その10 撃ち抜けブチ抜け、ブチかませ
★ 狂想爆炎ピアチェレディ!
第四話『夢想家どもの、終末糾弾』
その10 撃ち抜けブチ抜け、ブチかませ
teller:リュート=シューター
◆
じいじの名前を、叫んだ時。
じいじの身体が、光り出した。
コックピットにいるけど、わかる。感じる。
じいじの背中に翼が生えて、じわりじわりと宙を舞って。
じいじが、『ブラウニー』が、戦う準備を整えている。
魔女の方は光に怯……んだと思ったのに。
眩しすぎる光の刺激に、魔女は激昂してしまったらしい。
ブチ切れた勢いで、魔女は無数に分裂し始める。
そういうことができるタイプの魔女らしい。
……数が多すぎる。
こっちは初陣なんだけど。
でも、まだ眩しい空間で。
隣から、スズベルの声がした。
「……ブラウニーのじいさんの装備、わかるか?」
「……ミサイル、使えるはず。弾数限られてるけど、でも」
攻撃手段が限られていたとしても、でも。
今じいじに乗ってるのは、他でもない『僕』なんだ。
「僕ならできるよ。ソウゾウ、できる。いくらでも、弾を作れる」
「へえ、【妖精因子】でか。何する気だ?」
「……僕の作った異空間で君がやってたこと、何となくだけど伝わってるよ。エネルギー弾、使ってたでしょ。僕ならそれ、すぐ創れる。撃てるよ。……僕のソウゾウ、凄いんでしょ?」
ソウゾウが、凄いから。
フェアリーファクターだかなんだか知りたくもなかったけど、僕のその力が凄いことは知ってたから。
だからじいじを繋ぎ止める為に、逃げ出す為に、僕はこの力に縋りたくなったんだ。
……今の僕がこの力を使いたい理由は、きっともっと別のものだけど。
「……生意気言いやがって」
苦笑……にしては穏やかな笑い声が聞こえた気がする。
やけに穏やかな声で悪態をつきながら、スズベルが勝手にパネルを操作し、それからモニターに表示されたマップに指先で次々に触れていく。
マップには、たくさんの光る印が点在していた。
無数に増えた魔女の位置を報せる印、だと思う。
スズベルは言った。
「マーカー……目印だよ。オレが照準合わせてやる。お前はただ、この光に向かって全力で撃て。テメエの全部、ブチかましてやれ!!」
僕の全力。僕の、ぜんぶ。
それを今ここで出せなきゃ、僕、きっと一生変われない。
わかってる。
わかってるよ。
僕だって、ちゃんと頑張れるよ。
位置がはっきりしてれば、僕なら大丈夫。
落ち着いて、ぜんぶ、視ればいい。
自分にそう言い聞かせて、僕は操縦桿を握る。
……僕の【妖精因子】は、おぞましい『スノードーム』とかいう実験施設で人工的に植え付けられたもの。
あと、いつも前髪を長く伸ばして隠してるけど。
僕の両眼には、秘密がある。
超視力。
それが僕の眼が持つチカラ。
施設で強化されすぎた視力。
僕の想いとも、ソウゾウとも繋がってしまう特殊な視力。
僕は、この眼で視えたものと軽く『繋がる』ことが出来る。
繋がったものに、僕の想いを届けることができる。
想いが届くから、繋がったものが僕の想いに応えてくれるから――暴走した僕の力は、目に映った世界のかたちだって変えてしまったんだ。
新しい世界を、異空間を作ってしまったんだ。
そして、今は。
想像した弾丸を、あの魔女の群れまで届けてやる。
ぜんぶ、ぜんぶ、撃ち抜いてやる。
やり方をちゃんとイメージするんだ。想像するんだ。
あのクソ強い冥助がやってたこと、よく思い出して真似てみよう。
この眼に映る全部、スポンジみたいに吸収してやる。
それで、そうやって蓄えた手段で僕は戦うんだ。
さあ。
――多勢に無勢を、覆せ!
「――降り注げ!! 『イースター・シューティングスター』!!」
いつの日か、じいじ相手に無邪気に話したことがある――憧れの必殺技の名前、なんてものを口にして。
僕は僕の想像力ぜんぶを、魔女相手にぶっ放した。
スズベルが指定した目印を、マップでも、視界でも、僕の視える範囲ぜんぶで確認して。
そこを目掛けて、無尽蔵のエネルギー弾をただひたすら撃ち放つ。
祝砲みたいに、景気よく。
強い【妖精因子】で想像・創造した、必中の流星群だ。
冥助みたいに世界ごと自由に操って思い通りに攻撃することは、僕にはできないけど。
今の僕なりに、いっぱいの攻撃を繰り出すんだ。
僕の底なしの想像力、ぜんぶ攻撃に変えてやる。
そうやって、僕は僕の守りたいものを守る。
それが僕の、今日から、今からの戦いなんだ。
逃げ惑う魔女をこの眼で見続ける。
絶対に逃がさない。
スズベルがマップを弄って合わせた照準を意識して、確実に仕留めていく。
ずっと、この眼が、この力が怖かった。
だからいつも前髪で隠してた。
何かを見るのも見られるのも、何かと繋がるのも怖かった。
だけど今は、最後までこの眼を開けていたい。
ぜんぶ、この眼に焼き付けていたい。
――なんて、想いは強いはずなのに。
嘘なんかじゃないのに。
こういう戦いなんか慣れてない僕は、まだ弱かった。
頭がなんだか疲れてきて、貧血みたいにくら、とふらついてしまう。
でも、倒れそうになった身体が、簡単に支えられる。
スズベル。
まだ僕の横にいるヤツ。
こいつはやっぱり、僕を逃がしてくれない。
気を抜いたら疲労やプレッシャーに負けそうなのに、怯みそうなのに。
スズベルはまた僕の両手に自分の手を添える。
二人で操縦桿を握ってるみたい。
そしたらプレッシャーとか心細さみたいなものが薄れていって、不思議と力が湧いてくる。
スズベルの眼が、『オラやれよクソガキ』って、雄弁に語ってる。
えらそうに。
ムカつく。
でも、そう。そうだね。
僕、やれるよ。
そんな過保護に支えてもらわなくても、このまま頑張れる。頑張ってみせる。
くらくらしても、倒れそうでも。
それでも僕は、終わりまでここに居たい。
魔女リカルカ。
この世界の、全ての災い。
僕があの施設でモルモットにされた根本的な原因は、あいつらが、魔女がいるから。
なら、戦いたい。
戦える僕になりたい。
そんな災い、この世界から消し去りたい。
だって。
災いくらい覆せる僕にならないと。
大好きなじいじが、安心して眠れないんだ。
そんなの僕、イヤなんだ。
「……もっと、もっとだ! 降り注げ! 貫いちゃえ! 僕が歩き出す邪魔、しないで!! ぜんぶ退かして、僕、どこまでも行くんだから!!」
――そして。
魔女の数をとうに超えた弾丸が撃ち放たれ、炸裂して。
僕が僕の、情けないくらいの幼い想像力で作った全部の異空間ごと。
光の弾丸は、ぜんぶの魔女を打ち砕いた。
◆◆◆
――まどろみ、みたいな感覚があった。
魔女を倒してすぐ。
世界が元通りになっていく中で。
僕は、確かにじいじの声を聴いた。
『……ご立派です、坊ちゃん。どうか、これからも……健やかに……』
……うん、そうだ。
わかってた。
だって、さっきからじいじ、口数少なかった。
もう限界なんだ。じいじ、眠っちゃうんだ。
『申し訳ございません、坊ちゃん……わたくしは少し疲れました。しばし、眠らせていただきます……』
わかってた、けど。
納得できるかどうかは別物だった。
だって僕はずっと、じいじとのお別れが何よりも怖くて不安でおかしくなりそうだったんだから。
気がついたら、涙がぼろぼろ溢れてた。
みっともないのに。
長い長いお別れなのに、次いつまたじいじと話せるかもわかんないのに、嗚咽ばかりが零れちゃう。かっこわるい。
……でも。
コックピットの中で、スズベルが貸してくれたぶかぶかのグローブを掲げる。
じいじにも、見えてるはずだと信じて。
「僕……このグローブが似合うくらい、かっこよくなるから。そんな大人に、ちゃんとなるから。だから……」
頑張るから、だから。
だからいつか。遠い遠い、いつの日か。
「……また、ね。じいじ。いつか起きたら……かっこよく変わった僕のこと見て……ちゃんと、安心してね……笑って、ね……」
涙目で涙声だったけど、ぜんぜん締まらないけれど。
僕は僕なりに、大好きなじいじへと、今のお別れの言葉を言った。言えた。
じいじの笑い声が、かすかに聴こえたような気がして――。
『坊ちゃん、どうか良い旅を! これからも、わたくしの想いは坊ちゃんの御心と共にあります……』
……うん。
『しばしのお別れですが……また、いつか会える日を……わたくしも楽しみにしておりますよ……』
……うん……うん。
僕も、だよ。
「……僕も、だからね……っ……じいじ……」
――そうして、確かなお別れの言葉が、終わって。
『ブラウニー』のコックピットのライトが、一斉に消える。
それは、じいじがスリープモードに入ったことを意味していて。
それは、長い長いお別れで。
やっぱり僕の子どもっぽい涙腺は、勝手に決壊してしまった。
しばらく、言葉にならない泣き声でわんわんと、僕はただ泣いていた。
隣のスズベルが、無言でくしゃっと頭を撫でてくる。
……よく知らない相手に大人ぶられると、ちょっとムカつく。
別にイヤとかじゃないのが、自分でもヘンな感じだけど。
スズベル。
コイツのこと、たぶん僕はあんまり好きじゃない。
だって口悪いし乱暴だし強引だし、なんか無駄に喧嘩腰だし。
でも。
こいつが僕のところまで勝手に駆けつけて辿り着いた時の言葉。
横っ面に確かに受けた、ただの言葉の、ただの叫びの衝撃。
拳よりも効いた言葉の感覚。
僕はあんまり、忘れたくない。
なんでだろ。
コイツの持つ言葉、もっと聞きたい。
何か、どこかへ僕を進ませてくれる気がするんだ。
じいじが眠って、雪に囲まれた世界はひどく寒いのに。
頭をへたくそに撫でる、手のぬくもりは。
これから頑張るんだって後押しくらいには――きっと、なってくれたはずだった。
◆




