その3 おねーさんの助太刀
★ 狂想爆炎ピアチェレディ!
第五話『全世界を満たすラブ』
その3 おねーさんの助太刀
teller:アリス=クロスロード
◆
音夢=キャンベルと名乗ったお姉さんは、呆然としている私とルキちゃんにぱちりとウインクしてくれた。
……かっこいいな。余裕があるお姉さんって、素敵だ。
かと思えば音夢さんは、ライダースーツの腰に巻かれたベルトポーチから小型のカプセルをいくつか取り出し、蜘蛛型魔女たちに向かって放り投げた。
かつん、かつん、と魔女たちにぶつかった勢いで壊れたカプセルから、小規模の煙が溢れ出す。
するとたちまち、煙の向こうの魔女たちの動きが鈍くなった。
音夢さんが、得意気に口角を上げる。
「対魔女用の煙幕ってやつさ。一時的にあいつらの視覚を封じられる。……さーって、今のうちに……」
音夢さんは傍らのバイクに寄ると、ホログラムのようなパネル映像に直接触れ、何かパネルを操作していく。
パネル映像が切り替わり、表示されたグラフや図に音夢さんは、さっと目を通すと。
「――解析完了! 麻痺毒に弱い……よし、持ち合わせなら完璧!」
そう言って、音夢さんはベルトポーチからまた何かを取り出す。
手榴弾のような形の物が、二つ。
音夢さんがピンを外すと、さっきとはまた色の違う煙が魔女たちを包み込んだ。
ぴりぴりと音がして、魔女たちがぴたりと動かなくなる。
音夢さんの言葉から考えると、あの煙の成分、麻痺毒……なのかな。初めて見た。
さっきのパネル操作、あの短い時間で魔女の弱点を調べたのかな。……すごい。
魔女たちの動きが止まったことは有難い。
でも、今まで果敢に鉄骨を振るってくれたルキちゃんをちらりと見ると、その顔色には明らかな疲れが見える。
苦しそうに肩で息をしているし、そうだ、当たり前だ。
あんなに勇気を出して頑張ってくれていたルキちゃんが、疲れていないわけがない。
魔女たちが動かなくなったのをいいことに、私は慌ててルキちゃんの傍に寄ってその背を支える。
でも私は私で、クイーン・オブ・ハートを召喚できないこの状況じゃ、攻撃手段が思いつかない。
この先どうすればいいかと私が逡巡していた時だった。
音夢さんの視線が、まっすぐに私を捉える。
「……お嬢ちゃんたち、【妖精因子】なんでしょ?」
「ぇ……あ、あの……ど、どうしてそれを……?」
「……さっき遠目からちらっと見えた感じ、そっちのカチューシャリボンの君はバリアを使えると見た。……アタシのお願い、聞いてくれる? あいつら倒すのに、ちょいと手を貸して。お願い」
魔女を、倒す。
そうできれば、ルキちゃんが休めるかもしれない。
それを思うと、私の心から迷いとか逡巡とか、マイナスなものは、霧が晴れたように消え去ってしまった。
だから私も、音夢さんをまっすぐに見つめ返す。彼女の誠意に応えるために。
そして、はっきり頷いた。
「……はい! なんでも、お申し付けください……! 私、精一杯やりますから……!」
そんな私の返事に、音夢さんはどこか決まり悪そうに笑って。
「……ありがと。カッコつけといて年下に頼っちゃうなんて、情けない大人でゴメン。……あとで、挽回させて?」
――そうして私に、『お願い』の内容を告げた。
◆
私の【妖精因子】は、バリアの類が一番想像、創造しやすいのだと思う。
魔女リカルカと戦うと決めたあの日、スズベルさんと出会えたあの日、何かを守りたい……という気持ちが強かったからだろうか。
そうして今も、この窮地を打開する為に。
音夢さんの『お願い』、というか……与えてくれた助言を活かす為に、私はまた新たなバリアをソウゾウしようとしていた。
蜘蛛型魔女たちと対峙し、私は集中して、ただひたすらに想う。
脳内で、音夢さんがくれた言葉を反芻しながら。
――『あいつら閉じ込められるバリア、作れる? 檻みたいなやつ。まあ、形状は任せるけどさ』――
想い、願う。
いつもと少し違う、ソウゾウ。
願うのは自分の大切な人たちを守る為だけのバリアではなく、自分の大切な人たちを脅かそうとする相手を封じる為の、バリア。
やがて、静止した魔女たちの周りがうっすらと光り始める。
光った箇所から、箱状のバリアが生成されていく。
魔女たちを覆い閉じ込める為の、透明の直方体。
封印バリア。
今の私が願った結果、生まれたバリア。
四方を覆う頑丈な壁で、対象の行動範囲を限定する、音夢さんの言う通り檻のような役目を果たすバリアだ。
……これも、私が新しく身につけた力。
「――ありがとう! あとはアタシに任せて!」
音夢さんが、またライフルを構える。
何かまた、新しい弾丸を装填し終えたらしい。
さらに音夢さんはライフルの、引き金付近のスイッチを押す。
それを合図に、がしゃんがちゃんと音を立て――ライフルは、より頑強で、圧倒的な重量を感じる姿へと変形を遂げていた。
音夢さんが軽々とライフルを構えていられるのが不思議になるほど、物々しい姿。
ライフル、と言うか……バズーカ、みたい。
音夢さんの目つきが、きりりと真剣さを帯びる。
大砲のように変形したライフルの銃口が、きいん、と空気を震わす音と共に輝き出す。
まるで何か、エネルギーを溜めているような。
私もルキちゃんも、固唾を飲んで見守っている中。
音夢さんは、引き金を引いた。
輝いた銃口から、レーザーを思わせる光の線――恐らくエネルギー弾が、勢い良く放たれる。
それでも出力はかなり絞られているのか、放たれたエネルギー弾は廃村を無闇に荒らさず、私が創った直方体のバリアだけを的確に狙い当てた。
エネルギー弾は、バリアの中に閉じ込められていた魔女たちに直撃し――蒸発するかのように、"おやだま"含めて一斉に、魔女はバリアごと消え去った。
――魔女たちが消えた途端、廃村に静けさが訪れる。
がくん、とルキちゃんが両膝を地についてしまう。
「ルキちゃん……! 大丈夫!? ありがとう……守ってくれて……!」
「ち、ちが……あたしを、守ってくれたのは、すーちゃん……! ぅ……でも、つかれた……こわ、かったぁ……」
戦闘中は耐えていた感情が爆発したように私にしがみついてくるルキちゃんを私も全力で抱き締め返しながら、私は音夢さんに何とか頭を下げる。
「あ、あの……! ありがとう、ございました……助けてくださって……魔女を、倒してくださって……」
「……正確には、あれは魔女じゃない。魔女の幼生体、だよ」
「…………幼生、体…………?」
音夢さんはライフルを担ぎ直すと、聞き慣れない言葉を口にする。
ついついきょとんとしてしまう私とルキちゃんの顔を見て、音夢さんは緩く苦笑した。
「うーん……何から話したもんかな。改めてゆっくり自己紹介もしたいし……お嬢ちゃんたちワケありっぽいから、魔女のこともちゃんと教えときたいんだよなあ」
ぐる、と廃村を見回して。
最後に、音夢さんはまた私たち二人に視線をやって――さっぱりとした素敵な笑顔を向けてくれた。
「アタシ、ちょっとこの村に探し物があってね。ついてきてくれる? 道すがら話させてよ。こっちの事情とか……あと、世界規模くらいには、大事な話をね」
――気さくな笑顔には似つかわしくないくらい、音夢さんが背負っている事情は、ライフルよりもずっと大きなもの……みたいだけれども。
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