 ――ううん、願うだけじゃだめ。

 私が、叶える。叶えてみせる。


 そう、始まりの合図だ。

 『私』の物語は今から始まるんだ。

 だから走り出したんだ。


 例えば。

 例えばこれから私が――新しい私として、生きられるとしたら。


 私は、誰かを守れる私になりたい。

 スズベルさんのようになりたい。


 もう、悪にはなりたくない。

 何もせず勝手に傷付くだけで、誰かの心を守れた気になんて、なりたくない。


 沢山の人を守れる私になりたい。

 誰かを守ることを、スズベルさんが教えてくれたから。


 そうやって私は、いつか――スズベルさんを、守りたい。

 あの人の力になりたい。

 あの人を助けられるような私になりたい。

 あの人が頼ってくれるような私に、成長したい。


 変わりたい。

 スズベルさんとの出会いは大きなものだって信じたいから。

 貴方との出会いを尊びたい。

 尊ぶ証を作りたい。私が強くなることで。


 スズベルさん。

 優しく明るく、強い貴方。

 沢山の言葉を持ってる貴方。


 拍動(はくどう)の理由、私はもう気付いてしまった。

 生きるための支えにしていた、ぼんやりとした家族への憧れを超えてしまった強い感情。

 私の中の想像を一瞬で越えてしまった、想い。


 スズベルさん。

 貴方が好きです。

 貴方が、愛しい。

 貴方が、大好き。


 だから、だから。

 貴方に出会えた(よろこ)びを(かて)に、次に会う貴方の前で、笑顔が、言葉が、優しさが溢れるように。

 私は、今ここで変わらなきゃ。



 想像が許されるなら。

 私の想像が豊かだとしたら。

 本当に想像が創造になるとしたら。


 想像力、今ここで全部使い切っていい。

 創造したそれを、これからの、私の未来の全ての希望に変えて生きていくから。



 走ったまま、魔女に、魔女に捕らえられている村人に駆け寄りながら、私は必死に考える。

 想像、する。

 私の『ヒーロー』を、想像する。

 本で読んだ知識や、僅かな思い出を全部、全部を引きずり出して、想像力に変えていく。


 おとぎ話、私の夢、今ここで現実になって。

 『想像』よ、『創造』になって。


 スズベルさんの言葉を思い出して、勇気に換える。





 ――『 WITTS(ウィッツ)(こころ)で【レディ】と繋がる。手始めに、【レディ】の名前を呼んでやるのさ。こんな風にな!』





 ――『え、あ、あの……? ふぇ、ふぇありー・めいど……? とは、な、なんでしょうか……?』


――『あ、昔の言い回しで『美少女』って意味ね♡♡ それこそアリスちゃんみたいな♡♡』



――『これが淑女って意味だと『マイ・フェア・レディ』とかになるらしいんだけど……』







 ――そう。そう、言ってくれた。あの人は。


 立ち止まる。

 スズベルさんがそうしたように、声を上げるために。

 息を整えて、それから、すっと息を吸い込んで。


 お願い。

 名前を呼ぶから、応えて、私の、ソウゾウ。



「――『クイーン・オブ・ハート』、テイルスタート!! Are you(準備は) ready(いい)? My() fair(しい) lady(ひと)!!」



 ――そして、やっと。

 私の想像は、本当の意味で創造になった。

 私の中のおとぎ話が、現実として、そこに生まれた。


 目の前に、巨大なロボットが顕現(けんげん)している。


 私の【レディ】、『クイーン(ハート)オブ()ハート(女王)』。


 私が創造したものだから、正確には【レディ】じゃないかもしれないけど、それでも。


 スズベルさんのブリキハートにそっくりな姿かたち。

 だって、私の中のヒーローは、これからずっとこの姿だと思うから。


 機体の色は、ブリキハートと違って青いけど。

 だけど貴方は、私の【レディ】。

 私の、誰より美しい希望。


 私を迎えてくれるように開いたコックピットのハッチに、迷わず飛び込む。


 ありがとう、クイーン・オブ・ハート。

 私は貴方と一緒に、私の世界を変える。


 そして、私も今ここで、新しい私として歩き出す。変わり出す。


 初めての戦いが、始まる。

 私は今から生まれて初めて、誰かを守る。

 私がなりたい私へと、踏み出すんだ。



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