表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狂想爆炎ピアチェレディ!  作者: ハリエンジュ
第三話『ガール・ミーツ・ガール』 ~アリスパート~
25/29

その12 リボンむすび

狂騒(きょうそう)爆炎(ばくえん)ピアチェレディ!

第三話『ガール・ミーツ・ガール』

その12 リボンむすび


teller(語り手):アリス=クロスロード




 森で起こった魔女騒動から一夜明けて、ルキちゃんの気持ちも落ち着いて――赤く染まっていた空は、すっかり元通りの青い色。

 溢れんばかりの澄み渡る青が、シルキオの街の上に広がっている。

 ……うん、今日も素敵な空だ。



 ルキちゃんとフェ・デ・フルールが魔女リカルカを倒したあと、私たちがどうしたのかというと。


 まず、ルキちゃんが【妖精(フェアリー)因子(ファクター)】の力を酷使したことでだいぶ精神的に疲弊してしまい、休息が必要になった。

 それから、私は私でだいぶ無茶をしてしまったから怪我が多すぎたり出血がひどかったりと身体的なダメージが相当だったから、休息に加え迅速な手当てが必要になって。

 お互い必要な休息を取るため、私たちふたりは昨夜、洋館……の残骸に泊まった。


 ルキちゃんは洋館のこと、ハリボテって言ってたけど……あの洋館もまた、ルキちゃんを大事に守ってきたレディの、フェ・デ・フルールの一部分なんだと思う。

 なにより、ハリボテだなんて呼んでるルキちゃん自身が洋館にも、洋館を覆う茨の蔓にも、とても愛着がありそうだった。

 ちょっと素直になれないところがあるけど、好き嫌いがわかりやすいルキちゃんは、やっぱりとても、まぶしいくらいに可愛かった。



 それで、いま。

 青空の下、私の姿を手鏡片手に確認する。


 ……これは……なんというか……。


屍体(したい)、あらため……ミイラ……?」


 独りごちて、ちょっと切なくなって笑ってしまう。

 いちばん大きな怪我が頭の傷だったから、包帯の範囲が顔にまで広がっていて、結構なぐるぐる巻きで……。

 ……うん。むかし、本の挿絵で見たミイラってこんな感じだった気がする。


 でも。

 腕の部分を見て、今度は嬉しくて笑う。


 片腕の包帯は、ルキちゃんが巻いてくれた。

 懸命なルキちゃんの試行錯誤の末にうまく巻かれた時、ルキちゃんが結んでくれた部分がリボンの結び目に似ていてちょっとかわいい。うれしい。


 最初はルキちゃんに渡したくても渡せなかった救急箱。

 それを昨夜はルキちゃんが使って、私を手当てしなきゃとわたわた頑張ってくれていた光景を、ずっと忘れたくないと思った。


 ぜんぶ手当てするってルキちゃんは言ってくれたけど、ルキちゃん、包帯を巻くのが初めてだと言っていたから……昨夜はルキちゃんと二人で治癒術の教本の図解を見て、救急箱を手にああでもないこうでもないと処置を重ねて。

 結局、朝になってからシルキオの宿屋の女将さんがほとんどの包帯を巻き直してくれた。


 あと、女将さんには叱られてしまった。

 昨日何があったのか、私が連れてきたルキちゃんと私がどんな出会いをしたかは、聞かないでおいてくれたけど。

 今朝、女将さんに言われた言葉が頭から離れない。



――『自分を大事にしなよ、アリスちゃん。あんたにとっちゃどうってことない傷でも、隣の子からしたら、見てるだけで苦しいくらいに痛いんだからね』



 その言葉を受けてルキちゃんの方を振り返った時、傷だらけの私を見たルキちゃんの瞳が潤んでいたことも、私は一生忘れたくない。


 手先が器用な女将さんに手当てしてもらっても、ミイラそっくりの包帯ぐるぐる巻きになってしまうほど私は重傷だったらしい。

 しばらくは、この仰々しく包帯が巻かれた傷たちと仲良くお付き合いしなくてはならないみたいだ。

 ……戒め、だなあ。

 少しは旅費が貯まったから、これからまたWITTS(ウィッツ)イース・トーヴ支部を目指すことになるわけだけど……この姿をスズベルさんに見られてしまうのはちょっと避けたい。

 そういう羞恥はある自分が浅ましい。

 ……着くまでに、少しは治ってるといいなあ。


 やっぱりちゃんとした治癒術、使えるようになりたい。

 もっと勉強頑張ろう。


 そんな決意とともに、女将さんにお礼を告げたのがさっき。

 お世話になりました、と頭を下げたら、もう行くのかい、と笑い混じりに呆れられて――またいつでも遊びにおいで、と最後は優しく頭を撫でてもらえた。


 女将さんの愛情深さとか、叱ってくれる面倒見の良さとか、優しさとかが、こどもの頃の私の面倒を見てくれたキャロッタ村の産婆さんをぼんやりと思い出させて――懐かしくて。

 ほんとはちょっとだけ泣きそうになってしまったけど、今日のお別れは笑ってしたくて。

 女将さんと笑って手を振り合って――。


 ――それでいま。青空の下。お昼。

 私はシルキオの街の入口まで来ていた。


 そして、私の後ろには女の子。


 水色に近い髪色のショートヘア。

 綺麗な髪を覆い隠してしまいそうな、うさぎの耳のような飾りがある、暖かそうな帽子。

 首元にも、暖かそうで柔らかそうなもふもふのマフラー。

 近くだともっとわかる、180cmは超えてるだろう高い身長。

 だけどかわいくて、白いリブニットと、短い丈のスカートと、ロングブーツが良く似合う、きれいなひとでもある女の子。


 ルキちゃん。

 留輝(るき)=フローライトちゃん。


 ここまでずっと私のそばにいてくれて、後ろを雛鳥みたいについてきてくれたルキちゃんが、もじもじ何か言いたそうにしている。


 私もとても、ものすごくルキちゃんに言いたいことがあったけど、まずはルキちゃんの言葉を待とうと思って。

 しばらくこうして、見つめ合ってる。


 ……ルキちゃん、背高いなあ。

 いいな、かっこいい。

 私はちっちゃいから、もっと身長欲しいな。

 ルキちゃんとは身長だけじゃなくて、髪の長さもぜんぜん違うや。ルキちゃん、ショート似合う。すてき。

 髪の色も、澄んだ青色ですごくきれい。優しい色だ。


 じっと、ルキちゃんを見過ぎてしまったかもしれない。

 ルキちゃんは照れたように頬を染めて、何度も視線を逸らしてしまって。


 でも何度も迷った末に、ルキちゃんは私をまっすぐ見てくれた。

 私を見て、恥ずかしそうに言ったんだ。呼んだんだ。


「っ、…………ぅ、あり、……ぅ、あ…………、り…………す……すー……っ……、すー……ちゃん……っ! あの……、すーちゃん……!」


 ――初めて呼んでもらえた名前は、まさかのあだ名に進化した。


 予想外のその響きは、予想以上に嬉しくって。

 私は夜が明けてから、いちばんの笑顔になれたと思う。


「……うん。うん……っ。……なあに、ルキちゃん?」


「……! っ、ぅ、あ、あの……すーちゃん……っ……あ、あたし……あたし、ね……っ」


「……うん。大丈夫、だよ。ゆっくりでいいよ。私、聞いてるよ。……ずっとずっと、聞いてるよ」


「!! …………すー、ちゃん」


「……うん?」


「あ、あたし……WITTS(ウィッツ)……行ってみたい……っ」


「っ……うん」


「す、すーちゃんみたいに、夢、とか、なりたいジブン、とかは、別に、ない……けど……ふぇ、フェアリーファクターのチカラの、コントロールみたいな、やりかた……知りたいの……」


「……うん……うん。すごく、すごく、いいと思う……」


「っ、ぅ……あ、あのね? あ、あたし……ずっと、ジブンの、こと……知らないまま、生きてきちゃったから……なんで、魔女があんなにいっぱいあたしを狙ってたのか、とか……あたしに勝手にイロイロ教えた……オンジン、いるんだけど……そいつのことも調べたい……から……だから……」


 そこまで言いかけて、ルキちゃんが私からまた目を逸らしてしまった。

 顔を背けられてしまったけど、耳やほっぺたが赤く色づいている。

 何度かこっちに視線が向けられるけど、綺麗な瞳がゆらゆら揺れている。


 もう一度、ルキちゃんが私の方に身体を向けた。

 絞り出すような声が、小さな声が、頑張っている声が、とどく。


「……す、すーちゃん……WITTS(ウィッツ)、行くんだよね…………あ、あの…………あたし……あたし、と……………………、っ……」


 そこまで、言ってくれたのに。

 そこでルキちゃんは、泣き出してしまった。

 いっぱいいっぱいになってしまったらしい。

 涙がルキちゃんから声を、言葉を奪ってしまう。


 私はルキちゃんの涙を拭うために近付いて。

 片手の指で、そっとルキちゃんの涙を掬いながら、訊いた。


「……ルキちゃん、手、貸してくれる?」


「……ぇ……? て……?」


 ルキちゃんの涙に触れていない方の手を、ルキちゃんへと控えめに伸ばす。

 ルキちゃんが巻いてくれた包帯の、リボンむすびが見える手。


「……ケガ、あるからかな。手、貸してもらえないと……私、ちょっとふらついちゃうの。……私もひとりじゃ、だめみたい」


「っ、え…………、ぅ…………」


 差し出した手を、ルキちゃんが見ている。

 ルキちゃんの片手が動いて、でもまだ躊躇ってた。

 まだ何かが、不安の影が。

 こんなに頑張り屋さんのルキちゃんから、勇気を奪おうとしている。


「……すーちゃん……」


「うん?」


「……あたし、こわい、よ……あたしきっと、また……これからも、すーちゃんにひどいこと、言っちゃう……ひどいことしちゃう……すーちゃんを傷つけたり、困らせたり、する、よ……? あたし、そういうやつ、だよ……だから、こわい……よ……」


 ルキちゃんは、怯えていた。

 触れ合うのが怖いと動けなくなってる姿。

 それを見て私は、遠い知識を思い出した。


「……昔、本で読んだんだけどね。ルキちゃん、『ヤマアラシのジレンマ』……って、知ってる?」


「……へ? じれ……? な、なに、それ……?」


「本で読んだことがあるの。……冬の寒い日の話」


「ふ、ふゆ……?」


「うん、寒い季節のお話。二匹のヤマアラシが、身体を寄せ合ってあっため合おうとしたんだけど……ヤマアラシって身体にトゲがあるから、お互いのトゲがお互いを刺しちゃって……でも痛くて離れたら、やっぱり寒くてね。それから二匹のヤマアラシは、何度も何度も近づいたり離れたりして……最後は、お互いを傷付けることなく暖め合うことができる良い距離を見つけられた……って話だったかな」


 遠い知識、遠い物語。

 それになぞらえて、私とルキちゃんのことを、改めて考える。


「……それ、きっと他の生き物の関係も同じだと思うんだ。私も、ルキちゃんを傷つけちゃったよ。悲しませちゃったよ。……きっとまた傷つけちゃう。でも私……ルキちゃんと一緒にいたいんだ。触れ合ってたいんだ。トゲごと、抱き締め合ってたいんだ……」


 私はまだきっとルキちゃんへの言葉が足りない。

 でも、これからたくさんお話ししたい。

 お喋りし合っていきたい。ずっと。

 だからもっと私は今、ルキちゃんに自分の気持ちを伝えたいと思った。

 ……できれば気持ちが、ルキちゃんの迷う心に届けばいいと思った。


「……私、ルキちゃんと仲良くなりたい。同い年だから、だけじゃないよ。それだけじゃないよ。同い年なら、きっと世に溢れてる。私はルキちゃんがいいの」


「あ、あたし、が……?」


「もし同い年じゃなくたって、私はルキちゃんのことまぶしいって思ってた。憧れた。仲良くなりたいって思ったよ。……私……私ね」


 手を差し出したまま、恥ずかしいくらいの本音を、ルキちゃんの目を見て伝える。


「私、ルキちゃんが大切だよ。ルキちゃんを想う気持ち、無視したくないの。……もっともっとこの気持ち、大きくしたいの。だからもっと、一緒にいたい」


 揺れたルキちゃんの瞳も、ふらつくルキちゃんの手も。

 私は、大好き。


「……ね、ルキちゃん。改めて、誘わせて。……私と、一緒に行こう。一緒に旅をしよう? ルキちゃんのそばにいたいって言った時から……話したいこと、たくさんあるんだ。ルキちゃんとの時間、私はもっと欲しい。だから」


 差し出した手を、ほんの少し伸ばす。

 ルキちゃんが、手を取りやすいように、


「……ルキちゃん。私に手、貸してほしい。ルキちゃんの助けが、私には必要なんだ。……それに、ね。私、ルキちゃんと手をつなぎたい。……手、つなご? 一緒に、どこまでも歩こう……?」


 私の願いに、ルキちゃんの瞳が揺れて、でも瞼がぎゅうっと閉じられて。


 恐る恐る伸ばされたルキちゃんの綺麗な手が、やっと。

 私の手を握ってくれた。

 嬉しくて、ぎゅっと、強いくらいに握り返す。

 手をつなぐ、むすぶ。

 包帯のリボン結びが、揺れる。


「……すーちゃんは、あたしが助けるから」


「……うん、嬉しい。ありがとう、ルキちゃん」


「す、すーちゃん時々ばかだから……っ、すぐムチャするから、あたし、ちゃんとすーちゃんを、ま、守ったげる……! すーちゃんが自分をダイジにしなかったら、あ、あたし、怒っちゃうから! き、気をつけて、ね!」


「……うん。気をつける。心配かけて、ごめんね。……ありがとう、ルキちゃん」


 繋いだ手と手、それを離さないように、私たちは歩き出す。

 私のクイーン・オブ・ハートとルキちゃんのフェ・デ・フルールは、いまはなんと私とルキちゃん、それぞれの心の中に収納されている。

 【妖精(フェアリー)因子(ファクター)】の力があればそういうこともできるって、ルキちゃんはフェ・デ・フルールと繋がって聞いたらしい。

 すごい、なあ……。


「ね、ルキちゃん。今度グローブ買おう? おそろいの」


「う、うん……すーちゃんとおそろい、うれしい……」


「……あと、ね。ちょっとだけ、このまま、てをつないだまま、歩こ?」


「! うん……」


 リボンむすびを、揺らしながら。

 手と手を繋ぎ、絆を結びながら。


 私たちは二人、触れ合って、心と心を温め合って――新しい物語に進むため、歩いていく。

 どこまでだって、ずっと、




teller(語り手)留輝(るき)=フローライト



 ……すーちゃんといると、フシギだ。

 っていうか、ヘンだ。


 はずかしいキモチいっぱいなのに、こわいキモチもまだあるのに、ちがうの。


 はずかしいのに、しあわせなんだ。

 こわいのに、ワクワクしちゃうんだ。


 誰かと、こうして手をつないで歩いてるのも、慣れないよ。

 でもイヤじゃない。

 くすぐったいあったかさ、あたし、今ならきっとスキなんだ。


 つないだ手に、力を込める。


 すーちゃん。

 あたしのハジメテの、ともだち。

 すーちゃん、だいすき。


 キライだったものも、こわかったものも。

 甘ったるいだけのキレイゴトも。

 あたし、すーちゃんと一緒なら、スキになれる気がする。

 変わるために、がんばれる気がする。


 空から降る光、まぶしいけど。

 外の光は強すぎて、暑いくらいだけど。

 きらきらの世界を、あたしは、これから。

 あたしをきらきら可愛いと言ってくれる、誰よりあったかい女の子と、これからもきっと。


 ふれあって、たまに傷つけ合って、でも最後にはこうして手と手をつないで、歩いていける。ぜったい。


 このやさしいキモチが、あたし、留輝(るき)=フローライトのはじまりだった。


 スキにあふれた、はじまりだった。



 つないでむすんだ手、ふれあった手、あったかい、すき。



 すーちゃんが教えてくれたあったかさ。

 あたしもいつか、すーちゃんに返せますように。


 ……すーちゃんのココロ、ポカポカあっためられますように。




◆4話につづく!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ