その4 いつか二人で、レンガ道を。
★ 狂騒爆炎ピアチェレディ!
第一話『ブリキと屍体のおとぎ話』
その4 いつか二人で、レンガ道を。
teller:スズベル=エメラルダー
◆
アリスちゃんを膝に乗せる形で、コックピットに身を落ち着ける。
別にオレもそんなに背が高い方じゃねえけど、アリスちゃんが結構ちまっと小柄で可愛らしい感じだから、こう、オレの腕の中にジャストフィットですっぽり収まる感じが…………あ゛~~~~アリスちゃんマジ可愛い最高。
勿論オレはセクシー系やかっこいい系の素敵なお姉様♡ もどタイプだけど、アリスちゃんは……オレが守ってあげなきゃって感じがすげー良くて……いやかっっわいなこの子。決めた絶対デートする。
『スズベルくん、スズベルくん? ちょいと君の腕の中を今一度刮目してごらん。君が堪能しすぎたせいで可愛いアリスちゃんがショートしちゃってんのよね』
ブリキハートのコックピット内に響くのは、冥助のオッサンの声。
オッサンの通信用のレンズはお喋りがうざってえからさっきの戦闘中にブッ壊しといたはずなのに、何でだ。
……と思ったが、冥助のオッサンはわざわざ機体に入り込まなくても、オレら戦闘員が常時着用してる耐摩擦グローブのレンズを通して会話可能なことを思い出す。
このオッサン、ノリがやたらユルくて気が抜けっから戦闘中は特に話したくねえんだけど。
「つか待てオッサン! てめえいつまでオレのアリスちゃんを『可愛いアリスちゃん♡』呼びする気だ!?」
『しれっと君のモンにするんでないよ。ほらもう、また赤くなっちゃってかわいそうに』
かわいそう?
冥助のオッサンの言葉を不審に思って、ようやくオレはかわゆいアリスちゃんの顔を見やる。
めっっちゃ顔が赤かった。
そのまま固まってしまっているようで、呼吸が上手くできているかも怪しい。
ほとんど抱き締めてる形で膝に乗せたりしたから?
めっちゃ密着してるから?
……でも免疫なさすぎてこんなに照れ照れな反応見せてくれるアリスちゃん、やっぱりうぶうぶピュアピュアで超かわいい♡
こんな純粋な生き物、オレが絶対に守ってあげないと……。
そしてあわよくばアリスちゃんにはもっとイイとこ見せたい。
アリスちゃんみたいな可愛い女の子に純粋な憧れの視線向けられるのって、オレにしちゃあかなりのレアケースだから。
そりゃあやる気も出るってもんよ。
かわい子ちゃんにキラキラした目で見つめられるなんて、嬉しいどころの騒ぎじゃねえし?
さて、と。
魔女リカルカ、ちゃちゃっと倒しちまうかね。
改めて操縦桿を強く握り直すと、冥助のオッサンが湯呑みを啜る音が聞こえた。
「人がこれからバトろうって時にくつろいでんじゃねえオッサン」
『頼れる戦闘員くんの色ボケタイムが長かったもんだから、ようやく俺も一息つけたんだよなあこれが』
グローブのレンズから浮かび上がるホログラム映像の中のオッサンは、ごそごそと茶菓子を探し始める。よりだらけてんじゃねえ。
『ああそうそうスズベルくん? 敵さんの情報をモニターに送ったけど気をつけな。ちょっと今回、厄介な個体かも』
「ああ? 厄介だあ?」
片手をモニターに滑らせて、オッサンが送り込んだ解析結果を確認する。
……なるほど、まあ、そうだな。
魔女リカルカの弱点は、肥大化した角。
角の形状は、魔女の帽子のようでかなり目立つ。
角ということもあり、大抵は頭部にあるモンだが……今オレが対峙しているリカルカは、少し変わった姿だった。
大体のリカルカは、弱点の角を保護する為に角周辺をベール状の器官で覆っている。
でも、目の前のリカルカのベール状の器官は発達しすぎていた。
ベールが延びて膨らんで増殖して、ガーディアンのように魔女の本体を囲んでいる。
弱点を守るベールをあれだけ侍らしてるってことは、いきなり弱点ブチ抜いて終わらすのは無理だ。
まずはあのベールどもをブッ倒さねーと。
「ったく、守る為に気取んのはオレだけで間に合ってるっつーの……!!」
文句を吐き出しながらも、モニターの魔女解析結果の詳細を改めてチェックする。
強度を考えると、接近戦の方がいいか。
左の操縦桿を握りながら、操縦桿横にあるスイッチを押す。
ブリキハートの左腕部は、直方体のような形のゴツい装甲に覆われている。
万能収納装備・『ボックスアーム』。
ブリキハートの戦闘を補助するちょっとしたプレゼントボックス。
ブリキを守る、鉄の箱。
ボックスアームが開き、ブリキハートの為の武器を甲斐甲斐しく差し出して。
がちゃんがちゃんと軋む接続音と共に、ブリキハートの左腕に――斧が、握られた。
この斧が、ブリキハートの接近戦用のメインウェポンだ。
接近戦に限らない話なら、右腕部に設置された主砲をガンガンぶっぱなす手もある。
いざとなりゃ、機体をある程度オート操縦にしてオレ自身がクロスボウで弱点を狙う手もある。
が、今はこの斧で、あの邪魔なベールを一気にぶった切っちまった方が色々早い。
ブリキハートの脚部の車輪の調整を済ませ、滑走準備を整える。
今回は無駄な駆け引きはナシに、最初から相手さんに超速で突っ込んで、斬る。
機体を走らせる前に、アリスちゃんの様子を確認する。
真っ赤になって固まってた状態からは抜け出せたみたいだけど、魔女を前にした現状を認識してしまったせいかやっぱり不安そうな顔してて。
そんな表情も勿論最高に可愛くてラブだけど、でも、どうせなら。
――ごめん、もう少しだけドキドキしてて。
「……大丈夫だよ、アリスちゃん。君のことはオレが絶対に守ってあげる」
「スズベルさ……ひゃっ!?」
ちゅ、とアリスちゃんの旋毛に一つキスを落とす。
途端にアリスちゃんはまたガチガチ緊張茹でダコモードに逆戻り。
ほんと、いちいち照れてくれるの超可愛い。
ドギマギして、ほっぺた真っ赤にしてるアリスちゃんの可愛さときたらもう、こう、クる。
大丈夫、ほんとに守るよ。
君がドキドキでいっぱいいっぱいになってる間に、怖いもの全部終わらせたげる。
可愛い女の子を守りたい気持ちなら、オレは、あの魔女のベールにだって余裕で勝てる。
可愛い女の子は、アリスちゃんは、オレがこの世界で数少ない好きなものだから。
その為なら、頑張れる。
いま全力出さなきゃ、オレは生きる歓びを見逃しちまう。
「アリスちゃん、もうちょいぎゅっと掴まっててね。さて、と……突っ込め、ブリキハート!!」
アクセルを迷いなく踏み込む。
一直線に、ブリキハートが魔女へと突き進む。
滑らかに軽やかに地を抉り、スマートにスピーディに、魔女リカルカへと距離を詰め。
モニター越しに一瞬、複数のベールを注視する。
冥助のオッサンの解析結果と自分のこの眼で確かめた結果。
ここだ、と見極めた一線をはっきり思い浮かべて、そこを狙って――斧を振った。
思い描いた一線に従い、まとめてベールをぶった斬る。
ベール状の器官の、それぞれ特に脆い部分を一気に潰せる一線を狙った、一閃の、会心の一撃。
オレの読みは正しかったようで、脆い部分をまとめて斬られたベール群は、たった一撃で瓦解していく。
へっ、ガーディアン気取りも形無しなこって。
そこそこ勤続してるWITTS戦闘員ナメんな。
オレはリカルカ相手だと、隙や弱点を見極めるのはかなり得意分野なんだよ。
だからこそ、条件さえ揃ってりゃいつでも一発で仕留められるクロスボウをコックピットに常備しているわけだし。
――で、敵をブッ倒す為の段階を一個踏んだだけで油断しちゃならねえことも、一応わかってるつもり。
本体を守るベールを失ったリカルカの様子が、確かに変わったのを肌で感じた。
ブリキハートに隔てられていても、リカルカが放つビリビリとした嫌な空気が伝わってくる。
警戒の為に斧を構えたまま、機体をざっと後退させ一定の距離を取る。
すると、リカルカの情報を映し出していたモニターの表示が変わった。
同時に、冥助のオッサンの声が機内に響く。
『ありゃー、これは第二形態……いや手負いモードってやつかな。ベールがなくなって魔女さんも混乱してるっぽい。こういう状態の魔女さんは見境なく暴れ回っちゃうからスズベルくん、気をつけてね』
「んなアバウトに気ぃつけろ言われても嬉しかねえよ! ったく、手負いとか……めんどくせー個体だな!」
まだリーチを考えると、斧が届く。
試しにリカルカ頭部の角を狙って斧を振り下ろす、が。
「クソ……っ! はっえーな!?」
ベールの重量をまるごと失ったからか、手負いの暴走状態だからか。
リカルカの俊敏性が急激に増した。
斧を振っても、アクロバティックに宙を舞うリカルカに躱される。
そのままブリキハートの隙間を掻い潜るように攻撃の意思を見せてきたもんだから、リカルカの顔面を蹴り倒してまた距離を取る。
クソ、本当厄介だ。
あれじゃ魔女ってより獣だろ。ケダモノ。
向こうが身軽さを身につけちまったなら、接近戦は分が悪い。
アリスちゃんは今オレの腕の中にいるし、今回は周りの被害を心配する必要もない。
右腕の主砲を使えばなんとかなるか、と操作を進めていた頃。
また、モニターの表示が変わった。
モニターどころか、目の前のリカルカの姿すら、少し変わった。
「ああ!? あんにゃろ、角引っ込めやがった!?」
『それだけじゃないねえ。見てみなスズベルくん。角、増えてる。あれじゃ角っていうか、ハリネズミの針みたいになっちゃってんねえ』
冥助のオッサンの言う通り。
リカルカの頭部にあった角が、隠れるように内部に引っ込んだ。
だけどリカルカの生態研究結果だと、弱点である角は常に露出していないと生命活動に悪影響が出る……って話だったはず。
だからこそ、引っ込んだ角と入れ替わる形でリカルカの全身から一斉に飛び出した、棘のような――角。
あんにゃろ、角の位置を変えやがった。
ご丁寧に、複数のダミー付きで。
無駄に小賢しいことしやがって。
面倒な状況になったが、オレのやるべきことは変わらない。
主砲を撃って、角を全部一掃しちまえばダミーも弱点も全部叩ける。倒せる。
だから主砲の発射準備を、と思った時。
「……ぁ……っ」
オレにしがみついてくれている、小さなか弱い可愛いアリスちゃん。
アリスちゃんが、怯えたような声を上げた。
青白い顔のまま、かたかたと震えて。
そんな姿をほっとけずに、左の操縦桿から手を離してアリスちゃんをそっと抱き寄せる。
冥助のオッサンの話が、ちらりと脳裏を過ぎった。
【妖精因子】の話。
アリスちゃんの話。
何かと繋がりやすい、体質。
じゃあ、アリスちゃんは今、何かを感知してる?
――その答えは、すぐに分かった。
「おい、あの娘!! あのロボットの中にいるんだろ!?」
「やっぱりあの女は魔女だ! 魔女が魔女を呼び寄せた!!」
「あの娘が想像するからだ! あの娘の脳は、心は、毒だ! 菌だ! あの娘が何も感じなければ、災いは来ないのに!」
「何故考えた! 想像した!? もう災いを呼ぶな、魔女め!! 気味の悪い疫病神!!」
――村人のジジババが、野次を飛ばしていた。
奴らはわざわざ松明を持って外に出てきていたから、空が暗くなってきていることを今更理解する。
最悪なことに、ジジババが野次を飛ばしてる相手は怪物・魔女リカルカじゃない。
アリスちゃんだ。
アリスちゃんたった一人に、こんなに小さな身体の女の子に、村人どもの悪意が、敵意が、怒りが、憎しみが、一斉にぶつけられている。
冥助のオッサンの、【妖精因子】の説明が、また、脳裏を過ぎる。
精神の過剰活性。
心が豊かすぎる。
何かに共鳴しやすく、繋がりやすく、理解しすぎる。
オレだってそんなこと知ってるよ。
アリスちゃん本人と話せば一発でわかるよ。
そうだよ。この子、心が豊かなんだ。
愛を知らないのに知ってるんだ。
悪意しか向けられてこなかったのに、それでもさ、この子さ。
自分に悪意を向けるアンタら村人のことも、愛せるように頑張ってんだよ。
小さな善意を、微かな希望を、この世の幸せを一生懸命探して、信じて、一人で生きてきたんだよ。
編みぐるみ、とかさ。
自分自身は大切にされてないのに、誰かにとっての大切や、誰かにとっての愛しいなら、わかるんだ。わかろうとしてるんだ。
心、豊かなくせに。
きっと想像力だって、村人の言う通り豊かだろうに。
この子、自分が誰かに悪意を向ける発想すらないんだ。
それだけは、ないんだ。
今は黙っちゃってるけどさ。
村人どもの悪意が心に伝わりすぎて、涙目で怯えちゃってるけどさ。
アリスちゃんが優しい言葉を、綺麗な言葉を紡げる女の子だってこと、オレはもうわかっちゃってるんだ。
オレとは違う、博愛の子。
だからオレ、こんなに君のこと可愛いって思うんだよ。アリスちゃん。
数秒だけ、息を吐いた。
少し頭を冷やしたかった。
ただただ怒りだけを叫べればそりゃ楽だろうし、そっちのがオレの性に合ってる。
でもそれだけじゃ駄目なんだ。
今のオレが一番やりたいことは、アリスちゃんを守ること。
ただブチ切れるだけじゃ、アリスちゃんを怯えさせてしまう。
イイとこ見せるって決めただろ。
アリスちゃんの前では最高にかっこよくありたいんだよ。
抑圧だらけで生きてきたであろうこの子が、せっかく――オレのことは、きらきらした目で見てくれるんだから。
ブリキハートのスピーカーの出力を最大値に設定する。
オレの声を、叫びを、群れた村人全員に叩き込めるように。
「うるっっせえ!! 黙ってろや!! 邪魔すんな!!」
村人がざわつく気配がする。
戦闘の邪魔、と捉えたのか村人の何人かが松明持ったまま後ずさる。
そっちの邪魔じゃねえよアホンダラ。
「てめえら、二度とアリスちゃんの邪魔すんな!! 毒だの菌だのバッカじゃねえの!? アリスちゃんだって明日を夢見ていいんだ! 自分の幸せを想像していいんだ! なんでも、なんだって想像していいんだ!! てめえらなんかがアリスちゃんの世界を! 邪魔すんな!!」
困惑している様子の村人を無視し、アリスちゃんの目を見つめる。
ああ、やっぱ。綺麗な眼だな。
びっくりした顔も、すげー可愛いよ。
毒でも菌でも疫病神でもない。
魔女でもない。
君はとても可愛い、アリス=クロスロードちゃんだよ。
怯えが残ってんのかびっくりしてんのかどっちもか、今は息を呑む声すら出てこないみたいだけどさ。
オレはアリスちゃんの色んな表情をもっと見たい。
色んな言葉も、もっと聴きたい。
アリスちゃんの綺麗な眼に映るのは、もっと広く美しい世界であってほしい。
大丈夫。大丈夫だよ、アリスちゃん。
想像していい。創造していいよ、君の幸せな未来を、いくらでも。
心を殺す必要なんてない。
自由に考えて想っていいんだ。
心が豊かな君だから、まだ愛を持て余してるはずだろ。
オレが君を広い世界に連れてくよ。
人より、オレより豊かな君の愛を、どうせなら世界に振り撒いちまおう。
オレはこの子を、殺さない。
この子を屍体になんかしない。
【妖精因子】、素敵じゃん。
本人にも言ったけどさ。
アリスちゃんはマジ世界一可愛い、オレだけのフェアリー・メイドなんだから――ほら、ピッタリじゃん。
ブリキハートのコックピットのハッチを開く。
手にしたクロスボウに装填したのは、いつもと違う矢。
冥助のオッサンの声が聞こえる。
『――ああ。スズベルくんも気付いたんだ?』
「ああ。癪だけど、あのクソみてえな村人どもを見てな。……あのリカルカ、松明の火に怯んでやがる。火に特に弱い個体なんだろ」
『ご明察。そんじゃ、最後の仕上げだ。スズベルくんが仕留めやすいように、めーすけさんも手伝ってあげようかね』
そんな、のんびりとした声と共に。
ブリキハートの両肩をうっすら覆うレンズから、幻影が飛び出した。
オレが村人どもに怒鳴ってる間に冥助のオッサンが用意したであろう、ブリキハートのダミー映像が複数、リカルカを囲む。
手負いの状態かつ火に怯えてる今のリカルカじゃ、本体とダミー映像の区別はすぐにつかないだろう。
相手がダミーなんてセコい手を使ってくんなら、こっちも真似させてもらうわ。
オレは静かに、クロスボウを構える。
冥助のオッサンの操作によって、ダミー映像はリカルカを翻弄するように動き回っている。
ダミー映像と、村人の松明の火の気配。
それらでいっぱいいっぱいになっちまってるらしいリカルカの揺らぎを、オレは見逃さなかった。
リカルカの複数ある角の一つだけ、縮こまるように揺れた。
あれが、本物。魔女リカルカの紛うことなき弱点だ。
オレが魔女を倒すのは、仕事だから。
アリスちゃんを迫害するあんな村も、村人も、オレは大嫌いで仕方がない。
でも、アリスちゃんに話した通りだ。
オレには嫌いなもんばかり。
だから自分がちょっとでも好きになれたもんが、オレには凄く特別に見える。
好きなもんの為なら、いくらでも全力になりたい。
愛も憎しみも知った上で、最後くらいは何かを守ろう助けようって思えりゃそれで万々歳。
オレは博愛には生きられない。
アリスちゃんとは違う。
でもアリスちゃんの博愛は、愛しい。
あんな村人どもなんてオレは大嫌いだけど、そんな奴らすらまだ慮ろうとするアリスちゃんの心は、愛おしい。
大嫌いなものでも、それが、オレの愛するもんが好きなものなら、守るくらいはしてやってもいい。
それが、オレの。
オレの――スズベル=エメラルダーの、好きなもんへの愛し方だ。
そしてオレは、矢を射った。
対リカルカ用に調合された火薬が仕込まれた矢を、迷いなく放つ。
矢は真っ直ぐに空気を切り裂き、ふにゃけたビビりの角を撃ち抜く。
撃ち抜いた瞬間、火薬が効いて。
角を中心に、リカルカの全身がごうっと燃え上がった。
WITTSは、魔女狩り。
おいたが過ぎる魔女をこんな風に火炙りにすることだって、たまにはあるさ。
そんくらいの罰は受けろ。
だって、こんな。
「大丈夫? アリスちゃん。怪我、してない?」
「は、い……ありがとう、ございます……スズベルさんっ……ありがとう……ございます……っ!」
だって、こーんな可愛い女の子を泣かせたんだからさ。
そりゃあ、罪は重いだろ。
まあ勿論?
泣いてるアリスちゃんも儚げで綺麗で、何よりとっても可愛いけど。
◆
――魔女リカルカは倒したし、アリスちゃんの【妖精因子】のこともあるしで、戦い終わったらアリスちゃんをこんな村からWITTSに連れ出してめっちゃ甘やかしてあげよう!
……って、予定だったってのに。
「……おいコラ、オッサン。緊急招集ってどういうことだ」
『あはは、どんまいスズベルくん、解析結果が一応は異常事態だったもんだからね~』
冥助のオッサンが、言うところによると。
人里付近にリカルカが出ること自体珍しく、しかもこんな連続の出現は稀。
そのことで冥助のオッサンが続けてたデータ解析&索敵の結果が出た……ら、どうやらとんでもねえことが起きていた。
キャロッタ村より北部の荒野地帯、さらに北端の雪原地帯。
そこで二つ、巨大な戦闘反応が起きていたらしい。
だからこそ、災害に近い存在であるリカルカが活性化しちまったようだ。
地形や自然環境に影響を与えるほどの激しい戦闘が、同時期に二つ。
しかも二ヶ所の戦闘のそれぞれ中心部にいるだろう存在二つの正体は未だ不明。
反応は、魔女リカルカではないときた。
そんな危険地帯に、オレは今から単身ブリキハートで乗り込む。
しかも連戦。
最悪だ。
マジで他の奴らじゃ到着遅れんのかよ。
貧乏くじじゃねえかオレ。労災で組織訴えるぞ。
緊急事態だからWITTSイース・トーヴ支部に帰還する暇もなく、非戦闘員であるアリスちゃんを連れていけるわけもない。
オレは村の入り口でブリキハートを背に、アリスちゃんと向かい合っていた。
遠巻きにクソジジババども、もとい村人の視線を感じる。
敵意というより居心地が悪そうな視線。
オレが戦闘中に怒鳴ったからビビってんだろうか。
こいつら、オレがいなくなってからアリスちゃんに当たらなきゃいいけど。
冥助のオッサンが気にしてた被害報告など諸々の情報まとめは、レンズを通してリモートでまるっと冥助のオッサンに任せた。
だから、このキャロッタ村との話し合いはもう済んでいる。
後の対応はオレみたいな戦闘員の仕事じゃない。
だから今オレが話したいのは、アリスちゃんだけ。
最初からこの村じゃオレは、アリスちゃんとしか話したくないけど。
「……アリスちゃん、編みぐるみさ。ガキどもに渡すなら、オレ、一緒に行くよ?」
ジジババの背に隠れてるガキども。
アリスちゃんに偏見なんかでビビってるガキども。
それでもアリスちゃんは、あいつらの大切にしてる編みぐるみを今も大事に抱えてるんだ。
さっきのリカルカとの戦いの間も、怯えてオレにしがみつきながらも、村人の悪意に絶望しながらも、アリスちゃんはこの編みぐるみだけは頑なに守り続けていた。
だからオレはアリスちゃんの優しさを無駄にしたくなくて付き添おうとしたのに、アリスちゃんは静かに首を横に振る。
だけどそれは、決してネガティブな理由からではなかった。
「……私、編みぐるみ、あの子たちに自分で渡します。頑張り、ます」
「……大丈夫?」
「が……頑張り、ます。……あの子たちが、私を怖がっちゃうのは……私も、悪意や……あの子たちを怖がっちゃってるせいだと、思うから……私が、勇気、出さないと……何も変わらないから……だ、だから……頑張り、ます」
ああ、本当。
この子はやっぱり、びっくりするほど、他人の『善』に対してポジティブだ。
悪意なんて怖くて当たり前だろうに。
全てに打ち克つ必要なんて、ないのに。
でもこの子、頑張るんだ。そっか。
多分だけど、この時オレの中で、初めて見た時からずっと感じていたアリスちゃんへの『可愛い』が一気に溢れた。
気付いたらオレは、アリスちゃんをぎゅうっと強く強く抱き締めていた。
「!?!? す、スズベルさん……!?」
「……すぐに君を迎えに来るよ、オレだけのフェアリー・メイド。……少し話したけど、イース・トーヴの街は広くてさ。色んなとこがあってさ。レンガ造りの街並みがすっげー綺麗でさ」
「は、はい……?」
「改めて、約束。絶対迎えに来るから、そしたらイース・トーヴの街でデートしよ。二人きりでレンガ道を歩こう。オレが君を、完璧に幸せにエスコートしてあげる」
そうして、初めての時のように。
アリスちゃんに傅くように跪き、小さな片手を取って、指先に一つキスを落とした。
最初の手の甲へのキスは、ほんのあいさつのつもりだったけど。
指先へのキスの意味は、確か賞賛。
これから頑張ろうとしているアリスちゃんに、ちょっとしたエールのつもり。
ま、爆速で緊急事態解決して迎えに来てこんな田舎からすぐにオサラバさせてあげるつもりだけど。
立ち上がって、アリスちゃんを見下ろす。
ヤバい、この真っ赤になった顔、一生見てたい。癖になってきた。
ぽーっと照れちゃって、マジ超かわいい。
――やっぱり君の眼は、怯えて曇っている時よりもさ。
きらきら煌めいて光を宿してる時が一番可愛いよ、アリスちゃん。
「……ぅ、……っ……あ、あの……スズベルさん……! わ、私、わた、し……あの……!!」
「うん? どうしたの?」
アリスちゃんが、赤い顔のまま、わたわたおろおろとしながら、それでも懸命に、何かをオレに伝えようとしてくる。
めっちゃ可愛いな……と思いながらアリスちゃんをじっと見ていたら、アリスちゃんとばちりと目が合って。
その瞬間アリスちゃんが、頭から湯気が出そうなほど照れちゃって、固まって。
何秒かフリーズしたのち、アリスちゃんは俯いて、小さな小さな声でオレに言った。
「ほ、本当に……本当に……ありがとうございます……あ、あの……どうか、ご無事で……お、お気をつけて……」
「……ありがとアリスちゃん♡ 君の慈愛が最強のお守り♡♡」
「ひぁ!?!?」
最後に一度、アリスちゃんをぎゅーっとハグして。
絶対にこの子を迎えに来るんだって、自分に誓って。
そうしてやっとアリスちゃんにひらりと手を振って、オレはブリキハートに乗り込む。
「またね、アリスちゃん! 今度は涙だけじゃなく、君ごと攫いに来るからね♡」
「さ、さら……!? あ、ぇ、あ、ありがとうございます……! お、お怪我に、気をつけて……!」
ぎこちなく手を振り返すアリスちゃんが可愛くてデレデレしてたけど、そういえば、怪我、という言葉に思い当たることがあった。
アリスちゃんの前で行った二回の戦闘、どっちもオレはブリキハートのハッチを開けた。
アリスちゃんは守り抜いたけど、丁度矢を射る時、風やリカルカの纏う存在感の勢いで舞った小石が少し、オレの頬を掠めていた。
軽く血は出てたけど、一応戦闘後に処置はしたから気にしちゃいなかった。
と言うかWITTS戦闘員なら軽傷くらいは日常茶飯事だし。
ずっと心配、してくれてたのかなアリスちゃん。
やっっさし。マジでいい子すぎて可愛いから、もうちょいハグさせてもらえば良かった。
可愛いアリスちゃんに想いを馳せながら、ブリキハートを走らせる。
最初の目的地は、ここより北部の荒野地帯。
何がお待ちかねかはわかんねーけど、荒野でも雪原でも、ちゃちゃっと問題解決して、オレはアリスちゃんをかっこよく迎えに行かねば。
「よっしゃあ!! 待ってろよアリスちゃ~~ん♡♡」
『今離れたばっかでしょうに。女の子恋しくなるのがあまりにもはえーのよスズベルくんはさあ』
水を差すように、コックピット内に冥助のオッサンの声が響く。
だけど今はいちいち苛立っちゃいられない。
全てはスピード解決のため。
アリスちゃん。
博愛の女の子。愛情深い女の子。
オレをあんなに心配してくれたアリスちゃんの言葉のお守りがあれば、オレはしばらく無敵になれる気がした。
だからブリキハートは、迷わず進む。
足取り軽く、滑走する。
――オレの好きなもんだけのために、今日もオレは、愛機ブリキハートとどこまでも往く。
◆




