その2 灰色鮮烈ライダー
★ 狂想爆炎ピアチェレディ!
第五話『全世界を満たすラブ』
その2 灰色鮮烈ライダー
teller:アリス=クロスロード
◆
予定通り、宿をチェックアウトして地図を見ながら進んで。
一泊目的で辿り着きたかった廃村には、昼下がりに到着した。
「……すーちゃん……ここ、なにも、ない……」
「そうだね……でもそれなら、途中で買ったモンスター避けの香を焚いておけば……キャンプくらいは……?」
辺りを見回している途中、はっとする。
廃屋だらけで、ぽっきり折れた柱や壊れた壁があちこちの道を塞いでいて、誰も居ない筈なのに。
――物音が、する。
ルキちゃんの方を見ると、ルキちゃんが思い切り顔を顰めていた。
ルキちゃんの【妖精因子】は私のものより感知に優れているから、私より鮮明に物音の正体を感じ取っているはず。
だからこそ、そのぶんの負荷も凄いはず。
ルキちゃんは額を押さえながら、不快そうな感情を隠さずに言う。
「アタマ、痛い……すーちゃん、気をつけて……なんか、ヘンなのいる……」
ルキちゃんの、その言葉を皮切りに。
怪しい物音が大きくなった。
かさこそ、かさこそ、何かが這い寄るような音。
感知の負荷でふらついているルキちゃんの背中を撫でながら、注意して辺りを見回す。
私の中にまだ残っている筈の【妖精 因子】の残滓に、どうか何か見つけて、と想い、願う。
そうして耳を澄まして、辺りを見て――見つけてしまった。
正確には、私たちが見つかってしまった。
廃墟と化した建物のあちこちに、小さな黒い生き物が点在していた。
光る二つの眼で、じっと私たちの姿を捉えている生き物。
なんだか奇妙なかたちをしていた。
四本の足を持つ、蜘蛛みたいなかたち。
蜘蛛のようだけど、頭頂部に短く小さい角のようなものがある。
それも、魔女リカルカの帽子を思わせるかたちの。
角を覆うベールのような器官も、薄いけれど備わっている。
まるで、小型の魔女みたいだ。
こんなに小さな魔女がいるなんて、私は聞いたことがない。
だけどルキちゃんの表情はずっと険しくて、私の心もいやにざわざわしている。
ルキちゃんと私の【妖精因子】は、この小さな生き物を見て――確かな、魔女の気配を感じ取ってしまっていた。
突然、ルキちゃんが言葉にならない声を上げる。
怯えたような、焦ったような声。
声とほぼ同時に、集まった小型の魔女たちが一斉に私たちに這い寄ってくる。
飛びかかってくるわけじゃないけど、動きが速い。
そして、困ったことに。
廃屋や折れた柱、崩れた壁が道を塞いで狭めているから、ここで【レディ】を召喚しても小回りは利かないと思う。
障害物を全部壊せば自由に動けるかもしれないけど、相手の数がちょっと多い。
あれこれ壊している間に小型の魔女に囲まれたり機体によじ登られてしまったらまずい。
もっとまずいのは、相手がもし厄介な攻撃を使ってくるタイプだとしたら最悪そこで勝負が決まってしまうこと。
ルキちゃんは、感知の負荷のせいで本調子じゃない。
せめて自分たちを守る為のバリアだけでも展開させようと、私なりに想像力を必死で働かせようとしたけど。
それより早く、辛いはずのルキちゃんが私からふらりと離れて、地面に落ちていた鉄骨を拾い上げる。
強く握り締めた鉄骨を構え、ルキちゃんは私を庇うように、小型の魔女の群れと対峙した。
「ルキちゃん……!? だめだよ、今は頭痛、辛いんじゃ……」
「……すーちゃんこそ、まだケガ治ってないもん。あたし、言った。ちゃんと言ったよ。すーちゃんがまたムチャしたら怒っちゃうって……っ……」
「ぁ……」
確かに、私がシルキオの森で負った怪我はまだ完治していない。
ここで無茶して、もしまた傷が開けば色々と台無しになるのは自分でもわかる。
「で、でも、だからってルキちゃんがケガしちゃうのは、絶対やだよ……」
「……すーちゃんじゃないんだから、ムチャしないしケガしないもん。……だってあたし、すーちゃんのチカラ、信じてるもん」
その言葉に、はっと息を呑む。
私の力。
想像力に特化した【妖精因子】。
私が今まで主に想像してきた力は、何かを守るバリア。
ルキちゃんは、こんな私にできることを、まっすぐに信じてくれるんだ。
……だったら。
だったら私は、ルキちゃんの絶対の信頼に、100%応えたい!
「……任せて、ルキちゃん! ルキちゃんには絶対、痛い思いなんてさせないから!」
「……うんっ!」
ちょっとだけ笑って頷いたルキちゃんが、鉄骨片手に駆け出していく。
私は、何度も何度も想像する。
ルキちゃんを絶対に守ってくれる無敵の盾を。
私の想いが届いた証に、ルキちゃんの身体が透明できらきらした膜に包まれる。
その瞬間、ルキちゃんの横顔からぜんぶの恐れが消え去った。
僅かに口角を上げて、ルキちゃんは鉄骨を構え直す。
「わかる……わかる、だいじょぶ。あたし、フェ・デ・フルールと繋がってるから……動きは、カラダが覚えてる!!」
そう言って、ルキちゃんは蜘蛛型の魔女に飛びかかった。
その翔び方は、踊るようにしなやかで、風に乗るように軽やかで。
見惚れる程に流麗な動作で、ルキちゃんは魔女に狙いを定める。
ルキちゃんの動きは確かに、一度見た『フェ・デ・フルール』の戦い方に良く似ていた。
風の声を良く聞いて、風を読んで、風に身を任せる綺麗な動き。
ルキちゃんの【妖精因子】は、何かと"繋がる"ことに特化しているからこそ、探知や感知に長けている。
だから今もルキちゃんは、心の中のフェ・デ・フルールと繋がって、周囲の自然と繋がって、周囲の自然と心で対話して、あんなに軽やかに動けているんだと思う。
元々の運動神経が良いのも、あるんだろうけど。
ただ、麗しく丁寧だった動きはそこまでで。
ルキちゃんは鉄骨を振り上げると、一体の蜘蛛型魔女を思いっ切り乱暴に殴り飛ばした。
ルキちゃんが乗っていた風も、殴りかかる勢いを手助けする。
フォームも間合いも一切気にしない、めちゃくちゃな攻撃。
でもルキちゃんが大暴れしてぼこぼこと蜘蛛型魔女を次々に殴っていくから、数の多い魔女が怯み始めていた。
向こうが怯んで動きを止めれば、ルキちゃんの長い鉄骨の広い攻撃範囲なら、蜘蛛型魔女を一掃する形で薙ぎ倒せる。
今のところ、相手に攻撃を繰り出させる隙は与えていない。
でも、決定打が足りていない。
ルキちゃんが 角を叩こうとしても、弱点を守るベール器官に邪魔されてしまう。
だから私は、想像した。
ルキちゃんを覆い守るバリアに想いを込め、バリアの範囲を、ルキちゃんの握る鉄骨まで広げる。
そんな中、ルキちゃんは一体の蜘蛛型魔女相手に渾身の一撃を繰り出した。
蜘蛛型魔女の頭部に触れた途端、鉄骨が眩く発光する。
蜘蛛型魔女のベール器官が必死に鉄骨を受け止めるけど、ばちばちとスパークを繰り返す鉄骨にどんどんベールは気圧されて。
ダメ押しのようにルキちゃんが力を入れて、ルキちゃんに味方している風の勢いも合わさって。
ついにルキちゃんの鉄骨の打撃は、蜘蛛型魔女の角をベールごと叩き潰した。
……良かった。
新しく思いついたバリア、上手くいったみたい。
強化バリア。
バリアで覆った対象の持つ攻撃力を、底上げする能力。
私の想像した、新しい力。
これでルキちゃんのことを、より守れればいい。
そう願い、私はルキちゃんを覆うバリアを維持すべく、集中してルキちゃんの戦いを見守り続ける。
異常事態にすぐ気付けるように、その時ルキちゃんをバリアで守れるように。
守るって、言ったから。
それは絶対だから。
ルキちゃんに怪我なんて、させない。
感知の負荷で疲れているルキちゃんをこれ以上苦しめたくない。
だからこの戦いが早く終わるよう、私が今できる手助けを、精一杯やり遂げてみせる。
ルキちゃんは、強化された鉄骨で次々と蜘蛛型魔女を倒していく。
――だけど、ある一体を倒そうとした時。
別の蜘蛛型魔女が庇うようにルキちゃんの前に飛び出し、代わりにルキちゃんに倒されてしまった。
先程までは見られなかった状況に、私もルキちゃんも一瞬固まる。
良く見れば、庇われた方の魔女は周りの個体よりも一回り大きい。
ルキちゃんが、軽く舌打ちした。
何か、感知したのかな。
「なんか、アイツ……おやだま、っぽい。アイツ倒さないと、コレ終わんない、かも……」
……そう言えば、魔女がこんな風に群れるなんて、聞いたことない。
でもルキちゃんはあの大きい個体に何か良くないものを感じたようだ。
ルキちゃんが、"おやだま"目掛けて鉄骨を振り下ろそうとするけど、他の蜘蛛型魔女がじりじりとにじり寄って、鉄骨の目指す方向を阻んでくる。
そして。
「え……だ、だめっ!」
一部の蜘蛛型魔女の角が赤く輝き出し、嫌な予感がした私は、ルキちゃんに更にバリアを張った。
張ったのは、反射バリア。
バリアを張った直後、蜘蛛型魔女の角から光の直線が放たれ、バリアにぶつかって――反射された光は、出元の魔女の全てを焦がした。
……ビーム、みたい。
うそ、そういうのも出せたんだ。
驚く暇もなく、ほとんどの蜘蛛型魔女は"おやだま"を守るべく、あちこちにビームを放ち始める。
私は慌ててルキちゃんの周りに反射バリアと無効化バリアを、それぞれの射線を考慮しながら配置していく。
それから、ルキちゃんを絶対に守る為に本人に無効化バリアも重ね掛けしたけど――どうしよう、これじゃルキちゃんへの強化が追いつかなくて、きりがなくなっちゃう。
ふと、ルキちゃんが私の方を振り返る。
少し怒っているような表情だった。
「すーちゃん!! 自分のこともちゃんと守ってね!!」
……あ。
そうだ、私、自分のことは全然考えてなかった。
私に何かがあると、ルキちゃんが悲しんでしまう。
それはシルキオの宿屋の女将さんが教えてくれた、大事なことなのに。
ルキちゃんの幸せを本当に願うなら、私は自分のことを大切にすることも、覚えなくちゃ。
遅くなったけど、私は私自身にも、身を守る為のバリアを重ね掛けする。
だけどここから、どうすれば事態は好転するのか。
……知らなかった。
自分を守りながら戦うのって、こんなに難しいんだ。
いつもはクイーン・オブ・ハートの装甲に頼り切りだったけど、今は私がなんとかしなきゃいけない。
想像しなきゃ。状況を打開する方法を。なにか、なにか、なにか――。
「……? なんか、きこえる……?」
――明らかなピンチに、頭が混乱しかけた頃。
ぽつ、とルキちゃんが呟いた。
何かって?
そう訊ねる前に、私にも、音が聴こえた。
何かが、滑走する音。
それと、これは……私には聴き慣れない音だけど、たぶん、エンジン音。
音はだんだんこちらに近づいてくる。
さらに、魔女の群れの向こうに乗り物のシルエットが見えた。
確か前に本で読んだことがある。
あの乗り物……バイク、だ。
改造されているのか、前に読んだ本に載っていた資料よりも大きなバイク。
乗っていたのは、紫と白を基調としたライダースーツを着た……スタイルの良い、お姉さん。
ライダースーツのお姉さんは、宙に浮かび上がったホログラムのようなパネル映像をいくつかタッチすると、背中に担いでいたライフルを構えた。
ライフルの銃口が狙うのは、蜘蛛型魔女の群れ。
どん、と重たい音が連続して響く。
数発の弾丸が、"おやだま"の前を陣取る魔女の足元に被弾して、固まった群れが少し散らばる。
さらにお姉さんは器用にもライフルの装填を手早く済ませ、また引き金を引く。
今度はぱらららっと小さな弾丸が連射され、鋭い弾丸は数体の魔女の角を撃ち抜き仕留める。
……すごい。撃つ弾の種類、変えれるんだ。
気付けば私たちが対峙している魔女は、"おやだま"と、片手で足りるくらいの他の個体のみ。
そのころバイクが私たちの近くで止まり、お姉さんがヘルメットを取った。
ぱさり、と綺麗な灰色のポニーテールが風に靡くさまが、とてもカッコいい。
そして未だライフルを担いだまま、突如現れたライダースーツのお姉さんは、やっぱりとても格好良く言った。
「怪我はないかい? お嬢ちゃんたち。……アタシは音夢=キャンベル。27歳。通りすがりのおねーさんさ。……なんて、カッコつけすぎちゃったかな?」
とても格好良い……かと思えば、『音夢さん』と名乗ったそのお姉さんは、柔らかく苦笑して、それから魔女を、まっすぐに見据えて――。
「……通りすがりついでに、ちょっと助太刀させてくれない? 改めて、カッコいい大人でいさせてよ」
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