その3 マイラブ/ファーストラブ
★ 狂騒爆炎ピアチェレディ!
第一話『ブリキと屍体のおとぎ話』
その3 マイラブ/ファーストラブ
teller:スズベル=エメラルダー
◆
――さて、【WITTS】とは。
正式名称・【対魔女特化独立掃討組織【Witch Hunter Tails】 。
この世界、【ナーサリフィア】を脅かす激甚生体災害・魔女【リカルカ】の討伐を目的に作られた組織である。
戦闘ロボット【レディ】の占有・管理権限。
ナーサリフィア全土の交通権など、WITTSには多数の特権が認められている。
が、ナーサリフィアに存在する数多の国家においてWITTSの政治的権限はゼロに等しい。
【レディ】の軍事利用は一切禁止されている。
あくまでも魔女への対応――戦闘、防衛、被災支援等、に特化した組織である。
WITTSには戦闘・非戦闘問わずいくつかの班が存在するが、大陸東部のイース・トーヴ支部は近隣の魔女出現率が高いことに合わせ、特に魔女との交戦が盛んな支部である――。
◆
「……と、まあ。ざっくりだけどWITTSってこういう組織さ。改めて、イース・トーヴ支部所属戦闘員・スズベル=エメラルダーです。よろしくね♡ 麗しいアリス=クロスロードちゃん♡♡」
「っ……う、うるわ……?? ぁ、え、えと、あの、あ、こ、この度は……助けてくださって、ありがとう、ございます……スズベル、さん……」
簡単なWITTSの組織概要、魔女リカルカは自然災害みたいなもんだということ、そしてアリスちゃんが【妖精因子】という特殊な因子持ちの可能性があること。
あと、存在が自由すぎる冥助のオッサンについての雑な説明。
それらを、アリスちゃんの過去や生い立ちに関わる個人情報をオッサンがまるっと調べ上げた、オレも知っちまった、ことも込みで色々説明させてもらったが。
可憐さを褒め称え、紳士の兄ちゃんが社交の場でやるみたいなお辞儀をしたら慣れてないのか一気に真っ赤になって狼狽えるアリスちゃんの超可愛いこと。
こういう反応見てたらもう、いっくらでも可愛がりたくなる。
境遇も知っちまったし。
あ、目線泳いだ末に俯きがちなの照れ屋さんで超カワイイ♡♡
でもこういう時は逃げたりしないで言葉探してわたわたしてるのもめちゃくちゃカワイイ♡♡ 無限にハグしたい♡♡
十分ぶりくらいにじっくり向き合ったアリスちゃんにメロメロになっていると、アリスちゃんがおずおずと何か言いたげにオレを見上げてきた。
何? 告白? そりゃもうアリスちゃんみたいな可愛い子ならいつでもウェルカムよ♡♡
「あ、あの……スズベルさんは……どうして、WITTSに、入られた……んですか?」
あ、オレのことが気になる感じ?
うんうん、いくらでも話すしまずはお互いを知り仲を深めるところから――。
「WITTS……は……沢山の、誰かの平和を守る、滅私奉公、な組織……だと思ってたん、ですけど……スズベルさんは……この村の方々、あまり好きではない、みたいなので……」
「あ、そういう質問ね……」
少し残念がってみたが、アリスちゃんはオレの呟きにきょとんと目を丸くした。
そんなピュアさもマジで可愛い。この世の穢れ全部からオレが守ってあげたい。
まあ、アリスちゃんの疑問もわかるっちゃわかる。
先程アリスちゃんを村に送り届けた時も、今アリスちゃんに諸々を説明した時も、オレは村のジジババへの嫌悪感を一切隠しちゃいなかった。
組織人としちゃ、大人としちゃ、だいぶアレな態度なんだろうし。
「……まあ正直、オレはこんな村どうでもいいわな。仕事だから魔女が来たら守ってはやるけど、ああいう奴ら、オレは嫌いだよ。助けてくれてアリガトーとか、アリスちゃんへの心配とか、一個も口にしねーんだもん」
「わ……私だって、怯えてばかりで、さっきも逃げて、しまって……スズベルさんが追いかけて来てくださらなかったら、きっと……ちゃんとしたお礼なんて一生、言えません、でした……」
「……アリスちゃんはさっきもアリガトって言ってくれたじゃん。アリスちゃんはさ、あいつらみたいにオレを睨んだ? 怒鳴ったりした? コソコソ誰かとオレの悪口言った? ……してない。一個もしてないよ、アリスちゃんは」
だってきみ、可愛いんだよ。
ふわふわしてて、混じりっけがない。
悪意の中で育ったのに、きみは同じ悪意には染まっちゃいない。
ずっと可愛い目をしてる。ずっと可愛い顔でオレを見てくれる。
「みんな大好き、みんな愛してる、だから全人類どうかまるっと幸せに、とかさ。そんな博愛、オレには無理。世界なんてオレの嫌いなもんばっかだよ。男女比考えると少なくとも半分は嫌いだし」
ひたすら目を丸くしてるアリスちゃんに、オレは苦笑した。
悪意や敵意を散々浴びて生きてきたはずなのに、この子は。
「そもそも好き嫌いが無い奴の心じゃ【レディ】は動かせねーよ。心ってそういうもんさ。愛も憎しみも知った上で、最後くらいは何かを守ろう助けようって思えりゃそれで万々歳だよ、オレは?」
「……その、何かが……スズベルさんの、嫌いなものでも……ですか……?」
「……まあ、嫌いなもんでもね。そういう仕事だし。オレの理想としちゃあ、アリスちゃんみたいな可愛い女の子をかっこよく守るのが続けばいーし、そうやっていつかは終われりゃいいけど」
可愛い、と言ってやる度に頬が色づく彼女がまた可愛くて。
オレはそっとアリスちゃんの長い髪をひと房掬ってそこに軽く口付けた。
飛び上がるくらい過剰に反応するアリスちゃんの挙動がもう可愛らしい。
「嫌いなもんばっかだからさ。自分がちょっとでも好きになれたもんがオレには凄く特別に見える。好きなもんの為なら、いくらでも全力になりたいんだよ。……アリスちゃんの可愛いとことか大好きだしね♡」
「ぇっ、あ、わ、そ、 その、あの……」
「……でさ。アリスちゃんはそうじゃねーんでしょ? 村のやつら、嫌いじゃねーんでしょ。ひどい扱い受けてるだろうに。なんで?」
可愛らしく狼狽えていたアリスちゃんから、息が詰まったような音がする。
一瞬で熱が引いた白い頬。
彼女が僅かに後ずさるのをオレは見逃さない。
「ち、違います……私、そんな……愛、なんて……きれいなもの、ないです…………なんにも、ないん、です……」
「なんにも?」
「……だ、だって、私……何も望んじゃ、願っちゃ、だめ……だから……昔から、何か、願ったら、本当に……叶ってしまいそうで、こわい……ん、です……だから、何も考えないようにって、ずっと、ずっと、思ってて……」
アリスちゃんの言葉を聞いて、冥助のオッサンが調べたことを思い出す。
◆
――『精神の過剰活性って言うのがあんのよ。心のどっかかしらが豊かなせいで何かに共鳴しやすい。繋がりやすい。理解しすぎちゃう。……うっかり因子持ちが悪いものと繋がっちゃった場合、何らかの感知や同調が働いちゃって、周りには悪いことはその人が起こしてるように見えたりもしちゃう。悪いこと……まあ、例えば天災、例えば疫病、例えば――、魔女、とかね』――
――『あらゆる災いを直前に感知してる。……だからまあ、村人さんたちには原因みたいに思われてんのかな。悪い預言者って言うか……もはや想像を創造として叶えちゃう存在くらいには思われてんじゃない?』――
◆
【妖精因子】ってやつは、さっき冥助のオッサンに聞くまで、オレの中でも名前を聞いたような聞かねーような曖昧なモンだったし今も正直理解が浅いけど。
世界と繋がりやすいせいで、些細な想像すらも怖がって、自分の心を自分で殺して。
そんな屍体のような在り方を選んでしまったこの子を、オレはたまらなく抱き締めたくなる。
それにオレは知ってる。
この子はまだ、ちっとも死んじゃいない。
ほっぺた赤くして瞳を潤ませて、そんなカワイイカワイイ姿をオレは見ちゃったから。
「こーれはオッサンから知った情報に全く関係なく気になったことなんだけどさ? アリスちゃんが抱えてる編みぐるみ、何? さっきさ、ガキンチョ共に何か言いたげだったよね?」
オレの指摘に、アリスちゃんの肩がびくりと跳ねた。
抱き締めるように両手に包んでる小さな編みぐるみ。
多分、何かの動物の形。
子どもっぽいながらもピンクで可愛らしいアイテムだけど、それは恐らくアリスちゃんの所有物ではない。
「魔女、が、来たって、わかって……逃げる時……村の皆さんは、先に避難できてたん、ですけど……編みぐるみ、落ちてて……えと、いつも、早朝に井戸までお水汲む時……あの子たちが遊んでるの見かけてて……この編みぐるみ、いつも愛しそうに持ってたの、知ってて……大事なものだと、思っ、ちゃって……それで、拾わなきゃ、って……」
きっとオレの顔には、苦笑がもう一度。
悪意や敵意を散々浴びて生きてきたはずなのに、この子は。
――この子は思ってたよりも、他人の『善』に対してポジティブだ。
アリスちゃんが明らかに魔女から逃げ遅れてた理由。
他の奴らに見捨てられたからか、というオレの疑問に冥助のオッサンは否定しなかったけど、これで答え合わせができた。
オレだけは、気付けた。
村のジジババにどんだけコソコソ罵られようが、どんだけ冷たくあたられようが、どんだけ独りだろうが。
この子は迫っ苦しい世界でも、些細な希望を見つけられてた。
過疎化しきった村社会じゃ、ジジババが今更価値観変えます、アリスちゃんへの扱い反省します、とかは難しいかもしれねーけど、そんな中で、小さなガキどもの小さな幸せを愛して守ろうとしたのが、きっとアリスちゃんの在り方だ。
きっとアリスちゃんは世界に対して、好き、の比率の方が多い。
みんな大好きが、オレには無理で。
例えばこの村のガキどもであっても、環境がこうじゃ行き着く先は同じだろって諦めちまう。
この村をどうにかしようなんて思わない。そんなお節介は焼けない。
オレにはそこまで救えない。
オレは、そういう人間だ。
だけどこの世に数少ない、この目で見つけられた素敵なもんをオレは愛し抜きたくて。
可愛い可愛いアリスちゃんは、偏見が凝り固まった此処じゃあ嫌われもんで、愛を知らなくて。
だったらそれはもう、なあ。
「……誰かの愛したもんを大事にできるとかさ、オレには信じられねーもんを信じて愛せるアリスちゃんのこと、オレ大好きよ♡♡」
「ひぇっ!? あ、ぁ、だ、だいすき……!? そ、そんな、あの……」
「……ほら、ね」
後ずさりがちなアリスちゃんに、一歩距離を詰める。
よく目を見たくって、よく顔を見たくって。
――よく声を、届けたくって。
「アリスちゃんの好きなところを見つけられたの、オレめちゃくちゃ楽しい♡♡ 言ったよね、自分がちょっとでも好きになれたもんがオレには凄く特別に見えるって。こういう生き方、オレは結構好き♪」
顔赤くして戸惑ってるアリスちゃんに、手を差し伸べた。
「ね、逃げちゃおっか。オレと一緒においで? イース・トーヴ支部ってさ。広い街の中にあるんだ。もちろんまあ? アリスちゃんがWITTSに入ってくれたとして、帰る場所に愛しのアリスちゃん♡♡ がいつでも待っててくれんのはオレにとっては超ハッピーだけど~……まず、さ?」
村のガキンチョ信じて想えるアリスちゃんがかわゆいけども、やっぱりここまで知ったら連れ出してやりたくなっちまう。
守りたいし、癒されたい。
仲良くなりたい、お近付きになりたい……ってことで。
「イース・トーヴの街でさ、オレとデートしようよ。いっぱい素敵なお店チェックしてるから美味しいもの二人で色々食べよ♡♡ アリスちゃんは好きな食べものある? あ、それにさ。アリスちゃんって可愛い服が色々似合いそうだし色々回りたいな♡♡ 素朴で清楚な今の感じもイイけど、意外とデコルテ部分透けてる服とかも似合いそうだし、腰細くて心配になるけどリボン似合うからウエストリボンある感じで上から下にふわっと広がるスカートとかも……あ、そうそう靴、擦り切れてるから新しいの買ってあげたいな♡♡ オレの髪色と同じ銀の靴とかプレゼントして『オレの♡』って牽制しちゃったりさ~♡♡」
見慣れた地でかわゆいアリスちゃんと二人っきりでイチャラブする妄想込みでオレがあれこれデレデレべらべらと語りまくると、アリスちゃんはまたまた顔を赤くした。
『でーと……?』『でこるて……?』なんて蚊の鳴くような声でオレの言葉を度々オウム返ししてるから、この子は色々慣れてないし知らないんだと思う。
そんなうぶうぶピュアピュアエンジェルなアリスちゃんにオレがつきっきりで手取り足取り色々教えてあげたいわけで――。
「……あ、っと。そうそう。そうだ。アリスちゃんが聞きたいのは、何でオレがWITTSに入ったか、だっけ? んー……自由になりたかったから、とか、色々と抜け出したい飛び出したい世界を見たい、とかなんやかんやはあったけど、今言えるのは――」
後ずさってた可愛いこの子を、今度こそ捕まえる為に。
強くない力加減をもって、片手で細い腰を抱き寄せて。
「……君と出会う為、かな」
「ッッッッ!?!?」
アリスちゃんが目を見開き、ぶわあっと今まで見た中で一番真っ赤になっちまった。
言葉も失った感じで、でもドン引きとかじゃなくてただただ照れてて、うるうるしたキレーな瞳が真っ直ぐにオレを見ていて、可愛いったらありゃしねえっていうか。
「ウッッッ、あまりにもかわいい……」
「!? す、スズベルさん……!?」
アリスちゃんへの可愛いが溢れて、オレはつい心臓を押さえて膝をついた。
何かしらを心臓と膝に食らった気がする。
嫌いなもんばっかりで常日頃どっかが錆び付きがちなオレの心に、アリスちゃんのふわふわ甘々な感じがとても良く効く。最高。女の子最高。
「ごめん、あまりにも可愛かったから……本当に……本当に、最近女の子の姿形すら見てなかったから……ありがとうアリスちゃん、とても素敵だ……マジ世界一可愛い、オレだけのフェアリー・メイド……」
「……え、あ、あの……? ふぇ、ふぇありー・めいど……? とは、な、なんでしょうか……?」
「あ、昔の言い回しで『美少女』って意味ね♡♡ それこそアリスちゃんみたいな♡♡ これが淑女って意味だと『マイ・フェア・レディ』とかになるらしいんだけど……っと、うげっ……」
右手のグローブのレンズ部分が嫌な光り方をし始める。
さらに説得力を増したのが、アリスちゃんの顔色が瞬時に青くなったこと。
多分、『感知』したんだろう。
オレはアリスちゃんをさらに抱き寄せ、辺りを警戒する。
確かに魔女は災害で、余震みたいに出てくることもあるって冥助のオッサンは言ってたけどよ。
――村外れの森を侵すように、木霊を掻き消すような甲高い咆哮と共に、新たに。
魔女【リカルカ】が、目の前に顕現しちまった。
こんな連続で来ることねーだろ、クソが。今散れすぐ散れ。
アリスちゃんを抱き寄せたまま、オレはグローブのレンズ部分を口元に近付ける。
アリスちゃんの弱々しい視線を感じたので、安心させるように笑ってやった。
「任せなって、オレが守ったげる。オレはWITTSだ。魔女なんていくらでも狩ってやる。…… WITTSは心で【レディ】と繋がる。手始めに、【レディ】の名前を呼んでやるのさ。こんな風にな!」
村の入り口に待機させてるオレの愛機・ブリキハート。
そんなもんどこにいたって、冥助のオッサンによってあちこち繋がれちまった現状ならいつでも呼び出してやれる。
――呼びかけに、オレの愛機は応えてくれる。
「――ブリキハート、テイルスタート! Get ready, my lady!」
――ほら、すぐに来てくれた。
舞う風、舞う砂、弾ける光。
そんなもんを引き連れて、目の前に現れてくれたブリキの戦士、ブリキハート。
目の前に広がる頭部のコックピットに、アリスちゃんを抱えたまま迷わず飛び込む。
連戦は面倒だけど、可愛い可愛い女の子の前でカッコイイとこを何度も見せられるのは、それはそれで悪くない。
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