その11 フェアリー・ダンス
★ 狂騒爆炎ピアチェレディ!
第三話『ガール・ミーツ・ガール』
その11 フェアリー・ダンス
teller:留輝=フローライト
◆
フェ・デ・フルールのコックピットのなかで、あたしは魔女リカルカのすがたを確認する。
黒い影――と思ってたけど、よく見たらカラダが石みたいに灰色の魔女だった。
ゆらゆら浮いてて、角だけムダにデカくて――両手が、ヘンに長い。
長すぎる両手をぶらぶらさせていると思ったら、魔女とフェ・デ・フルールの目が合った瞬間。
魔女は、両手をぶん回してきた。こんな森の中で。
「く……っ、フェ・デ・フルール! よけて!」
魔女が暴れるせいで、森の木々が次々になぎ倒されていく。
両手が長いから、あたる範囲が広いんだ。ウザい。
……ヤだな。
森が、泣いている気がする。
空も泣いている気がする。だって空、なんか赤いもん。
隣にいてくれるちいこいオンナ、アリス=クロスロードの言ってたことを思い出す。
【妖精因子】。
あたしと、アリス=クロスロードはそういう体質、らしい。
あたしには、いろんなものが勝手に聴こえる。
声とかコトバとか音楽とか、誰のものかわからない音が、たくさん。
色々聴こえるし、肌にヘンな感覚がくるし、あたしはいつも、どこかの何かとつながっている。
ちら、と隣にいるオンナを見ると、そいつはリチギにあたしを見ていた。
あたしのなみだ、ぬぐうことをただ頑張ってた。
オンナのマジメな顔を見て、わかった。
あたしとこのコ、同じ体質なんだろうけど――セーシツってやつが、ちょっとちがう。
このコの体質、詳しく聞いてないけど……たぶん、今はあたしと同じ音はこのコには届いていない。
きっとあたしのほうが、世界の音とかよく聴こえるんだ。
なら。
ならそれを、あたしはいま、活かす。
「つなが、れ……!! つながれっ!!」
操縦桿を握りながら、あたしはフェ・デ・フルールに、森に、森を生きるすべてに何度も呼びかけた。
ハリボテだった、今は動かない洋館にまとわりついてた茨の蔓がしゅるしゅると、弱々しくも動き出す。
あたしが茨の蔓を使えるのは、あたしのココロが森とつながってるから、だと思う。
たぶんこれも、フェアリーファクターってヤツのチカラ、ら
あたしのキモチに応じて、森を覆う茨の蔓はあたしの敵をやっつけようとする。
さっきいっぱい暴れさせちゃったから、今は元気がないみたいだけど。
じゃあ、もっと、いまぜんぶ。
きいて、はなして、つながって。
「……っ、森よ、風よ、いのちぜんぶ! 声、きかせて! あんたたちのぜんぶ、あたしに話して!」
もっと、もっとと呼びかける。
つながるために、あたしから森へ呼びかける。
森のいのち、風の声。
あんたたちの音なんて、ずっと耳障りだった。
ひっきりなしに聴こえるのイヤだった。
こんな音止まってしまえって何度も思った。
でも、でも、あたし、いま、ちがうの。
隣にいる、このコと会えたからかな。
すき、とか、いとしい、とか、ちょっとは知れたからかな。
すき、みたいなキモチがイヤじゃないってこと、知れたから、かな。
――あんたたちにも、ごめん。
あたし、ずっと嫌がってばかりで、ひどいことばっかり言った。
ごめん、ごめん、それでもあたしに、これからを、未来をちょうだい。
変わりたいの。
ひっきりなしに聴こえてて耳障りだった声もコトバも音楽も、キレイゴトも、あたし、今は――大好きになりたいって思っちゃうんだ。
森に呼びかけて、話しかけて、あたしのキモチを語って。
森の音がはっきりキライじゃなくなった、その瞬間、やっと。
――あたしは初めて、本当の意味で森とつながった気がした。
「……つなが、った……! い、いくよっ、フェ・デ・フルール!!」
フェ・デ・フルールに呼びかけて、暴れる魔女を止めるため、あたしはフェ・デ・フルールをやっと動かした。
おねがい、おねがい、とあたしの呼びかけに応えるように、フェ・デ・フルールは軽やかに魔女めがけて駆けていく。
森のいのちを潰さないよう気をつけて、駆けて跳ねて翔んで――踊るようにしなやかに、フェ・デ・フルールは森に、生きる。
フェ・デ・フルールの舞うようなすがたに、あたしのココロに、あたしとつながってくれた『森』そのものも反応する。
森に吹く風の音が、たしかに変わった。
風の声を、あたしはよく聴く。
風はあたしに話してくれる。風が吹く方向を、伝えてくれる。
伝え聞いた風の行き先を必死におぼえて、森の声もちゃんと聴く。
魔女になぎ倒されるだけだった木々が、風と手を取り合うココロをあたしに見せた。
風に揺れた木々の枝が、緑の葉が、地に咲く花が、魔女とあたしの間に壁をつくる。
森が、魔女の視界を封じたんだ。
風だけのびのび吹いているから、あたしはその風にフェ・デ・フルールの身をまかせた。
フェ・デ・フルールが、風に乗って木と木を飛び移りながら、両手を魔女に突き出す。
……両手を伸ばしたのは一応、さっき魔女がやったことの、仕返しのつもり。
フェ・デ・フルールの両手がぴかっと光る。
光の粒が集まる両手を、前へ前へと突き出して。
風の向きに合わせて、その光の粒を一気にぶっぱなした。
光の粒がそれぞれ風に運ばれて、流れるように魔女の身体に叩き込まれる。
魔女のカラダに触れた光の粒が、魔女のはだに突き刺さって食い込んで、なかへ、なかへと潜り込む。
そして魔女のなかみに入り込んだ光の粒たちは、魔女のソンザイに反応して、『開花』する。
「芽吹け……! 咲け……!!」
花が咲くようにぱっと粒は弾けて――魔女のカラダの内側で、小さな爆発を一気に起こした。
あたしが風に乗せて送り込んだ光は、フェ・デ・フルールが作った花みたいなもの。
あの花はあたしのトゲトゲしい性格のせいか、キライなものに触ったらひっどい爆発を起こすみたいだ。
フェ・デ・フルールに乗った時、自分にはそういう力があるよって、フェ・デ・フルールはコトバじゃないつながりで、あたしのココロに教えてくれた。
あたしはそれを、たしかに感じた。
フェ・デ・フルールが伝えたアドバイスもダイジ、なんだろうけど。
これはあたしが森とつながったから、森の在り方があたしのココロに入り込んだから、思いついた戦い方だ。
森をあんまり壊さないで、魔女だけボコボコにするための戦い方。
願った通り、魔女はカラダのなかのあちこちでいっぱい起きている爆発に、なかみをぐっちゃぐちゃに叩かれて潰されて焼かれて、転がるようにのたうち回っている。
それがまるで、踊り狂っているようにも見えた。
爆発で吹っ飛んだ魔女の一部が、フェ・デ・フルールの足元にまで落ちてくる。
厄介な、やたら長い腕は特に念入りに爆発で壊しているけど。
壊れてる途中の魔女から感じるフンイキが、あたしのココロに伝わってくるものが、なんか、こわい。
「ひ……っ!?」
――サイアクなことに、予感は当たった。
爆発の勢いにカラダをまかせるように、魔女がこっちに突っ込んでくる。
壊れかけの魔女のブキミなダンスは、あたしを巻き込もうとする。
「や、やだ……っ! くるな、くるなあ……っ!」
魔女も、痛いと反撃するんだ。
仕返しするんだ。
アイツ、あたしに怒ってるんだ。
あたしのことも壊そうとしてるんだ。
どうしよう、ヤダ、こわい。
おびえるココロが、カラダのふるえが一気にくる。
何かとつながりやすいあたしのココロが魔女の敵意にあてられて、ビビっておびえて、しおしお元気をなくしてしまう。
こわくて動けなくなったあたしが、フェ・デ・フルールをうまく動かせるわけもなくて。
――魔女が、ぶつかる。やられる。
こわいキモチが限界をこえて、目を閉じそうになったとき。
「……っ、クイーン・オブ・ハート!!」
となりにずっといた、このコが。
アリス=クロスロードが、とつぜん叫んだ。
フェ・デ・フルールと魔女のあいだに割って入るように、青い【レディ】が飛んでくる。
大きな鎌を構えたソイツは、鎌を地面に突き立てて、それでソイツ自身のカラダを支えて――カラダ全体で、魔女の突進を受け止めた。
なかみが燃えてて壊れかけであちこちのカラダが破れてる魔女は、なかみから炎も見えてて、敵意たっぷりで、まともにぶつかったら危ないはずなのに。
クイーン・オブ・ハートとかいう【レディ】は、魔女とぶつかってもびくともしなかった。
でも、魔女の様子がなんだかおかしくなる。
クイーン・オブ・ハートにさわった瞬間、魔女の勢いがしゅんとなくなってしまった。
勢いを殺された魔女の動きが、ぴたっと止まりかけて、すぐ我に返ったように魔女は飛び退き、あたしたちから距離を取る。
なんか、ヘンな壁が魔女を阻んだみたいだ。
クイーン・オブ・ハートのカラダをよく見ると、薄くてきらきらした膜に全身を覆われている。
……バリア? みたいなものが、クイーン・オブ・ハートを守ってるのかな。
コレはたぶん、このコの、アリス=クロスロードの【レディ】なんだろうけど――。
「……ぁ……」
あたしの目元を撫でる、あったかいもの。
それにやっと気づいて、あたしは情けなく声を漏らした。
アリス=クロスロードは、さっきからずっと、あたしのわがままなお願いを聞いてくれていた。
あったかい指で、弱虫なあたしのなみだ、拭ってくれてる。
このコ、もう血まみれでボロボロで、目を開けてるのもつらいはずなのに。
あたしのおねがい守って、今もやさしい眼で、あたしのこと、ちゃんと見ててくれてる。
「……見てるよ、ルキちゃん。私、ちゃんと見てるから。ルキちゃんが頑張ってるところ、ルキちゃんの素敵なところ……となりでちゃんと、見てるから」
そのコの声が、音が。
あたしにとっては、すごく、すっごく優しく聴こえて、あたしはこの音がすきで。
そう。そうだよね。
あたし、このコを守るって、魔女に勝つって決めたんだ。
ちゃんと助けるんだ。
強く、やさしくなるために、がんばるために、まずこの魔女に勝つんだ。
優しい声が、なみだを拭ってくれる指が、あたしに大事なことを思い出させてくれる。
――最後まで立ち向かう勇気を、くれる。
操縦桿を、両手で握る。つよく、つよく。
魔女に勝つ、やっつける。
たぶん、あとすこしでいける。
森とはまだつながってる。
風とも、まだつながってる。
風の行き先、今もわかる。
さっきまでの魔女の動きを思い出す。
爆発の痛みをそのまま突っ込む勢いに変えて、魔女は仕返ししようとしてきた。
じゃあこっちも、仕返し。
仕返しのし合いでもうわけわかんないけど、仕返しったら仕返し!
風の声を、聴く。
クイーン・オブ・ハートが割って入ってくれたおかげで、まだ魔女とは距離がある。
風の流れを待つ時間が、ある。
フェ・デ・フルールの足の裏にキモチを集中させる。
いまごろ、フェ・デ・フルールの両足はぴかぴか光っているはず。
光の粒がたくさん集まって、『開花』の準備をしている。
フェ・デ・フルールがいま踏んでるのは、地面じゃない。
さっきぶっ飛んできた魔女の破片を、フェ・デ・フルールは踏みつけてる。
そう、だ。
足裏に集まった光は、この花は。
あたしのキライなものに触ったら、すっごい爆発、起こすんだ。
魔女がのろ、と動き出したころ。
風の向きも、思い通りになった。
「芽吹けッ!! 咲、けぇッ!!」
――フェ・デ・フルールが、走り出した。
あたしは、足裏に集まった光の粒をぜんぶ『開花』させて、小さく爆発させる。
小爆発の衝撃、爆風、みんなが一気にフェ・デ・フルールのカラダを押し出す。
風が、背中を押してくれる。勢いをつけてくれる。
止まることなんて考えられないフェ・デ・フルールは、あっという間に魔女に近づいて、タックルかまして。
魔女がよろけた隙に、まだ『開花』しきってない光の粒がちらつく脚で、魔女の角を蹴りつけた。
蹴りの衝撃、休むヒマなく襲った光の粒の『開花』――爆発。
力を込めた攻撃は、魔女の角を叩き折って焼き切った。
悲鳴が、あがる。
魔女を倒した時に、イヤというほど聴いた悲鳴だ。
あたしには届きすぎちゃうその声がイヤで、カラダがまたふるえる。
魔女は今、倒せた。消えていくのも見える。
でも、ふるえが止まらない――。
「……ルキちゃんっ」
「……ぇ……」
――きゅうに、あったかいのがカラダぜんぶに広がった。
気づいたら、あたしはとなりの、ちいこいオンナに抱き締められていた。
なみだ、拭うだけじゃなくて。
このコは、あたしをぎゅっと抱き締めてくれて。
「ありがとう……っ、ルキちゃん、すっごくかっこよかった……」
こんな、やさしく、笑ってくれて。
うれしいのに、あたしも笑いたいのに。
なみだがもっとあふれて止まんなくて、あたしはただ泣きじゃくりながら、このコを抱き締め返すことしかできなかった。
あたしの泣き声の、ほかに。
フェ・デ・フルールの稼働音、みたいなものが聴こえる。
森をつくるすべての声が、聴こえる。
このオンナのコの、心臓の音が聴こえる。
その音が、ぜんぶやさしくて、キレイで。
ホントに、イヤなんかじゃなくて。
耳障りだったもの、キライだったもの、こわかったもの。
あたし、もっとちゃんと知りたい。
キライだったもの、ちゃんと好きになれるような、あたしになりたい。
このコのことも。
あたし、あんたのこと、ちゃんと知りたい。
泣き終わったら、ね。
なみだ、止まったら、ね。
ねえ、アリス=クロスロード。
あんたの名前、声に出して呼びたいよ。
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