その1 元・屍体&元・茨姫の旅路
★ 狂想爆炎ピアチェレディ!
第五話『全世界を満たすラブ』
その1 元・屍体&元・茨姫の旅路
teller:アリス=クロスロード
◆
アリス=クロスロード、16歳。
WITTS所属戦闘員のスズベル=エメラルダーさんに恋をして、故郷キャロッタ村を飛び出して、旅をして。
『シルキオ』という街を出て、今もWITTSイース・トーヴ支部を目指して旅を続けてます。
シルキオで経験した騒動で、鈍い私は大怪我を負ってしまって。
今も完全に包帯が取れたわけじゃないけど、少しは怪我もマシになりました。
顔はまだ少し包帯で覆わなくちゃいけないけど、腕の包帯は結構取れたから、最近は出来ることもどんどん増えてきて。
最新の地図によると、WITTSイース・トーヴ支部まではあと少し。
……もう少しで、スズベルさんとまたお会いできる、かも。
スズベルさん。
好きな人。大好きな人。
愛しい、人。
ずっと屍体だった私に、命をくれた人。
私にはじまりを、誰かを想う心をくれた人。
……好きです、大好きです、スズベルさん。
私、頑張って、貴方に辿り着きます。
だから。
もう少しだから、がんばろう。
大好きな友達と一緒に。
そんな、友達との最近の毎日はというと……。
「………………すーちゃん、おはよ……」
ベッドからのそのそと這い出てきたルキちゃん――留輝=フローライトちゃんが、私にべったり寄りかかってきた。
暖を取るように後ろから抱きついてすりすり甘えるルキちゃんが、かわいい。
ルキちゃん。
シルキオの森で出会えた――私の大好きな、初めてのお友達。
「おはよう、ルキちゃん。朝ごはん、ちょうどできたところだよ」
「……ん……ありがと……」
ルキちゃんは、まだ眠そうだ。
背の高いルキちゃんが私に寄りかかっているおかげで丁度目線が近いから、軽く手櫛でルキちゃんの髪を整えてみる。
気持ち良さそうに顔をふにゃふにゃ綻ばせるルキちゃんは、今日も表情豊かで、ほんとに可愛い。
シルキオの街から旅立ってから数日は経ったけど、昨日は久々に宿屋さんに泊まれた日だった。
小さな村の、二部屋だけある宿。
有難いことに私たちの手持ちの旅費でも泊まれたくらい宿泊費は安かったけど、ミニキッチンがあったりレンタルで調理器具を借りられたりと設備はかなり整っていたから嬉しい。
だから昨日の夜も今朝も、ご飯が作れて嬉しい。
旅の途中だと、持ち歩きのことを考えると栄養が偏ったものばかりになっちゃうから。
寝ぼけながらも、ルキちゃんが私の肩越しにお鍋の中身を覗く。
それからまあ、何となく予想してたけど。
びゃっと飛び退いて、ルキちゃんはがるがると唸り声を上げそうな勢いで機嫌を急降下させてしまった。
……私に抱きついたまま、ではあるけど。
「う……すーちゃん、またごはんにあたしのキライなもの入れた!! 緑の野菜キライって言ってるのに! ニンジンは、ギリ、た、食べれるけど、ニガテって言ったのに!」
「えと……ルキちゃん、お野菜を柔らかくしてスープに入れた時は、いつもより食べっぷり良いから……それに、お野菜細かく刻んでナイショでごはんに混ぜたら、ルキちゃん怒るでしょ?」
「…………う、うん……うそつきは、キライ……」
「そっか。気をつけるね。それで、えと……ルキちゃんにも、お野菜おいしく食べてもらう方法、頑張って勉強するよ。でもね、今日のスープはお野菜すごく柔らかく煮込んだし……スープの味も染みてるからおいしいよ? ちょっとずつ、お野菜慣れてこうね」
よしよし、と手櫛で寝癖を直したばかりのルキちゃんの綺麗な水色の髪を撫でる。
ルキちゃんは一瞬さっきみたいに目を細めかける。
それでもルキちゃんは頑張って、きりっとムスッとした表情を作って、私にじとりとした視線を向けてくる。
「…………すーちゃん、いじわる。キライ……」
「私はルキちゃんのこと、大好きだよ?」
「っ……い、今の、う、うそ! だいすき……っ。あ、あたしのほうが、すーちゃんのコトすきだもん!!」
「えへへ……ありがとう。だいすきって言葉、うれしいね」
「…………うん」
お鍋の野菜スープを最後に軽く掻き混ぜてから、私は朝ごはんをお皿に盛り付けて並べる準備をする。
朝早く起きれたからゆっくり作れる時間はあったし、味見もしたからまずくはないと思うけど……自分の作ったご飯を誰かと、ルキちゃんと食べるのって、ちょっとだけ緊張しちゃう。
シルキオの街の宿屋の女将さんに、お料理色々習ったけど……まだまだ頑張らなきゃ。
朝ごはんは、フレンチトーストとオムレツと具沢山の野菜スープ。
朝はしっかり食べた方が良いと思うけど……私はまだまだ献立作りは修行が必要な気がする。
ルキちゃんの健康の為にも、お料理もっと頑張らないと。
お皿をお部屋のテーブルに並べていると、何も言ってないのにルキちゃんが手伝ってくれた。
……ルキちゃんのこういう優しいところ、とってもだいすき。
そうして二人で席に着いて、食べる前に両手を合わせる。
「いただきます」
「……いただきます。……むー……」
ルキちゃんは、まだ恨めしそうに野菜スープを睨んでいた。
ルキちゃんがほんとに苦手なお野菜は入れてないけど、それでもだめだったのかな。
「……すーちゃんのご飯せっかくおいしいのに……料理、上手なのに……すーちゃんてば、すぐ余計なもの入れる……最近のお昼のサンドイッチだって、すーちゃんレタスもピクルスもいっぱい入れる……あたし、キライなのに……」
「え、と……私、料理上手じゃないよ? だってね、ルキちゃんにお野菜おいしく食べてもらう方法、まだぜんぜんわかんないもん。だからおいしく食べてもらうために、もっと、料理のお勉強したいんだ」
「むー……野菜から離れて……」
ルキちゃんはまだ不満げだ。
ルキちゃんの嫌がることは、したくないけど……でも……。
「あの……ね? 私ね、ルキちゃんといつまでも一緒に、健やかに、おいしくごはん食べたいの。ルキちゃんが栄養あるものもおいしく食べられるよう、私がんばるから……もうちょっと、私が上手に作れるようになるまで、待っててくれる?」
ルキちゃんの、声での返事は無かった。
でも、無言でこくりと小さく頷いてくれた。
……凄く、凄く嬉しい。
ルキちゃんの片手が、ルキちゃんの頭の上をうろうろしている。
多分、普段被っている帽子に付いている、うさぎ耳型の飾りをいじろうとしたんだろう。
でも、朝で帽子を被ってなかったからか、ルキちゃんの手は空振りして行き場を失い迷子になっていた。
無言で頷いてくれたのも、突然に帽子の飾りを弄ろうとしたのも、照れたからなんだろう。
照れたのを、別の所作で誤魔化そうとしたからなんだろう。
……かわいい、なあ。
恥ずかしがりなのに、どこか活き活きしているルキちゃん。
私はそんなルキちゃんが大好きで、憧れて、もっともっと話してみたくなっちゃうんだ。
「……ね、ルキちゃん。今度、二人で一緒にお料理やってみない?」
「や、ヤダ……あたし、料理とかヘタだもん……洋館だと、ヘンな……魔法? で保存、されて、備蓄、されてたもの食べてただけ、だし……」
「……私ね。ルキちゃんが初めてなんだ、友達」
「へ……? そ、そんなの、あたしも……だよ?」
話したく、なっちゃうの。
お喋り、もっともっとしたいの。ルキちゃんとなら。
たまに、ここまで脈絡なくなっちゃうけど。
ルキちゃんとは、いくらでも言葉を交わしたいって思っちゃう。
「誰かと二人で朝ごはん食べるのも、ルキちゃんが初めてなんだ……ルキちゃんとの日々、楽しいことばかりだよ? だからもっとルキちゃんと、色んな時間過ごしたいんだ。お料理じゃなくても……私、これからもルキちゃんと一緒に沢山のことしてみたい」
「……そんなの、あたしも……」
「……だいすきだよ、ルキちゃん。毎日新しくルキちゃんの素敵なところ見つけられるのも、好き。ルキちゃんのことも、今のルキちゃんとの日々も、昨日より、その前より、ずっとずっと好き。……それがとても嬉しいの。だから、ありがとう」
……ルキちゃんが黙ってしまった。
気に障ること言っちゃったかな、と私が口を開く前に。
ルキちゃんががつがつと凄い勢いで朝ごはんを食べ始めた。
「むぐっ……うー……」
「る、ルキちゃん? よく噛まないと、危ないよ……?」
「す、すーちゃんが、恥ずかしいことばっか言う、から……食べてないと、あたし、だめ……っ、むぐっ……」
「わ、わわ……っ、ルキちゃん、お水……」
お水の入ったコップを手渡すと、ルキちゃんは、んく、んく、とお水を飲んだあとようやく一息ついてくれる。
それから今度はもそもそと食べ始めて、ぽそりと言った。
「…………すーちゃん。ごはん作ってくれて、ありがと……」
「……? さっきも言ってくれたよ?」
「……だってあたし、やさしいコトバ言い慣れてないもん。さっきも文句いっぱい言ったし……ちゃんと優しいコト言えたか忘れちゃう。わかんなくなっちゃうよ」
恥ずかしそうに、でも悔しそうに。
頬を赤らめながら決まり悪そうにスプーンを咥えるルキちゃんのこと、私は凄く優しいと思う。
「……ルキちゃんはいっつも、私に一生懸命たくさんの言葉を伝えてくれるよ。私、それが嬉しいんだよ。……ね、デザートにリンゴあるよ?」
「……リンゴだけ? ヨーグルトも一緒がいい……甘くしたやつ……あと、リンゴはウサギさんに切って……」
「……あはは、デザートの注文だけ詳しいね。具体的だね」
「……むかし、よく食べたの。好きなの」
「うん。教えてくれてありがとう。そだね。ちっちゃい容器のヨーグルト買ってたから、やってみるね」
「……ありがと。すーちゃん、だいすき」
「私も、ルキちゃんのこと大好きだよ。いつも、いっぱいの幸せもらってるよ。……ずっとそばで、私もルキちゃんに幸せ返したいな」
「……なんですぐ、そういう恥ずかしいこと言うの……もう幸せだもん、あたし」
「うん。……うん。ありがとう」
◆◆◆
ほんとに幸せだらけの言葉をたくさん、たくさん交わして、二人で楽しくご飯を食べて。
洗い物をして、余った食材を集めて。
浄化系の治癒術の一環を使うことで、旅の荷物になる食材を持ち歩き用に保存して。
使ったお部屋を軽く掃除しても宿のチェックアウトまでまだ時間があったから、治癒術の教本を読んで勉強していると。
のし、と膝に重みがかかった。
本と膝の間に滑り込むように、ルキちゃんが私の膝に頬をくっつけて膝枕状態になっていた。
「……ちょっとはあたしに構ってくれないと、許さない。ゴハンに、キライなもの入れてたし」
まだご機嫌ナナメだったらしい。
私はつい笑ってしまいながら、ルキちゃんの頭を撫でて綺麗な髪に指を通す。
「……ルキちゃん、まだ寝癖ついてるね」
「……すーちゃんが、梳かしてくれるもん。だからいーの」
「私、あんまり上手にできないけといいの?」
「きもちーからいーの」
ルキちゃんは私の膝に頬を擦り寄せて、うとうとと目を細める。
まだ朝が早いから少し寒いけど、旅の途中はもっと寒かったりするけど。
ルキちゃんと手を繋いで歩いて、べったり寄り添っていれば、結構大丈夫だったりする。
……眠る時、心から安心できるのってルキちゃんと出会ってから、だなあ。
ルキちゃんも、私と一緒だと少しは安心して眠れてるのかな。
私、ルキちゃんにとって安心できる場所になれてるかな。
そうだと、いいなあ。
ごろごろうとうとしながら、ルキちゃんが私に訊ねてくる。
「……次、目的地、どこ? もう、WITTSの……支部? 着く……?」
「ううん、まだちょっとかかるかな。ここから少し歩いた先に廃村があるから、その近くで一泊キャンプして、そこからもうちょっと歩けばWITTSイース・トーヴ支部に着くって、地図では言ってたよ」
「うー……歩きすぎるの、疲れる……」
ますます拗ねてしまったルキちゃんを宥める為に、私はルキちゃんの頭を撫でながら言う。
「……ルキちゃん、何か食べたいものある?」
「……お肉。もしくは、甘いもの……」
「そっか。お肉はそのうち……でも、支部についたら絶対甘いお菓子作るよ」
こちらをちらりと見たルキちゃんの瞳が、一瞬きらりと輝く。
でもすぐに、ルキちゃんは甘えるように言った。
「……いま、じゃないの?」
「あ……今からなら、ココアいれよっか? 時間ならたぶんまだ大丈夫だし。生クリームとマシュマロ、どっち乗せる?」
「……どっちも」
「……いっつもはだめだよ。でも、今日だけ、ね。私もそれ、飲もうかな」
「すーちゃんも、そんな甘いの飲むの? ……からだ。悪くしちゃうよ?」
「一緒がいいの。たまには、ルキちゃんと一緒にからだ悪くする」
「……道連れ?」
「あはは……このあと栄養とか運動とか、ふたりで頑張るからいいんだよ」
「む……あたしも、頑張るの……? ……でも、すーちゃんと一緒なら、いっかな……」
……出会って、二人きりで少し旅をして。
ルキちゃんとはだいぶ仲良くなれたと思う。
今も、ほら。
私たちの両手には、旅の途中で約束通り買った、お揃いのグローブが嵌められている。
宿を出たら、私とルキちゃんがそれぞれの心に収納中の【レディ】に荷物をしまって、また手を繋いで二人で歩こう。
私たちが想像力で願えば私たちの【レディ】は冷蔵、冷凍機能も対応できるらしいから、私の治癒術では対応しきれない分の食材の鮮度はそっちでお願いしてもらおう。
【レディ】すごい、【妖精因子】すごい。
ルキちゃんとフェ・デ・フルールに、クイーン・オブ・ハートと私に、できることが増えて見つけられるのは、すごく楽しい。
……ルキちゃんの、ことも。
ルキちゃんと一緒にいるのは、お喋りするのは、とても楽しい。
二人いるから、心が二つあるから、そのぶん考えることや想うことが、伝え合えることがどんどん増えていく。
その交流の時間が、私はたまらなく好き。
ルキちゃん。
私の、大切で大好きな友達。
……やっぱりルキちゃんは、表情がころころ変わって、たくさんの言葉を持っていて、いつも懸命に私に想いを伝えてくれる、きらきらと純粋な女の子。
そんな可愛いルキちゃんが、私は何度でもだいすき。
だから、ルキちゃんと一緒にどこまでも頑張ろうって決意を新たにして。
今はルキちゃんとのしばしの休息を、まったりとした優しい時間を、胸いっぱいに刻み込むように、ただただ楽しんだ。
◆




