その10 開花
★ 狂騒爆炎ピアチェレディ!
第三話『ガール・ミーツ・ガール』
その10 開花
teller:留輝=フローライト
◆
会いたかったオンナを抱き締めながら、あたしは考える。
……そう、だった。
コイツに言いたいことが、言わなくちゃいけないことがあるんだ。あたしには。
「あ、の……」
「……? なあに、ルキちゃん……?」
「……ごめ、ん……」
オンナが目を丸くする。
あたしからは、コトバがあふれる。
「……キライって言って……、いらないとか言って……きもちわるい、キモいって言って……ひどいコトバ、いっぱい言って、ひどいこと、いっぱいして……怒鳴って、嫌がって……あたしのせい、で、こんな……ケガ、させて……ごめん、ごめ、ん……ごめんなさい……」
……サイアク、だ。
コトバといっしょに、なみだ、あふれてきちゃった。
こんなの、泣き落としみたいだ。
世の中はサイアクなものだらけだと思ってるけど、ホントに一番サイアクなのは、あたしだ。
ひどいことばっかり言って、みんなキライだって喚いて、逃げて閉じこもって、安心した気になって。
強いフリして、でもそんなの思い込みで、強がりで……サイアク、なんだ。
あたしにキライなものやこわいものがいっぱいなのは、すぐキモチが傷ついちゃうから、だ。
何もかもとつながりやすいのがイヤで、ココロに流れ込んでくるぜんぶがこわくて、つらいものとの向き合い方なんて、あたし、知らなかった。
向き合えなかったから、自分の弱いとこ、ヤなとこ、うまく気づけなくて、認められなかったんだ。
――あたし、いつもそうだ。ずっとそうだ。
弱くてわがままで怖がりで、思い通りにならないもの嫌ってばっか。
震えながら、ごめんなさいごめんなさいって繰り返すあたしの背中を、オンナは――アリス=クロスロードは、優しく撫でてくる。
背中にふれる、その優しい手に、ぬくもりに――あたしはホントの意味で、安心する。
コイツはあたしに、やさしい、かわいい、きらきら、だとか、つよい、カッコいい……だとか、恥ずかしいことばっかり言ってきたけど。
……コイツの方がよっぽど、やさしいしつよいし、かわいいよ。
あれ。
なんでだろ、なにか、思い出しそう。
確か、このオンナ、こんなこと言ってて――。
◆
――『WITTSの人に、この【妖精因子】の力を、教えてもらって……色々助けてもらって……その人、とても素敵な人で、ね……わ、私、その人のことが、す、すき、で……』
――『そ、その人を好きになって……私……変わりたい、って思ったの……』
――『それまでの私、本当になんにもなかった……でも今は……私にも何か力があるなら、それを誰かの役に立てたいと思った……私を助けてくれた、大好きなあの人の役にも立てるような……素敵な人に、なりたいって……思って……だから私、旅、してるの……WITTSに、入るために……』
◆
……あ、コイツ。ほんとに、つよいな。
すきなひと、とか、よくわかんないけど……多分このオンナには、あたしみたいに、オンジンがいる。
でもこのオンナは、あたしとはちがうんだ。
コイツは、自分の大事なヤツを追いかけたんだ。
おんなじになりたいって願ったんだ。
大事なヤツの役に立ちたいって、思えたんだ。
それで、がんばれるんだ。コイツ。
「…………あーあ…………」
「……ルキちゃん……?」
オンナに抱きついたまま、寄りかかるように情けなく、あたしの体重ってやつをあずけた。
あーあ。
いいなあ、こいつ。つよい、なあ。
あたしも、コイツみたいに強かったら、追いかけられる強さが、あったら。
――急にいなくなっちゃったオンジンに、会いに行けたのかな。自分から。
そしたらオンジンのこと、キライになんないで済んだの、かなあ。
……あたしも、やさしく、なれたのかなあ。
……あれ。
「……っ、ぅ、え……!」
急にびっくりして、ヘンな声がでた。
――とつぜん、安心が崩れたからだ。
はだが、ざわざわする。
イヤなものを感じ取ってる、つながってる。
なんで、なんで?
あたし、さっきちゃんとやっつけたのに……!
ぐらぐらと揺れるコックピットの中で、すがるようにオンナを抱き締めてると、ハッチの外に、黒くておっきな影が見えた。
――魔女、だ。
でも、さっき襲ってきたやつとはベツモノだ。
新しいヤツ、来ちゃったんだ。サイアク。
なんでか、魔女はさいきんいっぱい現れる。
襲ってくる。
狙いはあたし? それともこのおっきな、洋館みたいな【レディ】が目立つせい?
「ルキちゃん、さがっ、て……っ! ぅ、く……っ」
オンナが、ちいこいカラダのくせにあたしを庇おうと前に立とうとした。
戦おうとしたんだろう。外にはコイツの【レディ】がいるはずだから。
――でも、オンナはふらついた。
あたりまえだ。
だってドバドバ血、出てるもん。
あたしなんかに会う為に、あたしなんかのココロを助ける為に、コイツはバカみたいなムチャしちゃったんだもん。
あたし、なんかのために――。
「……? ルキ、ちゃん……?」
――あたしは服の袖で、オンナのほっぺやらなにやらを伝う血を、拭う。
あたしの白っぽい服が、コイツの血で赤く染まる。
だからなんだ。
コイツの血が、コイツが、きたないわけあるか。なめんな。
「……ケガ、ごめん。あとで……手当てのやり方、ちゃんと教えて。あたし、やってみるから、がんばるから……」
ちょっとだけ未来の約束を、お願いした。
未来が来るって、信じていたかったから。
「だから……ごめん。もうちょっとだけ、頑張ってて。立ってて、起きてて……おねがい、あたしのこと、見てて……」
オンナの、手をとる。
その手を、あたしの目元に運ぶ。
オンナがちょっぴりびっくりした気がした。
だって今のあたし、泣いてるもん。
魔女とか、これからあたしがやろうとしてることとか、いろんなもの、こわくて、カラダふるえて、なみだ止まんなくて。
――でも。
「……おねがい。あたしのなみだ、拭ってて……あたしまだ、弱いから、泣き虫だから……こわくて、ふるえちゃうから。あんたいないと、だめなんだ、あたし……」
目元にむりやり触れさせた、オンナの手に、指に、オンナのココロが宿った気がする。
あたしのなみだ、拭ってくれた。
……やっぱり、あったかくて、やさしくて、いとしい。
こんな、あったかいのとかさ。
やさしいのとか、安心とか。
知っちゃったら、あたしもうだめだよ。
当たり前だったひとりぼっちを、当たり前にしたくなくなる。
このあったかいの、なくなるのやだ。
だからあたしが、守るんだ。
オンナになみだを拭いてもらいながら、オンナの目を見て、あたしはまだわがままなお願いばかりする。
「……おねがい。あたしが強くやさしくなれるよう、そばにいて、たすけて……!」
「……ルキちゃんは、もうすっごく優しいよ。強いよ。素敵、だよ……?」
「……ちがう。ちがうの……」
ふるふると、いかにも弱々しく首をヨコに振るあたしを、オンナがふしぎそうに見ている。
あたしはただ、今のあたしのホントのことを言った。
「……あたし、強くないの。やさしくなんか、ぜんぜんないの。……でも」
でも。
――でも!
「……いまから強く、やさしくなる! そうなれるよう、これからがんばる! ここであんたを守って……あたし、ちゃんとはじまるから!」
オンナを抱き寄せて、コックピットの……確か、操縦席、に座る。
少し目を閉じて、オンジンの言葉を思い出す。
……確かこれは、勇気の呪文。オンジンは、むかしそう言ってた。
まだなみだでぐしゃぐしゃな目を、開ける。
呪文をコトバにする準備のつもりで、頭の中で呪文を繰り返す。
そのあいだも、守りたい、がんばりたいって、何度も願って――。
そう願った時。
いつもあたしと一緒にいた四体のロボットが、操縦席に居るあたしとオンナを囲みはじめて――ガチャンガチャンと、つながり合って姿かたちを変えていく。
それを見ながら、あたしは、えっと……そう、操縦桿を、両手で握った。
……オンジン、そうだ、言ってた。
このおっきな洋館は、あたしを守るためのハリボテなんだって。
ほんとのすがたは、あたしをずっと守ってくれてる四体のロボが、あたしに応えて作ってくれるって。
あたしの、ほんとうの、【レディ】は――。
「…………『フェ・デ・フルール』、テイルスタートッ!!
Hey,kid ! Hey,damn!! Hey,mister!? No!! She is "Mr.Fairchild"!!」
――呪文だと思うコトバを、叫んだ時。
あたしたちを、コックピットを囲んでいた四体が、完全に繋がり合った。ひとつに、なった。
ひとつの、ロボットになった。
パステルカラーとかいうのであれこれ塗られた、やたらカラフルで、でもフシギとそんなに色が騒がしくない機体。
装甲がところどころ、咲いた花みたいな形になってて――腰とか、そう。花のスカートみたいになってる。ロボットだから硬いくせに。
フェ・デ・フルール。あたしの【レディ】。
たしか、『花の妖精』って意味だって……オンジンは言ってた気がする。
呪文にあった、ミスターフェアチャイルドは……バラ、とかの名前だった気がする。
花。花の、妖精。
……いいんじゃないの。
あたし、そうなんでしょ。フェアリーファクター、ってやつなんでしょ。
となりでずっと、なみだを拭いてくれてる――花みたいに可愛いこのコと、おそろい。
やろう。魔女、やっつけるよ。フェ・デ・フルール。
あたし、ここで勝たなきゃだめなんだ。
まず勝ってから、がんばるんだ。
強く、やさしくなりたいんだ。
暴走とかしたくない、もうこのコを傷つけたくない。
このコと一緒にいたいんだ。守りたいんだ。
このコ、あたしを助けに来てくれた。
だから。
「――今度はあたしがちゃんと、助ける! 行くよ……っ、フェ・デ・フルール!!」
――花の妖精を、あたしは叩き起こした。
あたしだって、今から目覚める。
ここから、きれいに咲いてやる。
だって、言ったもん。
今からあたし、ちゃんとはじまる!
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