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狂想爆炎ピアチェレディ!  作者: ハリエンジュ
第三話『ガール・ミーツ・ガール』 ~アリスパート~
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その11 フェアリー・ダンス

狂騒(きょうそう)爆炎(ばくえん)ピアチェレディ!

第三話『ガール・ミーツ・ガール』

その11 フェアリー・ダンス


teller(語り手)留輝(るき)=フローライト




 フェ・デ・フルールのコックピットのなかで、あたしは魔女リカルカのすがたを確認する。


 黒い影――と思ってたけど、よく見たらカラダが石みたいに灰色の魔女だった。

 ゆらゆら浮いてて、角だけムダにデカくて――両手が、ヘンに長い。

 長すぎる両手をぶらぶらさせていると思ったら、魔女とフェ・デ・フルールの目が合った瞬間。

 魔女は、両手をぶん回してきた。こんな森の中で。


「く……っ、フェ・デ・フルール! よけて!」


 魔女が暴れるせいで、森の木々が次々になぎ倒されていく。

 両手が長いから、あたる範囲が広いんだ。ウザい。


 ……ヤだな。

 森が、泣いている気がする。

 空も泣いている気がする。だって空、なんか赤いもん。


 隣にいてくれるちいこいオンナ、アリス=クロスロードの言ってたことを思い出す。


 【妖精因子(フェアリーファクター)】。

 あたしと、アリス=クロスロードはそういう体質、らしい。


 あたしには、いろんなものが勝手に聴こえる。

 声とかコトバとか音楽とか、誰のものかわからない音が、たくさん。

 色々聴こえるし、肌にヘンな感覚がくるし、あたしはいつも、どこかの何かとつながっている。


 ちら、と隣にいるオンナを見ると、そいつはリチギにあたしを見ていた。

 あたしのなみだ、ぬぐうことをただ頑張ってた。

 オンナのマジメな顔を見て、わかった。


 あたしとこのコ、同じ体質なんだろうけど――セーシツってやつが、ちょっとちがう。

 このコの体質、詳しく聞いてないけど……たぶん、今はあたしと同じ音はこのコには届いていない。

 きっとあたしのほうが、世界の音とかよく聴こえるんだ。


 なら。

 ならそれを、あたしはいま、活かす。


「つなが、れ……!! つながれっ!!」


 操縦桿(そうじゅうかん)を握りながら、あたしはフェ・デ・フルールに、森に、森を生きるすべてに何度も呼びかけた。

 ハリボテだった、今は動かない洋館にまとわりついてた茨の蔓がしゅるしゅると、弱々しくも動き出す。


 あたしが茨の蔓を使えるのは、あたしのココロが森とつながってるから、だと思う。

 たぶんこれも、フェアリーファクターってヤツのチカラ、ら

 あたしのキモチに応じて、森を覆う茨の蔓はあたしの敵をやっつけようとする。

 さっきいっぱい暴れさせちゃったから、今は元気がないみたいだけど。


 じゃあ、もっと、いまぜんぶ。

 きいて、はなして、つながって。


「……っ、森よ、風よ、いのちぜんぶ! 声、きかせて! あんたたちのぜんぶ、あたしに話して!」


 もっと、もっとと呼びかける。

 つながるために、あたしから森へ呼びかける。


 森のいのち、風の声。

 あんたたちの音なんて、ずっと耳障りだった。

 ひっきりなしに聴こえるのイヤだった。

 こんな音止まってしまえって何度も思った。


 でも、でも、あたし、いま、ちがうの。

 隣にいる、このコと会えたからかな。

 すき、とか、いとしい、とか、ちょっとは知れたからかな。

 すき、みたいなキモチがイヤじゃないってこと、知れたから、かな。


 ――あんたたちにも、ごめん。

 あたし、ずっと嫌がってばかりで、ひどいことばっかり言った。

 ごめん、ごめん、それでもあたしに、これからを、未来をちょうだい。

 変わりたいの。

 ひっきりなしに聴こえてて耳障りだった声もコトバも音楽も、キレイゴトも、あたし、今は――大好きになりたいって思っちゃうんだ。


 森に呼びかけて、話しかけて、あたしのキモチを語って。

 森の音がはっきりキライじゃなくなった、その瞬間、やっと。


 ――あたしは初めて、本当の意味で森とつながった気がした。


「……つなが、った……! い、いくよっ、フェ・デ・フルール!!」


 フェ・デ・フルールに呼びかけて、暴れる魔女を止めるため、あたしはフェ・デ・フルールをやっと動かした。

 おねがい、おねがい、とあたしの呼びかけに応えるように、フェ・デ・フルールは軽やかに魔女めがけて駆けていく。

 森のいのちを潰さないよう気をつけて、駆けて跳ねて翔んで――踊るようにしなやかに、フェ・デ・フルールは森に、生きる。


 フェ・デ・フルールの舞うようなすがたに、あたしのココロに、あたしとつながってくれた『森』そのものも反応する。


 森に吹く風の音が、たしかに変わった。

 風の声を、あたしはよく聴く。

 風はあたしに話してくれる。風が吹く方向を、伝えてくれる。

 伝え聞いた風の行き先を必死におぼえて、森の声もちゃんと聴く。

 魔女になぎ倒されるだけだった木々が、風と手を取り合うココロをあたしに見せた。

 風に揺れた木々の枝が、緑の葉が、地に咲く花が、魔女とあたしの間に壁をつくる。

 森が、魔女の視界を封じたんだ。


 風だけのびのび吹いているから、あたしはその風にフェ・デ・フルールの身をまかせた。

 フェ・デ・フルールが、風に乗って木と木を飛び移りながら、両手を魔女に突き出す。

 ……両手を伸ばしたのは一応、さっき魔女がやったことの、仕返しのつもり。


 フェ・デ・フルールの両手がぴかっと光る。

 光の粒が集まる両手を、前へ前へと突き出して。

 風の向きに合わせて、その光の粒を一気にぶっぱなした。

 光の粒がそれぞれ風に運ばれて、流れるように魔女の身体に叩き込まれる。

 魔女のカラダに触れた光の粒が、魔女のはだに突き刺さって食い込んで、なかへ、なかへと潜り込む。


 そして魔女のなかみに入り込んだ光の粒たちは、魔女のソンザイに反応して、『開花』する。


「芽吹け……! 咲け……!!」


 花が咲くようにぱっと粒は弾けて――魔女のカラダの内側で、小さな爆発を一気に起こした。

 あたしが風に乗せて送り込んだ光は、フェ・デ・フルールが作った花みたいなもの。

 あの花はあたしのトゲトゲしい性格のせいか、キライなものに触ったらひっどい爆発を起こすみたいだ。

 フェ・デ・フルールに乗った時、自分にはそういう力があるよって、フェ・デ・フルールはコトバじゃないつながりで、あたしのココロに教えてくれた。

 あたしはそれを、たしかに感じた。


 フェ・デ・フルールが伝えたアドバイスもダイジ、なんだろうけど。


 これはあたしが森とつながったから、森の在り方があたしのココロに入り込んだから、思いついた戦い方だ。

 森をあんまり壊さないで、魔女だけボコボコにするための戦い方。


 願った通り、魔女はカラダのなかのあちこちでいっぱい起きている爆発に、なかみをぐっちゃぐちゃに叩かれて潰されて焼かれて、転がるようにのたうち回っている。

 それがまるで、踊り狂っているようにも見えた。


 爆発で吹っ飛んだ魔女の一部が、フェ・デ・フルールの足元にまで落ちてくる。

 厄介な、やたら長い腕は特に念入りに爆発で壊しているけど。

 壊れてる途中の魔女から感じるフンイキが、あたしのココロに伝わってくるものが、なんか、こわい。


「ひ……っ!?」


 ――サイアクなことに、予感は当たった。

 爆発の勢いにカラダをまかせるように、魔女がこっちに突っ込んでくる。

 壊れかけの魔女のブキミなダンスは、あたしを巻き込もうとする。


「や、やだ……っ! くるな、くるなあ……っ!」


 魔女も、痛いと反撃するんだ。

 仕返しするんだ。

 アイツ、あたしに怒ってるんだ。

 あたしのことも壊そうとしてるんだ。

 どうしよう、ヤダ、こわい。


 おびえるココロが、カラダのふるえが一気にくる。

 何かとつながりやすいあたしのココロが魔女の敵意にあてられて、ビビっておびえて、しおしお元気をなくしてしまう。


 こわくて動けなくなったあたしが、フェ・デ・フルールをうまく動かせるわけもなくて。

 ――魔女が、ぶつかる。やられる。

 こわいキモチが限界をこえて、目を閉じそうになったとき。


「……っ、クイーン・オブ・ハート!!」


 となりにずっといた、このコが。

 アリス=クロスロードが、とつぜん叫んだ。


 フェ・デ・フルールと魔女のあいだに割って入るように、青い【レディ】が飛んでくる。

 大きな鎌を構えたソイツは、鎌を地面に突き立てて、それでソイツ自身のカラダを支えて――カラダ全体で、魔女の突進を受け止めた。


 なかみが燃えてて壊れかけであちこちのカラダが破れてる魔女は、なかみから炎も見えてて、敵意たっぷりで、まともにぶつかったら危ないはずなのに。

 クイーン・オブ・ハートとかいう【レディ】は、魔女とぶつかってもびくともしなかった。


 でも、魔女の様子がなんだかおかしくなる。

 クイーン・オブ・ハートにさわった瞬間、魔女の勢いがしゅんとなくなってしまった。

 勢いを殺された魔女の動きが、ぴたっと止まりかけて、すぐ我に返ったように魔女は飛び退き、あたしたちから距離を取る。

 なんか、ヘンな壁が魔女を阻んだみたいだ。


 クイーン・オブ・ハートのカラダをよく見ると、薄くてきらきらした膜に全身を覆われている。

 ……バリア? みたいなものが、クイーン・オブ・ハートを守ってるのかな。

 コレはたぶん、このコの、アリス=クロスロードの【レディ】なんだろうけど――。


「……ぁ……」


 あたしの目元を撫でる、あったかいもの。

 それにやっと気づいて、あたしは情けなく声を漏らした。


 アリス=クロスロードは、さっきからずっと、あたしのわがままなお願いを聞いてくれていた。

 あったかい指で、弱虫なあたしのなみだ、拭ってくれてる。

 このコ、もう血まみれでボロボロで、目を開けてるのもつらいはずなのに。

 あたしのおねがい守って、今もやさしい眼で、あたしのこと、ちゃんと見ててくれてる。

 

「……見てるよ、ルキちゃん。私、ちゃんと見てるから。ルキちゃんが頑張ってるところ、ルキちゃんの素敵なところ……となりでちゃんと、見てるから」


 そのコの声が、音が。

 あたしにとっては、すごく、すっごく優しく聴こえて、あたしはこの音がすきで。

 そう。そうだよね。

 あたし、このコを守るって、魔女に勝つって決めたんだ。

 ちゃんと助けるんだ。

 強く、やさしくなるために、がんばるために、まずこの魔女に勝つんだ。


 優しい声が、なみだを拭ってくれる指が、あたしに大事なことを思い出させてくれる。

 ――最後まで立ち向かう勇気を、くれる。


 操縦桿(そうじゅうかん)を、両手で握る。つよく、つよく。

 魔女に勝つ、やっつける。

 たぶん、あとすこしでいける。


 森とはまだつながってる。

 風とも、まだつながってる。

 風の行き先、今もわかる。


 さっきまでの魔女の動きを思い出す。

 爆発の痛みをそのまま突っ込む勢いに変えて、魔女は仕返ししようとしてきた。

 じゃあこっちも、仕返し。

 仕返しのし合いでもうわけわかんないけど、仕返しったら仕返し!


 風の声を、聴く。

 クイーン・オブ・ハートが割って入ってくれたおかげで、まだ魔女とは距離がある。

 風の流れを待つ時間が、ある。


 フェ・デ・フルールの足の裏にキモチを集中させる。

 いまごろ、フェ・デ・フルールの両足はぴかぴか光っているはず。

 光の粒がたくさん集まって、『開花』の準備をしている。

 フェ・デ・フルールがいま踏んでるのは、地面じゃない。

 さっきぶっ飛んできた魔女の破片を、フェ・デ・フルールは踏みつけてる。


 そう、だ。

 足裏に集まった光は、この花は。

 あたしのキライなものに触ったら、すっごい爆発、起こすんだ。


 魔女がのろ、と動き出したころ。

 風の向きも、思い通りになった。


「芽吹けッ!! 咲、けぇッ!!」


 ――フェ・デ・フルールが、走り出した。

 あたしは、足裏に集まった光の粒をぜんぶ『開花』させて、小さく爆発させる。

 小爆発の衝撃、爆風、みんなが一気にフェ・デ・フルールのカラダを押し出す。

 風が、背中を押してくれる。勢いをつけてくれる。

 止まることなんて考えられないフェ・デ・フルールは、あっという間に魔女に近づいて、タックルかまして。

 魔女がよろけた隙に、まだ『開花』しきってない光の粒がちらつく脚で、魔女の角を蹴りつけた。

 蹴りの衝撃、休むヒマなく襲った光の粒の『開花』――爆発。

 力を込めた攻撃は、魔女の角を叩き折って焼き切った。


 悲鳴が、あがる。

 魔女を倒した時に、イヤというほど聴いた悲鳴だ。

 あたしには届きすぎちゃうその声がイヤで、カラダがまたふるえる。

 魔女は今、倒せた。消えていくのも見える。


 でも、ふるえが止まらない――。


「……ルキちゃんっ」


「……ぇ……」


 ――きゅうに、あったかいのがカラダぜんぶに広がった。

 気づいたら、あたしはとなりの、ちいこいオンナに抱き締められていた。

 なみだ、拭うだけじゃなくて。

 このコは、あたしをぎゅっと抱き締めてくれて。


「ありがとう……っ、ルキちゃん、すっごくかっこよかった……」


 こんな、やさしく、笑ってくれて。


 うれしいのに、あたしも笑いたいのに。

 なみだがもっとあふれて止まんなくて、あたしはただ泣きじゃくりながら、このコを抱き締め返すことしかできなかった。


 あたしの泣き声の、ほかに。

 フェ・デ・フルールの稼働音、みたいなものが聴こえる。

 森をつくるすべての声が、聴こえる。

 このオンナのコの、心臓の音が聴こえる。


 その音が、ぜんぶやさしくて、キレイで。

 ホントに、イヤなんかじゃなくて。


 耳障りだったもの、キライだったもの、こわかったもの。

 あたし、もっとちゃんと知りたい。

 キライだったもの、ちゃんと好きになれるような、あたしになりたい。


 このコのことも。

 あたし、あんたのこと、ちゃんと知りたい。



 泣き終わったら、ね。

 なみだ、止まったら、ね。



 ねえ、アリス=クロスロード。

 あんたの名前、声に出して呼びたいよ。

 



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