その2 妖精屍体の再世&創世
★ 狂騒爆炎ピアチェレディ!
第一話『ブリキと屍体のおとぎ話』
その2 妖精屍体の再世&創世
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teller:スズベル=エメラルダー
手の甲にキスしただけで真っ赤になってしまったアリスちゃんを見て、とてもかなり可愛いと思った。
こんな素直な照れ方しちゃうくらい純情で可愛い女の子、アリスちゃん。
取り繕ったり強がらないとこがマジ新鮮でかっわいい♡♡
最近WITTSの任務任務、で忙しくて女の子全般に飢えてたので、すっかりアリスちゃんに思う存分デレデレになれて、渇いた心が存分に潤った。
有難い。可愛い女の子マジもっと世に溢れて。
アリスちゃんを気に入ったこともあり、欲に素直に従って可愛いアリスちゃんとゆっくりラブラブデート♡ を目的に、アリスちゃんを愛機ブリキハートに乗せて村までお送りした……までは、いいのだが。
――魔女【リカルカ】のせいで半壊した村の空気は、くそったれなもんだった。
「……な、何でそんな娘を助けたんだ、あんた……!!」
「…………あ゛??」
反射と言うには遅い速度で、オレの喉の奥から呪詛みてーな低さの声が漏れた。
とても女の子相手には聞かせられねー声。
その証拠に、隣に連れていたアリスちゃんの肩がびくりと跳ねる。
が、今のオレにはアリスちゃんを離してやる気もアリスちゃんから離れる気も無かった。
キャロッタ村だかなんだか知らねーけど、田舎特有のジメッとした空気がある迫っ苦しい村。
そんな寂れた村に暮らす、こんな陰気そーな奴らから、敵意の視線をバチバチにぶつけられてるアリスちゃんを一人にしておけるかってんだ。
村の住民はジーサンバーサンばっかだ。
だいぶ過疎化が進んでるのか、若い労働力は少ない。
淑女って年齢の女性は居やしない。
だったらオレも遠慮なく、この田舎モンどもを睨み返せる。
何人かが怯んだ気配を感じたが、それでも小声で、奴らの憎悪は吐き出されていく。
こんなか弱い、アリスちゃん一人を目掛けて。
「……魔女だ。やっぱり……」
「魔女は魔女を引き寄せる……伝承の通りだ……」
「やはりあの娘は災いを……」
口々に、魔女だの伝承だの地に足つかないワードばっかりを話す村人ども。
根拠が不明瞭な悪意に晒されるアリスちゃんを助けるには、こんな連中を相手にしてる暇はねえと思った。
こいつらに時間を割くのすら惜しく、言い返すこともせず眼中に入れることもせず、ただオレはアリスちゃんだけをこの場から連れ出そうとしたのだけど。
視線をアリスちゃんに移した時、アリスちゃんは既にオレを見ていなかった。
アリスちゃんの視線の先には、数人の小さなガキども。歳はまだ幼児くらい。
ちっこいから存在に気付かなかったが、奴らはこのつまんねー村の数少ない若さ、だった。
アリスちゃんは一歩踏み出し、ガキどもに何か言いかける。
それでもガキどもはアリスちゃんの挙動にビクリと震え、ジジババの背に隠れてしまった。
確かな拒絶に、アリスちゃんは瞳を伏せる。
小さな手のひらの中に隠していたらしい何かを、両の手ごと自分の背に隠してしまう仕草が、オレの位置からはバレてしまった。
チラッと見えたのは――多分小さな、編みぐるみ。
差し出しそびれたように隠した編みぐるみも、ガキどもから不自然に泳いだ視線も、アリスちゃんの様子全てがただ気になって名前を呼ぼうとしたが、それより早くアリスちゃんは一歩退いて。
「……申し訳……ございません、でした……」
――どういうわけか、この場にいる全員に深々と頭を下げて謝って。
そして最後に、オレのことまで申し訳なさそうな顔で見て。
「スズベルさんも……申し訳、ございません……ありがとう……ございました……」
謝罪と感謝。
それだけ言って、可愛いあの子は逃げるように身を翻し、駆け出してしまった。
手の中に隠してた編みぐるみを、今度は胸の前に抱えたまま。
アリスちゃんが走り去った後も、あの子を傷つける悪意の声はやまなかったが、それをいちいち聞き続ける気は無い。
オレは早々にアリスちゃんを追いかける。
この場にいたって埒があかない。
耳が腐るだけだ。
「お、おいアンタ……! あの娘を刺激しないでくれ!!」
うっせ黙れ、可愛い女の子いじめんな。
今は悪態をつく暇も惜しい。
まずは事態の確認を、と歩みは止めないままに右手の甲をかざす。
【レディ】、ブリキハート操縦用の耐摩擦グローブの、その上。
右手の手の甲を覆うように、透明なレンズが埋め込まれている。
そこを乱暴に左手で叩くと、レンズにパッと灯りが点った。
『はいはいっと。めーすけさんだよ~。スズベルくん、君ねえ。毎度毎度呼ぶも追い返すもどっちみちどつくのやめなさいっての。俺もびみょーにハートが傷つくのよ』
「うっせえオッサン。んなことより調べ物だ」
『わあクソ雑』
レンズの灯りの中、ホログラム映像のように一人の男の姿が浮かび上がる。
白衣を羽織った、すみれ色の髪をボッサボサのままにした、タレ目の無駄にデカい野郎。
冥助=ララバイ、37歳。
WITTSの【レディ】開発室長。
現在はオレと同じイース・トーヴ支部所属だが、コイツは戦闘ロボット【レディ】の生みの親だ。
オレらが操る【レディ】は、搭乗者の『心』に反応し、『心』と繋がることで初めて起動する。
操縦中も搭乗者の心――ある程度の意思を読み取っては、意思に合わせて【レディ】は反射的かつ的確な回避行動など細かい動作を可能にする。
【レディ】のそんなバケモンじみた挙動の原因は、このオッサンにある。
魔女リカルカの活性化に対抗して人型戦闘ロボット【レディ】の開発に携わった冥助=ララバイ。
こいつが【レディ】をWITTSが扱う兵器として完成させた決め手は、【レディ】全機体の大元に、接続源となるマザーコンピュータを造り、そこに『核』を置くことでいついかなる時も【レディ】の管理、調整、操縦者との交信を可能にしたことだ。
……その『核』ってのがまたイカレてやがる。
このオッサンはマザーコンピュータに、全てのWITTSと繋がる特殊な電脳空間に――『核』として、『自分自身の魂』をぶち込みやがったのだ。
【レディ】が心と繋がることが出来るのは、大元のマザーコンピュータに、人間であり感情を持つオッサン自身の『心』が常にあるからだ。
その代償としてオッサンはほぼ電脳空間と同化しており、完全なる同化は日に日に進んで決して止められない、らしい。
ほぼ電脳空間の存在と化しているから他人と時間の流れが違うし、本体であるオッサン自身はひどく虚弱になっちまった。
だのにこいつときたら飄々としたもんで、時間の流れが違うのを利用して平気な顔で電脳空間を通じて、【レディ】に関連する機器にあちこち繋がっては全隊員に並行してへらへらぺらぺら話しかけ、ノリがゆるくてもうわけわからん。
永遠の孤独に片足どころか半身突っ込んでる存在。
それがコイツ。冥助=ララバイ。
まあ、こんなやつは雑にオッサン呼びでいい。
マザーコンピュータに魂ぶち込んだ時から外見年齢が変化してないらしく、パッと見はオレとそう変わらねー歳の見た目だけど。
冥助のオッサンがいつでもこっちにちょっかいかけれんのをいいことに、オレは現時点での最重要事項を訊ねた。
「ソッコー調べろオッサン。この村やべー村か? 因習系? 何で可愛いアリスちゃんがあんなにジジババに嫌われてんだよ」
『んー、いんしゅー。ちょっと惜しいなあ。いんし、の話だねえ』
早速、オッサンはWITTS専用データベースにアクセスして情報を拾ってきたらしい。
冥助のオッサンが一番自由に接続して介入できんのはWITTSが噛んだ機械類だが、自由な時間さえ与えりゃオッサンは大体の無機物や情報に接続できる。
心以外も繋がれるもんが多い、厄介なオッサンだ。
オッサンは本題に入る。
『【妖精因子】。スズベルくんは知ってるっけ? 可愛いアリスちゃんはソレの持ち主みたいよ』
「気安く『可愛いアリスちゃん♡』とか呼んでんじゃねえ変態中年」
『あ、そこなんだ。いや君がそう呼んだんでしょうに。可愛いアリスちゃん♡ 呼び、そんな特権いるもん?』
まあいいや、続けるねー、なんて呑気な声と共にホログラム映像の中のオッサンは湯呑みを啜った。しれっとくつろいでんじゃねえ。
『たまーにいるでしょ、WITTSにも。【レディ】と繋がりやすかったり、【レディ】の動かし方にだいぶ癖ある人。そういう人って元から【持ってる】人なわけよ。【レディ】と心が馴染みやすい性質。詳しい研究はまだ進んでないけどさ、心の構造が常人と違う働きをしてるそういう人たちの性質を便宜上は【妖精因子】って呼んでんのさ、こっちは』
「心が、違う? フワッフワした説明だな……で、アリスちゃんがそうだって?」
『覚醒前、みたいだけどね。【妖精因子】の持ち主の共通項に、精神の過剰活性って言うのがあんのよ。心のどっかかしらが豊かなせいで何かに共鳴しやすい。繋がりやすい。理解しすぎちゃう。……うっかり因子持ちが悪いものと繋がっちゃった場合、何らかの感知や同調が働いちゃって、周りには悪いことはその人が起こしてるように見えたりもしちゃう。悪いこと……まあ、例えば天災、例えば疫病、例えば――、魔女、とかね』
「……具体例でもあんのか? アリスちゃんは、過去に何と繋がった?」
『ざっと調べてみたらアリスちゃんが繋がったのは遠方の魔女騒動、地盤変化、悪天候もろもろ全部さ。距離問わずあらゆる災いを直前に感知してる。……だからまあ、村人さんたちには原因みたいに思われてんのかな。悪い預言者って言うか……もはや想像を創造として叶えちゃう存在くらいには思われてんじゃない?』
なんでそうなるかね。
冥助のオッサンから聞いた村人のジジババの発想に、うげ、とオレは顔をしかめた。
アリスちゃんを見りゃわかんだろ。
あの子が悪いことなんて、ソーゾーできるはずねえじゃん。
――だってあの子、あんな綺麗な目をしてた。
雰囲気だって砂糖菓子みたいにふわふわしてて、抱き上げたら綿菓子みたいに軽くって、とにかく混じりっけがなくて。
アリスちゃんのそんなとこが、たまらなく可愛いんだから。
『ま、村人さんたちのさ。可愛いアリスちゃん♡ への異常な冷遇の理由はそれだけじゃねーけどねえ』
「やめろや。わざとやってんだろ。マジメに話せ」
『最初にマジメに喋らなくなったのはスズベルくんの方なんだよなあ』
ずぞ、とオッサンの本体がまた湯呑みを傾けるのが映像越しに伝わる。
だからくつろぐなや。さっきからくつろぎながら話すような話題じゃねえんだよ。
『彼女、もともと余所者なんだよね。そこ……キャロッタ村の隣村はとっくに魔女リカルカに滅ぼされてんだけど、アリスちゃんのママさんは隣村出身。アリスちゃんがお腹にいる時に村が滅びてキャロッタ村に流れ着いたって感じ』
「……そこから、親御さんは?」
『ママさんはアリスちゃんを産んで間もなく亡くなってるね。パパさんの方は隣村が滅びた時に他の村人と一緒に魔女にやられてる』
「……じゃあ、帰る家、ねーんだな」
『ま、そだね。孤児ちゃんだからね。あったかい雰囲気の家はないでしょ。こういうザ・村社会のとこだしね。……っと、それでね、アリスちゃんが因子持ちなのは、ママさんの胎内に居た時にママさんもろとも魔女の瘴気を受けちゃったのが原因かも。魔女の影響って若いお嬢さんのからだに一番馴染むから、変な要素呼び起こしちゃうこともまあまあある』
そこまで話して、オッサンはまた湯呑みの中身を一口。
それからようやく、映像の中のオッサンは湯呑みを近くの机に置いた。
『――とまあ、これらがプライバシーをガン無視して調べたアリスちゃんの物語だよ。スズベルくん、本人に聞くより先に俺に聞くのどうかと思うよ? 普段はもっと気を遣うじゃん……あ、普段はそんな女の子にお節介焼く暇ないか。初手のナンパで毎回ドン引きされてるもんねスズベルくん』
「いや頼まれたからってべらべらべらべら個人情報話す方もオレはどうかと思うわ。アリスちゃん本人とまだ全然話せてねーのにもうアリスちゃんの事情ほぼ全部知っちまったじゃねーか」
『調べろって言ったの君でしょうに』
視線を、移す。
追ってきたから、距離はあれどアリスちゃんの姿は確認できる。
アリスちゃんはとっくに足を止め、村外れの石畳の上で膝を抱えていた。
オレもまたアリスちゃんと一定の距離を保った状態で足を止めて、冥助のオッサンとやいのやいの話してる。
「……オッサン。オレがさっき見つけた時にアリスちゃんが魔女から逃げ遅れてた理由……他の村人に見捨てられたからか?」
『んー、アリスちゃんのおうちってほんとに村の外れだし、周りに人いないし。アリスちゃんにわざわざ一緒に避難しよ♡ って言ってくれる人はいなさそうね』
「ハートつけてるっぽい声色で遊ぶのに味をしめんな」
『女の子相手にした時のスズベルくんは常時大体のノリがコレでしょうに』
オッサンの悪ふざけはともかく。
あの子の現状は大体わかった。
――そんな村だったら、オレがアリスちゃんにしてやることは決まってる。
一歩踏み出そうとしたオレに、冥助のオッサンがうるさく言う。
『おや、仕事ほっぽって何するつもりだい』
「アリスちゃんと仲良くお話。で、理想はWITTSの方でアリスちゃんを保護してもらう感じ」
『まー、確かに【妖精因子】については一回ちゃんと調べて理解した方があの子にはいいと思うよ、俺も。でもさあスズベルくん』
「んだよ」
『スズベルくんがさっき倒したリカルカの被害報告、書類にまとめなきゃなんだよね。WITTS環境班が村の再建援助の計画考えなきゃだし。アリスちゃんと話まとまったら、村の人ともそこんとこ話して確認取りなね』
「……いやこんな胸糞な村、もうよくね?」
『なんもよかねえのよ。さっきスズベルくんがガラ悪い声上げた相手、村長よ? しょっぱなから話しづらい空気出しちゃってまあ。スズベルくん、女の子以外には引くほど態度わりーんだから気をつけなって』
「んじゃ、後でこうして村長だかの前でこのグローブ出すからリモートな感じで説明頼んだオッサン」
『ええー。君も一応ハタチを超えてる、組織の人間なんだからさあ。一人で畏まったお仕事もできるようになんなよ、もー』
サクっと音がしたと思ったら映像越しに見た冥助のオッサンは机の大皿から摘んだ菓子を齧っていた。
茶菓子に手を出しながら説教すんな。
「つーか、さっきのリカルカなんだったんだよ。あんな人里付近に出るの久々だろ。理由わかんねーの?」
『ただいま絶賛データ解析&索敵中~。あ、キャロッタ村周辺もまだ警戒態勢続行中だから、スズベルくんはアリスちゃんの問題が解決しても待機ね。はー、俺の仕事がいっぱいだ。頭使うなあ、ブドウ糖まだ残ってたかねえ。あとで生姜湯とか飲んじゃおっかな~』
そんなことを言いながら冥助のオッサンはまた湯呑みに手を伸ばす。
『まあ俺もこの道長いからね~。めーすけさんはあったけーお茶でも飲みながらまったり解析してるからスズベルくんもそこそこに頑張りな』
「まったりはすんなキリキリ仕事しろ」
『自分は仕事中の今まさに可愛い女の子ナンパしに行く癖にひっでえや』
労り皆無~、だなんてユルくのたまうオッサンを無視してアリスちゃんに近付く。
あんな可愛い女の子が落ち込んでるのにスルーできるかっての。
『ちなみにさ、スズベルくん。仕事に追われてる立場が俺じゃなくて女の子だったらどうしてた?』
「そりゃあ意地でも傍で手伝うしコーヒーでもカフェオレでも淹れちゃうし肩も揉むし冷えないようにブランケットもかけてあげちゃうね」
『わ~、恐ろしく差別的』
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通信を切って、アリスちゃんの小さな小さな背中に語りかける。
「――やあ、お嬢さん。君を涙ごと、攫いに来たよ」
アリスちゃんが、顔を上げる。
そんな、さあ。
ふわふわと可愛いままでさ。
悲しい涙で潤んだ綺麗な眼で、さ。
でもさ。
――まるで新しい世界か時代でも目にしたような瞳で、オレを見てくれんだから、さあ。
ほっとけるわけねえじゃんな。
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