その4 夢想無双に幕を引け
★ 狂想爆炎ピアチェレディ!
第四話『夢想家どもの、終末糾弾』
その4 夢想無双に幕を引け
teller:スズベル=エメラルダー
◆
リュートとかいうクソガキの【妖精因子】――過剰活性した想像力のせいで、オレらの前には霧状の肉体を持つ魔女……の幻影がわらわら立ち塞がっている。
霧は魔女を形作るだけでなく辺りにすっかり立ち込めており、こっちの視界を遮ってくる。
厄介ったらありゃしねえ。
薄暗いし、こりゃライトが必要だな、と辺りを照らしたその瞬間。
コックピット内に居た凪哉が【レディ】の起動口上を大声で叫んだ。オレのすぐ横でだ。ちょっと待てふざけんな。
「『ジェーン・ドゥ』!! テイル、リスタート!!
Ready steady, my steady!」
「うるっっせっっ! 自分のレディ叩き起こせとは言ったが、ンな至近距離で叫ぶやつがあるかバカ! あ、てめっ! もう消えやがった!」
凪哉が叫んだ頃にはブリキハートがずっと引きずってきた凪哉の【レディ】、ジェーン・ドゥが起動していて……ついでにオレの横に居た凪哉は姿を消していた。
起動の勢いで、搭乗者の凪哉もジェーン・ドゥのコックピット内に転送されたんだろう。
そういう機能も【レディ】や、起動&召喚の為のグローブにはあるから……まあ今はそれはいいか。
通信を介して、オレは凪哉に呼びかける。
「ジェーン・ドゥの状態に気を配っとけよ。この寒さだと、テメェの装備じゃ長くはもたねえ」
「……この数の幻影相手に、短期で勝負を決めるのか?」
「ぜんぶ倒す必要はねえよ。ここ見ろ」
モニターのマップに一つ印をつけてやり、凪哉の見ている画面でも共有できるようにする。
印を点滅させながら、オレは説明した。
「この位置。ここだけ幻影魔女どもが警戒心を向けてない。オレらには敵意剥き出しのアイツらが全員、ここには背を向けてるし……群れ方もこの近くだけ妙に手薄だ。……っつーことは、印のトコは幻影魔女どもにとっちゃ警戒どころか安心できる場所なんだろ。この辺り、モニターで見ると霧の流れも少し違うしな」
「安心できる場所、ということは……この印の位置こそが、リュート殿が【レディ】……いや、ブラウニー殿を連れて逃げた先……という可能性が高いと?」
「そういうこった。想像力の活性化っつっても10歳のガキの想像力だ。詰めが甘いっての」
そう言い捨てて、オレは前を――印の位置を見据える。
幻影魔女の群れの奥。
霧が少し薄い、不自然な隙間。
「マボロシどもを蹴散らしつつ、あの隙間目指して駆け抜けるぞ。テメェの機体は寒いとこ耐えられねーんだからマジで急げよ!」
「……承知した。貴様、そこまで観察していたのだな」
「へっ。やっとセンパイの力量に恐れ慄いたかよ、新人戦闘員」
「いやそうでもない」
「蹴り倒すぞテメェ」
「もう蹴っているだろう。そう脚部を蹴ってくれるな。そもそもぼくの大切な愛機を傷つけるな。大体……いや……今はリュート殿とブラウニー殿が気がかりだな」
「……それはそうだな。急ぐぞ!!」
「承知!!」
オレのブリキハートは滑走の用意を。
凪哉のジェーン・ドゥは全力疾走の準備を。
そうしてオレたちが駆け出そうとした、その時。
辺りの霧が露骨に濃くなり、嫌な予感がしてモニターを確認し――。
「――息すんな凪哉ッ!!」
「し、死ねと……? 流石にその暴言は引くぞ……?」
「ちっげぇわ!! モニター見ろモニター!! ドクロマーク付いてんだろ!? あの霧、辺りの雪を毒に変質させてやがる!! このままじゃ身動き取れなくなるから、もうなりふり構わず走れ! 呼吸はあんますんな!」
そう怒鳴ると、通信機越しに聴こえる凪哉の声がくぐもったものに変わった。
片手で口を押さえたんだろう。
そもそも喋るのをやめてほしいが。
「……スズベル……貴様は平気、なのか……?」
「……オレは毒が効きにくい。そういう体質なんだ。ワケありだ。説明してるヒマはねえからな」
「……ぼくも別に身体に違和感は無いが……?」
「テメーの場合だと……まだ人間の身体に馴染みきってないから感覚鈍いだけだろ。あとでガタきてぶっ倒れても知らねえから油断すんなよ。そのまま鼻と口、なるべく押さえとけ。――行くぞ!!」
やっとブリキハートとジェーン・ドゥがスタートを切って、幻影魔女がひしめく霧の異空間を駆け抜けて行く。
毒が染みつつある雪を踏んでいるせいか、機体が僅かに毒で汚染され、一部の機能が鈍り出す。
【レディ】にも効く毒はズルいだろうが。ざけんな。
だけどオレは前に進むべく、ブリキハートの斧を振って魔女の角を斬り落とす。
凪哉もジェーン・ドゥのモーニングスターを力任せにぶん回して、行く手を阻む魔女の角を頭部ごと破壊した。
想定外のことが起きたのは、オレらがそれぞれ魔女の角を潰した時。
霧に包まれた白い世界がより白く光って、一瞬だけぼんやり気が遠くなる。
白昼夢のような奇妙な感覚だった。
知らない記憶が、脳内に強制的に流れ込んでくる。
幻影魔女は己の消失と引き換えに、オレらの脳に幻を刻み込むらしい。
幻と言っても、それは――。
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――なんと……おいたわしい……
――こんな幼子が、傷を……
――もし……坊ちゃん、目を開けてください……
――大丈夫です。もう貴方様を傷つけるものはありませぬ……
――どうか、ご安心を……わたくしが坊ちゃんを、お守りいたします……
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『ブラウニー』と言う名の、【レディ】の声がする。
幻と言っても。
その、幻は。
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――じいじ……?
――ふふ……わたくしをそう呼んでくださるのですね……
――ええ、ええ。憶えております。お守りしますとも。
――おやおや、はしゃいでしまって……リュート坊ちゃんは今日もお元気ですね……
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……また、ブラウニーの声が聴こえた。
幻と言ってもそれは、オレらが知らない、見ることのできないと言う意味の幻で。
今聴こえたブラウニーの言葉は、実際にリュートが聴いた言葉なんだろう。
……リュートの心に残っちまってる言葉なんだろう。
リュートの想像力によって創造された幻影の魔女を潰していく度に、リュートとブラウニーの思い出がオレらの脳にも流れ込んできてしまう。
凪哉なんか、もう攻撃するのを躊躇ってしまっている。
……だからガキは詰めが甘いんだよ、自分の大事な思い出をひとさまに向けて垂れ流してんじゃねえよ。
凪哉の動きが止まってしまっている中、オレはブリキハートの斧を振り続け、容赦なく魔女を倒していく。
流れ込んでくる思い出に、だんだんリュートの声が混じってくる。
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――『おや坊ちゃん、拗ねてしまって……そんなに気になさらずとも、数年もすれば背など今よりずっと伸びますよ』
――『む……じいじはカラダがおっきいからそんなこと言えるんだよ。……僕はやだよ、こんなカラダ。男のくせに弱っちくて恥ずかしい』
――『そんな前時代的なことを言うものでは……』
――『……だってね。僕がおっきくなって、もっと力も強くなれば……僕もじいじを守れるでしょ?』
――『……おやおや……頼もしいことを言うようになって……』
――『な、なにさ……僕こんなんだけど、大事なものを守れるやつにはなりたいの。……わかってよ……』
――『……ええ、ええ。貴方様の成長を、この老いぼれは……いつも傍で見守っておりますよ……リュート坊ちゃん……』
****
斧を、振る。
魔女の幻が、消える。
聴こえてきたのは、リュートの声だけ。
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――『……じいじ……じいじ……っ』
――『やだ、じいじ……っ……死なないで……』
――『ぼくは……ぼくは、じいじが居ないと! 生きてけないのに……!』
――『…………ねえ、じいじ』
――『僕、ソウゾウできるんでしょ、そういう力が、僕にはあるんでしょ?』
――『僕が今ここで、永遠を創れば……全部、全部、思い通りの箱庭に閉じ込めて……全部永遠にしちゃえば……じいじも……ずっと……』
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「――凪哉ッ!!」
頭ん中に流れ込んでくる思い出が終わるのも待てず、オレは叫ぶように自称奇跡の時代錯誤口調金髪ヤロウの名を呼んだ。
「凪哉おまえ……ブラウニーの残された時間、わかるんだろ」
「あ、ああ……」
「ブラウニーの残りの命が少ないのは、本当なんだな?」
「……それは……間違いない。あのご老体に残された時間は、少ない」
「……じゃあよ。あの爺さんの命が終わるのは、本当に今すぐの話か? もう数分も保たないとか、そういう話か?」
「……いや流石に、それよりは長いが……」
凪哉の、そんな見立てを聞いて。
――オレの中の、ざわざわした迷いは消えた。
「……なら、生きなきゃだろ」
「……スズベル……?」
「あのガキは、今を……現実を見なきゃなんねーんだ! あのレディと一緒に、現実を生きなきゃなんねーんだよ! 例え短くても、生きれる時間がまだあんなら! なおさらだ!」
オレはブリキハートの操縦桿を握って、当初の目的地である隙間まで滑走させる。
ジェーン・ドゥも慌ただしく駆けて、後をどたどたついてくる。
「…… 冥助のオッサンは言ったよな。オレら二人の任務は、10歳のガキ……リュートを助けることだ。失敗したら世界が終わる任務だ。さっさとこんなとこ抜けて、任務果たしに行くぞ!」
邪魔しにかかる魔女を倒しながら、オレのブリキハートは進む。
ガキとじいさんのあったけえ思い出がいくら頭ん中に溢れてきても、足は止めない。
凪哉のジェーン・ドゥも、再びモーニングスターを振る手を動かしていた。
手も、足も止める様子はない。
こいつなりに踏ん切りがついたんだろう。
魔女を倒し目的地に向かう合間、凪哉がこそっと通信を入れてきた。
「……スズベル。貴様は、自我のある【レディ】と面識がある……と言ったな」
「……げ。覚えてたのかよ。……あるよ、すっげーガキの頃だけどな」
「先程の口ぶりから察するに。……貴様には……共に生きる時間が、無かったのだな」
……急に核心突くなよ。
一応ド地雷なんだぞ。
「…………そうだよ。リュートとブラウニーの爺さんみたいにポンポン出てくる思い出なんざ、オレとソイツには無え。……ってわけで、リュートのガキも世界も救ってやろうぜ。……あれ、一応まだ救えるからよ」
「うむ。ぼくの覚悟が甘かったようだ。……ぼくは、凪也=ラブクラフトに誓った身だ。奇跡として生き、多くの希望を守ると。まだ潰えていない希望……ぼくという奇跡が守り、果たしてみせる!」
凪哉の声は、腹立つくらいに晴れやかだった。
やっと調子取り戻しやがったな、このアホ。
どんな思い出が、どんな記憶がオレたち二人の心に伝わろうが、オレたちは走り続ける。
己の愛機と共に、己の全てと共に。
「……あークソ。だいぶ毒吸っちまったけど、オレはこんなところでくたばるわけにはいかねえんだよ……っ……世界なんて終わらしてたまるか」
「同意だ。奇跡を遂げて、終末など阻止してみせよう」
「なんとしても、オレはまだ死ぬわけにはいかねえしな……」
「それについても同意だ。ぼくも――」
「なにせ、まだ愛しのアリスちゃんとデートしてねえんだよコッチは」
「は????」
「あの優しく愛くるしいオレだけのフェアリー・メイドとキャッキャウフフとおてて繋いだり、あのきらっきらのお目目にさまざまなフォトスポットなどなどを映してあげたり、愛情たっぷりのハグを堪能せずして死ぬなんて死んでも死に切れねえ!! アリスちゃ~~ん♡♡ オレは君と会いたい、ラブラブ甘々デートしたいっ! 待っててねマイハニ~~♡♡」
「――急がねば。リュート殿とブラウニー殿が心配だ。冥助殿が静かということは、それほど切羽詰まっているのだろう。絶望的な状況だが、ぼくとスズベルで何とかせねば……」
「……? あれ。ってか今更だけどおまえ、ガキには敬称付けてオレのことはずっと呼び捨てなの? なんでそんなにオレのことナメてんの?」
「な、何故だ……? むしろ何故だ……? 何故、脈絡のない惚気を仕事中に垂れ流しておいて敬われると思ったんだ……? き、急に貴様が恐ろしい……主に思考回路が……」
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